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借りてきた参考書は持ったし、ノートと筆記用具もある。


携帯に財布……、うん、準備OK!!






「なんだ、芹菜は今日も出掛けんのか?」




まだ昼食中の朔名が目をぱちくりさせていってきた。





「うん、友達の柚子ん家で勉強会」

「ああ、明日だもんなテスト。学生は大変だよなあ」

「ほんとだよ、早く卒業したいわ」

「俺も勉強とか大嫌いだったよ」

「あ、じゃあ勉強会一緒にいく?」

「いや俺まだ昼飯食べてるから」

「手足は動かせるでしょ」


「手足もまだモグモグしてるんだ」

「ふざけてんのか?」










「……ねぇ、いかないの?」





すでにリビングから出ようとしている翔音くんがしびれを切らしてそういった。




「あ、ごめん今いく!!」





私は急いでバッグを持ってリビングを出る。






「いってきまーす」

「……いってきます」

「おー、いってらー」



今日の勉強会、頑張らないとね!!


翔音くんと一緒に学校にいくと、みんなはすでに集まっていた。



どうやら私たちが最後だったようだ。





すると私たちの目の前に黒い車が1台止まった。






え、リムジン……?






「さあみなさん、どうぞお乗りくださいな」






私たちはぎこちないながらにも、そのやたら長い車に乗り込んだ。














「「「「…………」」」」






着いた場所は言い表せないくらい綺麗で広い豪邸。



壁は白く屋根は紺色、あちこちに装飾もしてある。



庭には噴水、美術室とかにありそうな白いオブジェ、手入れの行き届いた花、花、花………。





こ、これは………。






「柚子っ、あんたお嬢様だったんだね!!すごい、あたしこんな豪邸見たの初めて!!」




玲夢がすごいはしゃいでいる。



私も柚子がこんな家に住むお嬢様だってことは今初めてわかった。





「すっげえええっ!!こんなすげえ家で俺勉強すんのかあ!!うわあああ探検したいなあっ」

「橘先輩、行儀よくしてくださいね」

「おう、わかってるって!!」




桐原くん、お母さんみたいだ。








「本当にすごい家だね」

「あ、新井くん」

「芹菜チャン、迷わないでね」

「え、私限定?」

「1番迷いそうな顔してるから」

「失礼だな」



まあたしかに、この広いところで迷ったら絶望的かも。




私たちが案内されたのはもちろん柚子の部屋。



途中、螺旋階段とか赤いカーペットだとかテレビでしかみたことないものがあったけど、気にしたらだめだと思う。





柚子の部屋………部屋っていうかリビング以上に広いんだけど!?









「さ、早く勉強会始めてさっさと終わらせよっ!!」




玲夢の言葉にみんなそれぞれとりかかる。




橘くんに至っては、この広すぎる部屋に感動してそれどころじゃないみたいだけど。










「うぅぅぅああああ……」

「……何重低音だしてんのさ芹菜」

「玲夢、私……一生英語できない気がする」

「それあたしも一緒…………あ、そうだ、翔音くんに教えてもらおーっと!!翔音くーんっ」




「……?」

「あのさ、英語教えてください!!」

「……ん、いいよ」

「やったああありがとうっ」






翔音くんの返事にぱあああっと嬉しそうに笑った玲夢は翔音くんの隣に移動した。





すごい嬉しそうだな玲夢。

イケメン大好きなのは相変わらずだ。



けど本人曰く、イケメンは好きだけど恋愛感情はわかないみたい。


………………不思議だ。








「どうしたの芹菜チャン、ずっと翔音クンのこと見てるけど」

「え、違うよ、玲夢を見てたんだよ」

「……ふーん?」


何だよそのニヤニヤした顔はあああ!!



……ていうかこんなこと考えてる場合じゃなかった。



早く英語やらなきゃ……。





英語なんて、私海外いく予定ないのになあ。

なんであるんだろう。





英語が理解できる翔音くんたち、あなた方の思考回路はどうなっているんです?








……そういえば、昨日も似たようなこと考えてたなあ。



あの帰り道。






私はちらっと翔音くんに目を向けた。




確かに、笑ってた、気がする……んだけどな。



雰囲気じゃなくて……、本当に。







「……ねえ新井くん」

「何?」

「翔音くんの笑った顔見たことある?」

「……どうして?」

「……昨日、帰り道で見た……気がしてさ」












「……見たことないよ」


「……そ、っか」





やっぱり気のせいだったのかなあ。



普段全く笑わないから、私が勝手にそう思ってるだけとか。




………あれ、私末期じゃね?












「…………芹菜チャンさあ、」


「うん……?」







「翔音クンのことどういうふうに見てる?」

「……は?」

「家族として?それとも男として?」

「そりゃあもちろん家族としてに決まってるじゃん」

「それは“常識や新しい記憶を与える役割”があるからじゃなくて?」

「……それも、あるけど……」

「けど?」






「……家族は、家族だから」










「……へー」

「……何よ」

「いや?ただ、無意識なのかなあと思って」

「無意識?何が?」

「……さ、英語なら俺が特別に教えてあげるから」

「おいおい、話をはぐらかすなよ」



結局新井くんは何が言いたかったんだ?

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