23


真っ暗な廊下、窓から漏れる淡く妖しい月明かり。

さっきと変わらないこの景色。



違うところといえば、廊下に響く足音が1つということだ。





「……2人ともどこー……」




恐怖でなかなか前に進もうとしない足を無理矢理動かして、震える声で呟く。



首は動かさず、目だけでまわりを見る。

プリントはくしゃくしゃになるといけないので、小さく折ってポケットにしまった。



だから今は何かを握りしめて気休めすることさえできない。






“独り”



その言葉が頭に浮かんだ。


独り、私は独り。

誰もいない、真っ暗な世界に、私は独り。


月明かりだけが今の私を照らす光。

でも、今はその光さえも余計に私を“独り”だと感じさせる。







ああああ駄目だ、何考えてるんだ私は。


急にひとりになって一気に気分がどん底になったか。






というか朔名はいったい何してるんだ!!

私がプリント取りにいく数秒も待てないのか!?


もしくはトイレに行ったか?


ああどうしよう、もう帰っちゃおうかな。

ひとりで夜道歩くのも嫌だけど学校内ひとりでいるのはもっと嫌だし。




いろいろ考えながらとりあえず歩く。



だんだんと近づいていく場所は理科室だった。



………うわ、こんな時間帯に一番通りたくない場所だ。




そう思ってなるべく歩く速度を上げた。






ガラッ!!


「……っ!!??」




理科室のドアが勢いよく開け放たれた。



そして中から現れた人影に私は声にならない悲鳴をあげた。

私は急なことで訳もわからず、とにかく逃げ出そうと元来た道を振り返った。




ガシッ




だが逃げることは叶わなかった。
腕を掴まれた。



うわっ、どどどどうしよう!?

嫌だ、何……っ!?







「何処いくの」

「……………え?」




私の腕をつかんでいる手から徐々に顔をあげると、月明かりに照らされたその人物の顔がみえた。



「……人の顔みて逃げ出すとか失礼だよね」

「……か、翔音くん……っ」




ちょっと不機嫌そうだけどいつもと変わらない無表情で彼はいた。





よかった……、独りじゃなくなった。


本当に……。






「……何泣いてんの」

「え、泣く?」

「泣いてるじゃん」




私は手で目尻に触れてみる。


あ、ほんとだ。



もしかして、安心したから……とかかな。



いやまさか。


私がそんな乙女みたいなことするか。




「……暗いの苦手なの?」

「そ、そそそんなわけなななないじゃないか!!全然へーきだしっ、問題ないよ!?」

「………ふーん、ならいいよね」



そういって翔音くんはつかんでいた私の腕を離して、さっさと行ってしまう。




えっ、ちょ、ちょっと……ま……っ、





「ごめんなさいいいっ、お願いだから見捨てないでええええ」

「……っ」




私は去ってく翔音くんに思いっきりタックルした……、いや、してしまった。



「…………痛い」

「ご、ごめんなさい……」




や、やばい、威圧感ハンパねぇ!!


独りよりある意味怖いっ。
あれ、何故!?


「………見つかったの?」

「え、何が?」

「プリント」

「あ、うん。さっき教室からとってきたから」



プリントはちゃんとポケットにしまってある。

もういつでも帰れます!!




「……そういえば翔音くん今までずっと理科室にいたの?」

「……ん」

「夜の理科室によくひとりで居れるね……怖くないの?」

「別に」

「だ、だって不気味なものとかいろいろあったでしょ?」

「……身体の中むき出しの人が1人いたけど」

「そんな人間いてたまるか。それは人体模型だからね?」

「へー……」





うわ、なんだか想像しただけでゾワッとくる。

ああもうこんなとこ出て早く帰ろう!!



あ、でもそういえば朔名がいない。




「ねえ、朔名見てない?」

「……知らないけど」

「そっか……、やっぱり探さないとかな」

「………めんどい」

「そんなこといわずに」

「……帰る」

「わああああ待って待って帰らないでっ一緒に探してくださいお願いしますよぉぉぉ……っ」




私はすがるように翔音くんの腕にしがみついた。

まるでかわいこぶってるみたいで自分が気持ち悪く思えた。

けど置いていかれるのはもっと嫌だ。


ここはプライドを捨てましょう!!
気持ち悪かろうがなんだろうが独りになるよりマシだ!!


「…………また泣いてる」

「え……いや、今度は泣いてないよ?涙ないし」



片腕は翔音くんの腕にしがみつきながらもう片方の手で確認してみるが、涙なんて流しちゃいない。




「……でも泣きそうな顔してる」

「え……」

「月明かりだけだから歪んだ顔がさらに歪んで見える」



つまり私の顔が醜いと?

し、失礼すぎる!!





翔音くんはため息をついた。

そして少しゆっくりめに歩き出す。
当然腕にしがみついている私も歩くことになる。




「ちょ、翔音くんっ何処いくの?」

「?………探すんでしょ」

「そう……だけど……え、来てくれんの!?」

「………俺が帰るの嫌なんでしょ」

「う……っ」




た、確かに間違ってないけどさ!!

なんか別れを惜しむ彼女みたいになってるじゃん私が!!

もっとボキャブラリー増やせ!!







「……意外と泣き虫だね」



この言葉にちょっとムッとしたけど、言葉のわりに表情が柔らかくみえたのは気のせいだろうか。




翔音くんは私の腕を振り払わなかった。


歩く速度がいつもよりゆっくりだが私に歩調を合わせるなんて器用なことが彼にできるのかと疑問に思った。





けど、確実にこれだけは思った。




“安心する”




腕から伝わる体温がその気持ちをさらに高めた。




なんだかんだ言ってちゃんと居てくれるんだ。







“ありがとう”




私は小さく呟いた。

彼に聞こえたかどうかはわからないけど。



23.不器用な優しさ

(あああ朔名いたああっ何処いってたのさ!?)
(おー悪ィ、ちょっとトイレでさ)
(私がどれだけ怖い目にあったか……!!)
(そのわりには腕組んじゃって……ひょっとして付き合(そんなわけあるかああああ))
(……………うるさい)


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