◎ 21
翔音くんの身長は168cmだそうだ。
平均と比べるとちょっと低いかな。
「な、俺は171で翔音は168。俺のほうが高いだろ藍咲っ!!」
「いや、たかが3cmじゃそんなに変わらないと思うけど」
「されど3cmなんだよ!!藍咲なんか158cmだろ?ちっこいじゃん」
「男女で比較するな!!私は平均なのっ」
ちっこい呼ばわりされてちょっとムカッときた。
女は高校生にもなると身長なんてほとんど伸びないんですぅ。
「……俺は背が低いの?」
翔音くんがいつもの無表情で聞いてきた。
「うーん……、男子の平均がどのくらいかはわかんないけど、170をきってるのは……ちょっと低い、かも?」
あれ、そういえば男子って身長低いとか言われると怒るんだっけ。
さっきも橘くん怒ってたし。
私、地雷踏んだ?
私は焦ったけど、翔音くんはさほど気にしていないみたい。
気にしていないというか、低いのが嫌っていう感情がわからないというか。
そうだ、あやうく忘れるところだったけど、翔音くんには記憶がないんだ。
今までの経験からして、常識とか礼儀的なことがとくに欠落している。
多分今回のこの身長のことも“常識”に含まれる。
別に身長が低いことが悪いわけじゃない。
そんなのは個性なんだから堂々としていればいい。
けど男子には男子なりのプライドがある。
そのプライドを、私は翔音くんに教えることができるだろうか。
翔音くんはどうやったら身長が伸びるのか新井くんに聞いてるみたいだ。
「牛乳をのむといいよ」と言われたときの翔音くんの顔ときたら……。
「牛乳ってそんなすげぇ飲み物なのかっ!!」といいたそうなくらいのキラキラした顔をしていた(ように見える)。
あれ、シリアスに事を考えていたのに何この脱力感。
「…………っていうか橘くん、なんで私の身長知ってんの?」
「え?ああ、さっき光が教えてくれたっ」
ここにもセクハラがいた。
いや、身長はセクハラにはならないかもだけど……許可もなしに測定記録バラすのはどうよ。
「別にいいでしょ?減るもんじゃないし」
「私の心が削られていますが」
「ボンドでくっつけたら?」
「木材製!?」
失礼極まりないよ新井くんめ。
にしても高校生でも身長伸びるのは羨ましい。
私はもうとまっちゃったしな。
「せめて160はいきたいんだけどなー」
「……なんで?」
翔音くんが少し首を傾げた。
「だってそれくらいあったほうが服も着こなせるし、ヒール履いたらかっこよくみえるし!!」
ちょっとデキル人って感じに見えるしね。
一度は憧れるよそういうの。
「……そのままでいいと思うけど」
「え、何で?」
「……背高くなって高い靴履いたら俺と身長変わんなくなる」
「んー……、まぁそうなるかも」
「なんかやだ」
「……」
あれ、もしかしてプライドとやらがわかってきてる……?
これって成長かな?
「見下されそうだし」
「翔音くんの頭の中の私ってそんなキャラなのか」
なんだろう、ちょっとズレてる気もするけど。
これも知識としてカウントしていいのか?
21.プライバシーって大切
(あっ、あとね、藍咲サンの座高は、)
(いちいち言うなプライバシーの侵害)
(君ならどんな被害でも受け流せるよっ)
(何その親指、折っていい?)
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