08


「学園に通わせる?」


そんな話が持ち上がったのは夕飯がおわってそれぞれ一息ついた20時ごろ。
翔音くんはソファーでお笑い番組をみていて(全くの無表情で)、私は彼から2人ぶん離れて座っている。
朔名はテーブルでコーヒーを飲んでいた。

今日は勤務時間が短かったようで、私達が帰宅したときにはすでに朔名は家にいた。

私達が家につくなりくだらないことを抜かしたお兄様を蹴り飛ばしてやったが、私の顔のガーゼのことにまでふれてきたので、さらに飛び蹴りをお見舞いした。


ほとんど八つ当たりになっちゃったけど、被害はほとんどあのサングラスが被ってくれたからよしとしよう。

割られた2つのサングラスを泣く泣くゴミ箱に捨てて新しいサングラスをとりだしたお兄様は変人だと思う。



「あぁ。年齢的に考えてみれば翔音だって学生だろ?これから先のこと考えると高校は卒業したほうが絶対いいだろ」


コーヒーを飲みながらいう変人……いや失礼、朔名に私も納得する。
確かに就職するとしたら卒業くらいしないと雇ってもらえない場合が多い。
大学に通うならなおさらだ。


「私は別にそれでもいいけど……。お金は?お金はどうするの?」



今まではとりあえず朔名が働いたぶんの給料だけでやっていけた。
私がバイトしたってよかったのだけれど、私に楽をさせてやりたいという朔名にあまり強くいうことができないでいた。


でも今回は別だ。
家族が1人増えたわけだからそんなこといってる場合じゃない。



「そのことだけどよ、お前ら2人を俺んとこのカフェでバイトしてもらおうと思ってんだ」




「2人っ!?」




「な、なんで2人?私だけじゃないの?」

「……あのなぁ、俺らはボランティアじゃねーんだ」

「……?」


呆れたようにいう朔名に疑問が浮かんだ。
よく意味がわからない。





「今までは俺が働いて稼いだ金で大丈夫だったから芹菜がバイトする必要もなかった。けど自分が加わったことで金が足りなくなった。なのに金稼ぐのは俺達。これじゃあただのボランティアだ。俺達は家族なんだろ?だったら自分が生活できるくらいの金は協力しながらも自分で稼がなきゃなんねーよ」

「……」

「それに、今の俺達には翔音の記憶を取り戻すことはあまり期待できない。出会ってから日も浅いし仕方ねーけどな。………でも、新しい記憶をつくることはできる」

「……新しい記憶……」

「何事も経験っていうだろ?これからのバイトもそのうちの1つだ」

「……朔名」

「だから、この3年間俺1人で働いてたけど、今度からは3人で働くんだ。就職の前にいい機会だろ、芹菜!!」



ニカッと笑う朔名はいつもより輝いてみえた。
ちゃんと私達のことを考えてくれている。
まだ会って間もない翔音くんのこともだ。


「うん、そうしよっか」



“兄”という存在を改めて感じたかもしれない。
それくらい、今の朔名の言葉はよく響いた。



「翔音もそれでいいかー?」


テレビをみている翔音くんに声をかけると、こっちを向いて頷いた。




この瞬間、私達3人の新しい生活が始まった。




「それで?いつ私達はバイトにはいればいい?」

「まぁ普通に考えて土日だろうな。うちはあくまでカフェであってレストランじゃねーからあんま夜遅くまでは営業しねーし。遅くて20時までが営業時間だな」

「時間はそんなに決まってるわけじゃないんだ?」

「基本的には10時から18時まで。けど木・金・土・日は20時までだな」



なるほどね、会社とくらべると随分楽なほうだ。


「あれ、でも今日金曜日だよね。にしては朔名帰ってくるのはやいね?」

「今日は店長に加えてほかの従業員も用事があって人手が足りなかったんだよ」

「ほんとに自由な仕事なんだね」

「早く俺に会えてよかったろ?」

「お前じゃときめかねーよ」

「何でいきなり真顔になんの」




でたよ、朔名の思春期真っ盛り男子高校生。
さっきまでいいこといってたのに台無しだ。

私は呆れた顔をした。




「じゃあ本題が終わったところでもう1つ」


朔名はぐびっとコーヒーを飲みほし、ガタンとテーブルに置いた。

もっと静かに置けないのかオイ。



「芹菜、明日翔音と一緒に買い物いってきな」






えっ!!
な、なんで?


「いつまでも俺のお下がり着てても嫌だろ。服は俺からのプレゼントだと思って金は渡すから!!」

「いやそれなら朔名がいけばいいじゃん。男同士楽しいよきっと」

「俺仕事あるから。どーせ土日は芹菜だって暇なんだろ?一緒にいってやれよ」




まあ流れ的にそうなることはわかっていたけど。
買い物………、やっぱりデパートいくか。


私は未だテレビをみている(相変わらず無表情で)翔音くんのほうを向き口を開いた。



「ってことで買い物いきましょー。明日で大丈夫?」


翔音くんは頷いてはいるものの、よくわかっていないようで目をぱちぱちさせていた。

あれ、なんだか不安を感じるんだが気のせいか。




「日用品は棚からひっぱりだせばあるだろうから、やっぱり買うのは洋服だけ、かな」


私は朝起きてから寝るまで何を使って1日を過ごしているか考えるが、他に思い付かなかった。
まぁあとで思い出したら買いたせばいいよね。



「明日の買い物で親密度高めなよなー」

「……え?」

「18歳なんてまだまだ難しいころだろ?これもいい機会じゃねーか!!」



………なんか朔名にいいように丸くおさめられているような。

でも嫌ってわけじゃないし……ちょっと不安がある気もするけど。
気晴らしに久しぶりにデパートもいいか!!


ため息がでる中、少し気合いをいれているとまた朔名が話はじめた。



「芹菜たちが買い物してる間、俺が仕事の合間とか終わったあととかに学園とバイトの手続きしとくからな」

「うん、わかった。それはよろしくね」



こういうときはすごく兄らしいと思う。
私もなんだかんだいって頼ることができるから安心する。




「そういえば、女の子が着る制服ってどんな感じの?」


これは1番気になっていたことだった。
女であるからこそ、自分がバイトする場所の制服によってやる気もかわってくるというものだ。



「そうだなぁ……みんな少しずつ違うけど、基本メイド服だな!!」




……………なんだって?


「うちは指定があんまりないからほとんど自由だけど、男はスーツ、女はメイド服って人が多いんだ」

「……私、そんなキャラじゃない」


私はすっごい嫌な顔をしているに違いない。
可愛い子が着ればそりゃあ目の保養になるけど、私が着てどうする!!



「大丈夫だって、絶対似合うから芹菜は」

「何を根拠にいってるのさ!!」

「制服のスカート短くして足だせば芹菜だって可愛「お前は妹に何を求めてんだあああああああ」ぐふぅッ!!」





今日3つ目のサングラスが割れた。



08.お前の趣味なんか聞いてない

(翔音くんも何かいってよ、この思春期野郎に)
(……テレビ聞こえないから黙ってて)
(なんでお笑い番組をそんな真剣な顔でみてんの。笑おうよ)


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