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合宿2日目。
昨日少し夜更かししたのもあるが、慣れないベッドで寝たせいか、寝つきはあまり良くなかった。

まあ、といっても全く寝れなかったわけじゃないから問題はないだろう。

そんなことを考えながら朝食のご飯を口に運ぶ。


そして、私の目の前の席には桐原くんが座っている。
朝は苦手なのか、いつも以上にしかめっ面をしていた。


「……桐原くんも朝苦手なの?」

「…………何故そう思うんですか」

「眉間に皺寄ってるし、ちょっと眠そうだから……、かな」

「………………へぇ?」


私がそういうと、桐原くんは何故か箸を置き、頬杖をついて私に微笑みかけてきた。



「どの口がそんなこと言えるんですかね」

「……え、?」

「昨日の夜、自分がしたこと覚えてないとは言わせませんよ」

「き、昨日の夜……?」


昨日の夜は、ずっと翔音くんといたはずだけど……。


「何があったのかは知りませんが、あなたの叫び声が聞こえたんですよね、相当の音量で」


…………。

…………あっ!!
も、もしかして、翔音くんが危ない言葉を言いそうになったときに私が叫んじゃったやつか……!?


「おかげで気になって中々寝付けなかったんですよねー」

「あ、あ、あ……」

「今日の練習に響いたらどうしましょうかねー。上手く練習出来なくてレギュラーから外されて戦力外になったら、どうしてくれるんですかねー。……ねぇ、芹菜先輩?」


必殺、泣く子も黙るキラキラスマイル。

うわー、意外と可愛い笑顔ー……とか言ってる場合じゃねぇぇぇ!!
冷や汗がやばい。
腹の中に何隠し持ってるのかわかんないくらい完璧な笑顔だ!!

しかも桐原くんが笑うなんてほぼ無いに等しいから余計恐ろしい!!



「ご、ごごごめんなさい!!……えと、えっと……、す、素敵な笑顔、デスネ!!」

「貴女に向ける笑顔ですからね」


その台詞、もっと違うシチュエーションで聞きたかったああああ!!


「……どうしたんですか?そんな真っ青な顔して。ご飯食べないんですか?それとも俺が、あーんってしてあげましょうか」


この人誰ェェェェ!!
ほんとに桐原くん!?
桐原くんの皮をかぶった誰かではなく!?



「おいおい桐原、そのへんにしとけー?」


食べ終わった食器を片付けようとしている部長さんが桐原くんの後ろで立ち止まった。


「藍咲もこんなに反省してるしさ」

「はァ?あの悲鳴で飛び起きてベッドから転げ落ちた貴方に言われる筋合いはありません」

「なんで俺の失態言っちゃうの!?」



う、うわああ……、そんなことになってたんだ……!!
そうだよね、あんな夜遅くに叫んだら飛び起きるのも無理ないよね。


「あの、ごめんなさい部長さん!!せっかく寝てたのに邪魔しちゃって……!!」

「あ、いや大丈夫だから!!そんな謝んなくても!!」

「でも、貴重な睡眠時間が……」

「いいって!!言うほど気にしてねーし大丈夫だって。なっ?」


焦ったように苦笑いで私の肩をぽんぽんとした。
……本人がそういうなら、いいんだけど……。



「甘やかしすぎですね部長。この際宝石でもねだればいいのに」

「俺女子!?」


相変わらず桐原くんは厳しい。
……というより、本当いつもより言い方がキツい気がする。


……何で?






恵子さんから言われた今日の最初のお仕事は、ピッチの周りを走る部員たちの記録係。

それぞれ何周走っているのか、一周にどれくらい時間がかかるのかなどをはかっていく。
スタート地点に水分補給用の水も用意しておき、適度に渡してあげるのも私の仕事だ。


「芹菜ちゃん、前にマネやったとき似たようなことやったって聞いたんだけど……」

「はい、やりましたよ。大丈夫です」

「うん、お願いね。あたしは昨日の部員らの洗濯とか、走ってるときに渡すやつ以外のドリンク用意してくるから」


頼んだよ、と私の頭をポンとすると木でできた建物……もう部室でいいか……へと向かっていった。



「芹菜せんぱーい!!」


スタート地点のところで紙コップに水を注いでいると、相変わらず可愛い笑顔の陽向くんがこっちに走ってきた。


「今日は芹菜先輩がこっちのお仕事なんですね!!」

「うん、交代でやるからね」

「えへへ、じゃあ頑張ってかっこいいとこ見せないとですね!!この前は僕倒れちゃいましたから、汚名返上ってことで」


えへへって……可愛いな本当に君は!!
確かに陽向くんはかっこいいというより可愛いってほうが似合うからなー。
何か可愛い弟を持ったお姉さんの気分だ。

……あれ、さっきから私可愛いしかいってないな。



「何デレデレしてるんですか気味悪い。そんなんで仕事になるんですか」


後ろからきた桐原くんにグサリと言われてしまった。

う……ほんと厳しい……。
でもやっぱりなんだかいつもよりも当たりが強い。


「……桐原くん、」

「何ですか」

「……もしかして怒ってる?」

「……は?」


私の言葉に、何故そんなことを言うのかわからないみたいな顔をされた。
あれ、もしかして無意識なの?


「んー、いつもより言い方が強いかなって気がして……。な、何かしちゃったかな私……!?」

「………っ、いえ。何でもないです」


少し驚いた……いや、焦ったっていうのかな……みたいな顔をすると、そのままサッと顔を背けてピッチへと走っていってしまった。

な、何……?
何もしてないのに桐原くんがあんな顔するわけないよね。
やっぱり気付いてないうちに私何かやっちゃってる!?

昨日で翔音くんとの色々な問題は解決したけど、まだこっちがあった!!

まだ昨日の夜大声で叫んじゃったこと根に持ってるのかなー……。
それとも柔軟体操のときのやつかな……。
それとも昨日の朝の荷物運んでくれたときのこと?

……思い当たることありすぎるわ!!


「ん?どうしたんだ芹菜?練習いかないのか?」


いつの間にか近くにきていた橘くんが肩をポンとしてくる。


「あ、ごめん、今行く!!」


いけないいけない、今は練習に集中しなきゃ。




私は急いでテーブルと紙コップとペットボトルの水を用意した。
用意している最中、

「一人で運べる量じゃないことくらいわかりますよね。誰かに手伝ってもらうとかしたらどうですか。ほんと学習力ありませんよね」

とか言いながら桐原くんが運ぶのを手伝ってくれた。
私がありがとうというと、そっぽ向きながら馬鹿と言われる始末。

君は一体何なんだ!?
怒ってるんじゃないの!?
相変わらずツンデレさんだなぁ!!
でもほんとにありがとう、助かったよ。



準備ができたらランニングスタート。
スタート地点に立ってストップウォッチでタイムをはかり、ゴールした人にタイムを言っていく。
そしてそのタイムを後で紙に記入するまでがこの仕事だ。
もちろんここにある水の補充も。



「それじゃあみなさん、準備はいいですかー?」

「芹菜ー!!俺1番取るからちゃんと記録頼むなー!!」

「何言ってるんですか圭祐先輩、1番は僕ですもん!!芹菜先輩、見ててくださいねーっ」


ぶんぶんとこちらに手を振ってくる橘くん(わんこ)と陽向くん(女子)。

うん、2人とも可愛いからさっさと位置についてくれ。


「何やってるんですか橘先輩まで。マネージャーの負担増やすつもりですか、早くこっちに来てください」


そういって2人の首根っこを引っ付かんでいく桐原くん(保護者)。


「ほんと仲良いなお前ら。桐原なんて2人の兄みたいだし。いや、お母さんか?」

「蹴り上げますよ」

「どこを!!??」


そんな桐原くんの隣で真っ青になる部長さん(被害者)。

なんて個性的なメンツだろうか。

そんなことを思いながらも笛の合図とともに、みんな一斉に地面を蹴って走っていった。






「23分42秒」

「……はい、OK。次の人ー」

「20分11秒」

「……はい、OK。次ー」

「はい!!俺ね、18分ジャスト!!すごくね?速くね?」

「はいはい橘くんは速いねー、元気があってよろしい。ラスト10周ね」

「何でええええ」


1人ずつタイムを聞いていき、ノートへ記録している最中。
走り終わったあとでも元気なわんこには、もっと走らせるべきなんだ。



「……芹菜先輩、」

「ん?あ、桐原くん」


あんだけ走ってきたのにあまり疲れていない様子の桐原くん。
もう何周かプラスしちゃおうかなー……なんてしたら、さらに不機嫌になりそうだ。

そういえば、ほんとに何で不機嫌なんだろう。



「19分43秒」

「え、?」

「俺のタイムです。ちゃんと聞き取れたんですか?」

「え、あ、うん…!!19分43秒ね、了解!!」


危ない危ない。
聞き逃したらまたなにか言われるよね!!


「あ、そういえば、次の練習メニューって何?まだ聞いてなかった気が……」

「次ですか。次はこの辺りを走りますね」

「また走るの!?」


今結構走ったのにまた走るんだ!!


「体力付けないと試合で持ちませんからね」

「そっか、頑張ってね」

「何いってるんですか、貴女も行くんですよ」

「はい!?」


何、いまこの子何て言った!?


「だから、芹菜先輩も行くんです。俺らと」

「私も走るの!?」

「……運動部の、しかも男子の速さについてこれるんですか?まあついてこれるならどうぞ走ってください。先に行って笑ってますから」

「応援もしてくれないの!!」


な、なんてやつだ!!


「全員サボらないで走ってるか見張るんですよ。別荘に何台か自転車があるはずです。芹菜先輩はそれに乗って俺らと並走するんですよ」

「それもそれで大変だよね、走るスピードってわりと速いし」

「だから運動になるんですよ。はぐれないようについてきてくださいね」



わかったら自転車取ってきて俺らと合流してください、とかいってさっさと行ってしまった。

はっきりいってもいいですか?


無理だよね!?







……来ちゃったよ、集合場所に。


「みんな集まったかー?これからここら辺一帯を走ってもらう。持久力をつけるためだ。さっきの走りでバテてたら試合の時持たないからな!!」


部長さんの気合の入った声がかかる。
行きたくないけど、これもマネージャー業だから頑張ってやろう!!


「走るコースはさっき配った地図通りだ。30分もあればここに戻ってこれる。過ぎたやつは腹筋背筋腕立てそれぞれ100回ずつ!!」


……え、地図?
何それ、?


「位置について、よーい、」


ちょ、ちょっと待って!?
私そんな地図もらってなんか……!!


「スタート!!」


合図とともに一斉に走り出す部員たち。

えええこのままじゃ置いていかれちゃう!!
しょうがない、何がなんでも前の人たちについていかなきゃ!!


私は慌ててペダルに足をかけ、勢いよく踏み込んだ。

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