54


今日は快晴。
すっかり涼しくなってきた気候はとてもちょうどいいか、少し寒いくらいになった。


午前中の授業も終わり、お昼も食べ終えて自分の席で頬杖をつく。


あれから風邪も治って体調は万全。
今なら50m、6秒で走れる気がする。


……無理だけど。

私のタイム聞くかい?
10.2秒だぜ!!
4月のスポーツテストではかったら2桁いってたよ。

ある意味泣いたよね、あはははは。



「死ぬほど遅いですね」

「あれ、桐原くんじゃん。はろーえぶりわん」

「頭沸いてるんですか」


……こいつ後輩だよな?



「ってか私の心の中読んだな?知られたくなかった50mのタイムを知ってしまったな?やだ桐原くんセクハラー」

「あ゛?」

「調子のってすみませんでした」


全力で土下座しました。
目が怖い、マジで怖い、獲物を狩るような目だ。
もう1回言おう。

……こいつ後輩だよな?



「声に出てることにも気づかないなんて……うわー、こんな人に頼みたくねー……」

「ねぇねぇ、小声で言ってるつもりだろうけどこの距離じゃバッチリ聞こえてるよ。何これ、話の内容全く分からないのにこの敗北感」


せっかくの楽しい昼休みに何故辛辣な言葉をくらわなければならない!!



「……芹菜先輩」

「ん?」





「サッカー部の合宿にマネージャーとして参加してください」



何だろう。
今とてつもなく不吉なことを聞いた気がする。

いや、気のせいだよね。
坂道に落ちてた金(マネー)が酸化してたよって言ったんだよね。

ふーん、そっかー大変だねー。
お金といえば知ってるか、10円玉って梅干しで磨くと綺麗になるんだぜ。
食べ物の力ってすごいよな。

これを気にそのお金も綺麗にしたらどうかね。



「ふざけたこと言ってる暇あるならさっさと返事くらいしてくださいよこのノロマ」

「さりげなく悪口混ぜるなよ!?ほんとに君、後輩!!??」


最近どんどんツンデレ度上がってね?
もはやツンツンじゃね?



「……で、返事はどうなんですか」

「え、いや、却下で」

「ですよね、俺もそのほうが嬉しいです」


何だとこら、そっちから誘っといてなんだぁこらァァァ!!


「じゃあ部長には、芹菜先輩は全治3ヶ月の骨折でマネージャーできないそうですって言っときますので」

「すぐにバレる嘘やめてェェェ!?お見舞いとか来ちゃったらどうすんの!?」

「来るわけないでしょう。見舞いに行ったっているのは芹菜先輩じゃないですか」

「どういう意味だよそれ!!なんか今日いつも以上に刺々しくね!?そんなに私がマネージャーになるの反対ですか!!」

「まさか、大賛成ですよ」

「顔が大反対してるんだよ!!」




ってか何故私なの。
……という質問を前にも橘くんにした気がする。
帰宅部で尚且つサッカー部のファンクラブに入ってない子なんていっぱいいるだろうに。



「……帰宅部の子とか、他にもいっぱいいるでしょ?私じゃなくても……、」

「……部長が芹菜先輩がいいっていうから」


部長さん?
前に臨時で一週間だけマネージャーやったときにちょっと喋ったりはしたけど……。

でもあのとき初めてだったし、めちゃくちゃ手際悪かったよ!?


「……あとは、橘先輩とか天城とかが芹菜先輩がいいってうるさいし」


た、頼ってもらえるのは嬉しいんだけど……、今回はいつもの部活じゃなくて、合宿。

集中して練習できる大切な時間なのに、そんなところにろくにルールも知らない素人なマネージャーがいたら迷惑になる。

むしろ、本物のマネージャーさんの足を引っ張るだけじゃないかな。


うーん……。



「……桐原くんは?」

「……は?」

「他の人が私がいいって言ってくれてるのは嬉しいよ。だから、桐原くんは私のことどう思ってるのかなーって」


この話の言い出しっぺは多分部長さんなんだろうけど、直接私にお願いしてるのは桐原くんだし。


そう思って桐原くんを見ると、目をぱちくりさせて驚いている顔をしていた。
そして若干だが顔が赤い。

……ん?



「……あ、あんたって人は……ッ」

「……え?な、何?」

「もっとボキャブラリー増やして文章で話してくださいよ。今の部分だけ聞いたら誤解しか生まれないじゃないですか……、!!」


珍しく桐原くんが焦ってる。
なんだ、私なんか変な事いったか!?
桐原くんの意見を聞いただけだよね!?



「……、俺はもう戻ります。さっさと決めてくださいよこの無神経女」

「えぇ酷い!!っていうか、待って!?さっきの私の質問の答えは!?」


去ろうと背を向けた桐原くんに待ったをかける。



「……俺が本気で反対してたら、こんなお願い役買うわけないでしょう」


少しだけこちらに顔を向けてそういうと、すぐに教室から出ていってしまった。


うーん、総合すると、桐原くんも賛成してるってとらえていいのかな……?

ツンデレの対応が難しい。






マネージャーねー……。


放課後、私は部長さんのところにいくかいかないかで迷っていた。
まぁ参加しなかったとしても行かなきゃいけないんだけど……うーん、どうしよー。


「……芹菜?」


あ、翔音くんだ。


「……翔音くんへるぷ!!助けてへるぷみー!!」


椅子からガタッと立ち上がると、翔音くんは何だこいつと言わんばかりの目で後ずさりした。

酷い!!






「……というわけで、どうしようかなーって迷ってるところです」


翔音くんを私の前の席の人の椅子に座らせてから、昼休みの出来事を相談した。


「どうしよう!!やっぱり参加したほうがいいのかな!?」

「……それは、俺が決めていいことじゃないと思う、けど」


もっともな意見だ。
どうしよう、相談する相手間違えた!!


はぁ……、とりあえず部長さんのところ行こうかな。
あえて部長さんに相談するっていう手もあるし。


「……よし、私部長さんのとこいってくるね」

「……マネージャー、やるの?」

「んー、わかんない。でも行くだけいって相談してくる」

「………」

「翔音くん、どうする?私はまだ時間かかると思うけど……先帰っててもいいよ?」



翔音くんは何も言わず、眉を下げて少しだけ寂しそうな顔をしている。


「……翔音くん?」








「……待ってても、いい?」


今にも消えてしまいそうなほど小さな声だった。

珍しい。
いつもなら、こんな風に聞いてこないのに。

どうしてそんな寂しそうなのかわからないけど、私は少し高いその頭をポンポンとする。



「もちろん!!終わったら、一緒に帰ろ!!」


へにゃりと笑うと、翔音くんは少しだけ笑みを見せてくれた。









部長さん、どこかなー。

翔音くんと別れてから部長さん探しの旅に出ています。
もう放課後だし、部室に行ってるかな?

そう思って私は部室に向かうため、校舎を後にした。


以前マネージャーやったときぶりにサッカー部の部室に来てみる。

相変わらず大きい部室ですね。
家出したらここに住もうかな。

……なんか寂しそうだからやめよう。



部室のドアノブを掴んだところで私はピタッと止まる。

あれ、待って。
前は部活中に桐原くんが案内してくれたから普通に中に入れたけど、今はまだ部活前。

中に人がいるかもしれない。
……というか中で着替えてる可能性が高い!!

ど、どうしよう……入るに入れない……!!
そんなぁ、部長さんに相談しようと思ってたのに。

……やっぱり相談しないで自分で決めたほうがいいのか……。




「あんた、ここで何してんの?」


凛とした声に驚いて振り向くと、知らない女子生徒がこっちを不思議そうな顔で見ていた。

黒のショートヘアーで少しつり目気味の美人さんだ。

……っていうか背高い!!
確実に165cm以上ある!!



「サッカー部に何か用?」

「えっ、あ……ちょっと、ぶ、部長さんに……」

「部長?……あ、もしかしてあんた芹菜ちゃん?」

「え!?はい、そうです!!」


なんで私の名前知ってるの!?


「あぁ、あたし中里恵子(ナカザト ケイコ)。サッカー部のマネだよ」


サッカー部のマネ!?
じゃあ私はこの人の代わりに一週間だけマネージャーやったってことか!!


「あんたのことは眼鏡から聞いてるよ。あたしの代わりにマネやってくれたんだってね。ありがとね」

「あ、い、いいえ……。っというか眼鏡って誰ですか?」

「部長のことだよ。さすがに部活中は危ないから外してるけど、普段は眼鏡かけてるから。……それより、何で敬語?あたしも3年だよ?」


わかってる!!
わかってるんだけど……、なんか、お姉さんって感じなんだもん、中里さんて!!


「……なんか、こう……先輩の威厳みたいなものを感じて、」

「何それ?……まぁ何でもいいけどさ!!あ、あたしのことは好きに呼んでくれて構わないよ」

「えっ!!じ、じゃあお姉様!!」

「いや、それ許可する人いないでしょ。普通に名前で呼んで?」

「…………、恵子、さん?」

「うん、それでいいよ」


太陽のようにニカッと笑うその姿は、女の私が見ても惚れ惚れするくらいだった。

び、美女だ!!
毎日こんな美女にドリンクとかタオルとか渡されてるサッカー部の人たち羨ましい!!






「……で、えっと、部長に用があったんだよね?」

「は、はい。そうです!!」


私が頷くと恵子さんはガチャリと部室のドアを開け、入っていいよといってくれた。

おそるおそる入ってあたりを見回す。

うん、やっぱり広い。


「眼鏡なら多分こっちの部屋にいると思うから、入っちゃっていいよ。あたしは練習の準備してるから、何かあったら呼んでね」

「あ、はい!!ありがとうございます!!」


こっち、と言われた部屋はこの前は入ってないな。
今私がいる部屋はリビングみたいな感じだけど、こっちは何の部屋だろう?

部長さんいるといいなーと思い、ゆっくりとそのドアを開けた。






ゆっくりとドアを閉めた。

何も無かった、うん、何も無かったよ。
いくつもの目がこっちを見ていたとか、そんなこと無かっ……、



「芹菜先輩、何してるんですか」


再びドアが開いて出てきたのは、昼休みにあったばかりの桐原くん……なんだけど、


「うぎゃァァァァ何で上、着てないのォォォ変態ィィィィ!!!!」

「はァ?着替え中なんだから当たり前じゃないですか」


頭をグワシッと掴まれる。
痛い!!
いたたたたた痛い痛いハゲる!!


「……顔真っ赤ですよ?芹菜先輩にも恥じらいとかあるんですね」


そういって意地悪そうな笑みを浮かべる。

いやァァ何その新井くんみたいな顔!!
やめてェェェ君はそんなキャラじゃないだろォォォ!?



「なーに女子とイチャついてんだよ桐原。とうとうお前にも春がきたのか?」

「は?眼鏡割りますよ」

「あれ、俺部長だよな……」


桐原くんの後ろから部長さんが出てきた。
よかった……、服着てる……!!


「お、藍咲じゃん。どした?」

「あ、うん……。合宿の話で……」

「おぉっ!!やっぱマネージャーやってくれるか!!」

「あぁぁいや、まだどうしようかって思って」

「迷うくらいならやったほうがいいだろ!!やって損はないと思うし」


得もなさそうだけど。


「いつもの部活なら中里1人でも平気なんだけど、合宿ってなるとやっぱ準備もそうだけど、食事とかもあるだろ?だから手伝ってくれると助かるんだ」


眉を下げていう部長さんに、私は断る言葉をいうタイミングを逃してしまった。


「なぁ、……駄目、かな?」

「え……う、うん。わ、わかり、ました……」

「っ、ほんとか!?サンキュー助かる!!」


う……、だって、そんな困ったような笑みで言われたら断れないじゃんかァァァ!!
これだから日本人は!!
私だってNOといえる人間になりたいよ!!



はぁ、ここに来た理由が消えた……。
相談も何もなかった、もはや強制だ。
部長さん悪気がないのがたち悪い。




「マネージャー、やってくれるんですね」


後ろから桐原くんの声がした。


「……だって、断りにくくて」

「いいんじゃないですか?どーせ暇なんでしょう?」

「このやろう」

「……それより、何で後ろ向いてるんですか」


少しだけ桐原くんの声のトーンが下がった。

だってさっきのことがあるんだもんんん!!
迂闊に振り向けないよ!!


「……服ならもう着てますよ」

「わかってます……!!いやぁでもね、うん……、」


頑張ってゆっくりと桐原くんのほうに体を向ける。

が、顔は見ないで下を向く。



「……顔上げてくださいよ」

「いじめか」

「いじめです」

「そこ吹っ切るなよ!?」


酷いやこの子!!
遊んでる、絶対遊んでるよ!!
昼休みのときはツンデレ通り越してツンツンだったのに、何なんだよ!?



「……なかなか面白いものが見れました」

「……え?」


桐原くんは少しだけ顔を近付けて、また意地悪な笑みを浮かべる。





「……芹菜先輩も”女の子”なんですね」


”女の子”の部分だけ妙に艶っぽい声で言われ、ドキリとした。

桐原くんってごくたまーにこうやってからかうときあるよね!!
たまにだからこそ慣れないし、意地悪で楽しんでる顔してるし!!

サッカー部ってたち悪い!!



「……まぁ、遊びはこれくらいにして、」

「遊びって認めちゃったよこの人!!」

「マネージャー、引き受けてくれてありがとうございます」

「あ、……うん。なんかとっても強制な感じがするけど、頑張ります」

「はい。俺も芹菜先輩をこき使えるように頑張りますから」

「先輩のことなんだと思ってんの!?」

prev / next


back
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -