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とある休日の朝。
今日はバイトの日だ。

自分の支度をある程度整えて、向かいの部屋にいるであろう美少年を気にかけた。


さすがにもう起きてる、よね?


部屋をでて正面の扉の前に立った。



コンコン

「翔音くーん?起きてる?」


呼びかけても返事がない。
もう一度呼んでみるが、やっぱり何も返ってこない。

……まだ寝てるのかな。


「翔音くん?入りますよー」


ガチャリと音を立てて扉を開ける。
まず最初にベッドを見ようと思ったが、その前に人影が目に入ったので、自然とそちらに目を向けて、



「……ッ、ば、ちょ、き!!!!」


意味不明な言葉を発してしまったのは許して欲しい。


「……、おはよ、芹菜」


こちらに気付いて呑気に挨拶している美少年だが、そんなこと今の私にはどうでもよかった。




「…………ッ着替えてるなら先にそう言えェェェェ!!!!」








「どうした芹菜?何か2階からすげー声したけど」


リビングに降りると、新聞を広げながらコーヒーを飲む朔名にそう聞かれるが、さっきのことを思い出すとまた顔が赤くなってしまうので、首を横にふった。


「なんでもない」

「そうか?……あ、そういえばお前に渡すものがあったんだ」


鞄を何やらごそごそし始めると、あるものを手にして私に渡した。


「え、これ……」

「あったほうがいいだろ。俺は先に仕事いくから、来る途中にでも説明して渡しといてくれな」

「……うん、わかった」




朔名が二カッと笑って玄関を出て行くのと入れ違いに翔音くんがリビングに入ってきた。

どうやら準備は終わってるみたい。
最近じゃちゃんと寝癖も自分で直してるみたいだし。


さっきのこと謝ろうとも思ったけど、掘り返すのも微妙だったし、本人特に気にしてないみたいだから、私もこれ以上言わないようにしよう。



「翔音くん、これ朔名から」


さっき渡してくれたものを翔音くんの手に置いた。


「……何これ」

「スマホ」

「す……、?」


受け取ったものを裏返したり画面触ったりなど、珍しいものを見るような目で見ていた。

……やっぱり知らないか。

何だろう、戦国時代の人に電化製品の説明するような気分だ。





「芹菜ちゃん、ちょっと頼み事があるんだけど今いいかな?」


お店に来る途中にスマホの使い方をなんとか翔音くんに教え、さぁお仕事お仕事!!と意気込んで1時間くらいたったあとのことだった。

注文の品をテーブルまで運び、次の品を受け取ろうと厨房に戻ったときに愁さんに手招きされ、奥の控え室の扉の前にいく。



「はい、これ」


渡されたのは1枚のメモ帳。


「……これは?」

「来週使う分の材料だよ。前までは朔名とか他の子が担当してたけど、今回は芹菜ちゃんにやってもらおうかなと思ってね」


メモにさらっと目を通してみると、ケーキに使う果物や砂糖や、紅茶の茶葉だったりといろいろ書いてある。


「わかりました!!いってきます」

「うん、ありがとう。果物の量がかなりあるから翔音くんと一緒にいってね」

「はい!!」



一度元の洋服に着替えてから2人で近くのデパートへ向かった。

さすが休日、人がかなりいる。

買い物カゴをカートに乗せ、いざ食品売り場へ!!







「えーっと、苺は買ったしレモンも買った。……紅茶も買ったし……うん、大丈夫かな!!」


デパートに着いてまず、私たちは効率を良くするために別行動をとった。

私は主に果物担当。
普段から一応料理はしてるから、より美味しい果物の見分け方とかもだいたいわかってるつもりだからだ。

翔音くんには、砂糖とかハチミツとか牛肉とかを頼んだ。


そろそろ買えたかな?


そこでふと気付いた。
そういえば今日、タイミングよく翔音くんはスマホ持ってるんだ!!

よし、これで連絡とれるじゃん!!


私はさっそくアドレス帳を開いて翔音くんに電話した。


プルルルル……

ガチャ


『……はい』

「あ、もしもし翔音くん?」

『……………、誰?』

「何でだよ私だよ芹菜だよ!!」

『……声変わりした?』

「いや無理だから。別れて30分もしてないのに声変わりとか私そんな成長期じゃないから」


機械ごしの私の声は初めてだろうからわかりづらいんだろうな。

そんなに違うのかな?
自分の声って人が聞いてるものと違って聞こえるっていうからわからないや。



「分担した材料は買えた?」

『……買えた』

「そっか、ありがとう!!じゃあ『芹菜せんぱーーい!!』


…………ん?
今電話ごしからいるはずのない人の声がしたんだけど……?





「……えと、翔音くん?今誰と一緒にいるの……?」

『……知らない人』

『えェェェ翔音先輩酷い!!さっき説明したじゃないですか!!陽向ですよ、天城陽向!!』

『……会ったことない』

『そ、そりゃあ会ってはないですけど、棗先輩と圭祐先輩の後輩ですよ!!ってこれもさっき説明しましたよ!?』

『……そうだっけ』

『せんぱぁぁい……』


ああぁぁ、陽向くんが泣きそうな声出してる。
翔音くんは何でもストレートに言うタイプだからね、仕方ないっちゃ仕方ないんだけどね。


「……それで今2人ともどこにいるの?そろそろ合流したいんだけど……」

『……3階』

「3階!?なんで!?そこ服とか売ってるとこだよね!?」

『……買ったあと、暇だったから』

「あ、……うん、まあいいや。わかった、今からい『ちょ、かかか翔音先輩……!!』


またしても陽向くんに言葉を遮られた。
でも今回は何だか焦ってるみたい。


「どうしたの?」

『いいいいやヤバイですって!!あ、ちょッ……、芹菜先輩助けて!!』

「え?うん……、?」


陽向くんの切羽詰まった声を最後に電話はブツリと切れてしまった。

何、何があったの!?

私は急いで3階へと向かう。
っていうか、果物の袋2つも持ってるから走れないうえにめちゃめちゃ重いんですけど!!



なんとか3階まで上がり、辺りを見回すとお目当ての人物はすぐに見つかった。

何故か?



「……え、な、何なのこの人だかりは」


エスカレーターをのぼって少し先の場所にできている人だかり。
その中心にいるのは、翔音くんと陽向くんだった。

い、行きたくねェェェ!!

あんなキラキラしたイケメンたちと、化粧バッチリ決まってる女性陣の中に、こんなテキトーな格好して買い物袋2つも持ってる私なんかが行けるわけがないでしょ!!

どうしよう、ここは呼ぶべきなの!?
でも呼んだら呼んだでかなり目立つよね!!


うーんと考えていると、バチッと陽向くんと目が合ってしまった。


「……ッ芹菜せんぱァァァァァい!!!!」


うわァァァアアァ!!??

目に涙を浮かべた陽向くんが女性陣をかき分けてこっちに突進してきたと思ったらそのまま抱きつかれた。

……ん?
だ、抱き、抱きつかれた……?



「ふォォオアアァ!?」

「奇妙な声上げてないで助けてくださいよォォォ!!」


奇妙な声って何だよ、上げさせてんのはあんたでしょう!?

離れろーッと思っていると、背中にまわっていた腕が急に離れた。

やっと離してくれたと思ったが、改めてみるといつの間に女性陣たちの中を抜けてきたのか、翔音くんが陽向くんの襟首をグイッと掴んでいた。


「あ、ありがとう翔音く………、」


その顔は眉間に皺を寄せてムスっとしているような不機嫌な顔だった。

め、珍しく翔音くんもすごく不機嫌だ……!!
不機嫌な顔は今まででもわかりやすかったけど、ここまで眉間に皺が寄ってるのは見たことなかったし!!

そ、そんなにあの女性陣たちが気に
障った、の?



「……何してるの」

「か、翔音先輩お顔が怖いんですけど……」

「………」

「え、僕何かしましたっけ……えーっと、芹菜先輩に抱きついただけ……、ん?抱きついた……ッは!!!!」


陽向くんは何かに気づき、弾かれたように顔を上げた。


「うわァァァアアァどうしよう芹菜先輩に抱きついたとか僕棗先輩にボコボコにされる!!」


あれ、あの勘違いまだ続いてた感じ!?


「っというかこの状況何ですか!?むしろ翔音先輩にボコボコにされそう!!なんで!?……ッは!!も、もももしかしてこれは翔音先輩……うひゃあぁぁ僕気付いちゃった、えっ、僕すごいかも!!これはいわゆる三角関係ってやつですね!!それよりも待って首しまってますよ翔音先輩離してくださいうわぁああぁぁん!!」


なんかすごいマシンガントークしだしたよ、そして壊れた!?
三角関係って何、誰と誰と誰の話し!?

顔を真っ青にしたり真っ赤にしたり忙しいなこの子は。


というか泣き出しちゃったよ!!

と、とりあえず……!!



「か、翔音くんもう離してあげよう!?陽向くんも泣き止んで、ほら、せっかくの可愛い顔が台無しだよ?」

「タラシですか芹菜せんぱぁい……!!」


あれェェェ余計に泣かせちゃったァァァァ!?

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