51


ウォータースライダーのあとは、波のプールにいったり、海水と同じくらい塩が入っているプールにいったりと、いろんなところにいってみた。


どれもみんな楽しかった!!


最初、私は水着はあんまりって感じだったけど、実際遊んでみたらもう気にならなくなった。

今を楽しむのが一番!!





「そろそろお腹すいたねー!!何か食べない?」

「そういえばお昼はまだ食べてませんでしたね」



玲夢と柚子の会話で、私もお腹すいてきたかもしれない。


ちょっとしたスペースのところに立っている時計をみてみると、時刻は14時過ぎ。

ありゃ、完璧お昼過ぎてるね。




「食べるっつっても、一旦ここ出なきゃ何もねーだろ?」

「フッフー、コーヒーにガムシロップ10個入れるくらい甘いね橘くん!!」

「どういう例えだよそれ」



そんなコーヒー飲んだのか玲夢は。




「皆の衆、あれを見たまえ!!」


ビシィィッと効果音がつくくらいの勢いで玲夢が指をさしたのは、ウォータースライダーより少し離れた場所。


そこには赤い屋根が特徴的なお店があった。

お店の周りにも白いテーブルやイスが置いてあることから、何か食べるものが売っているのだろう。


あんなところにお店あったんだ。

全く気がつかなかった。



「あの店ね、サンドイッチ売ってるんだけど、中身の具は全部自分でセレクトできるんだよ!!」

「マジ!?え、すげーッ!!行く行く、すぐ行こう!!」



テンションの上がった玲夢と橘くんは走って先に行ってしまった。

2人とも、本能に忠実ね……。



「ふふ、余程お腹が空いていらっしゃるのでしょうね」

「元気だねー、あの2人。ほら棗クン出番だよ。圭祐が先に行っちゃったから君も追いかけないと」

「何故俺に振るんですか。嫌ですよ、部活以外でも保護者なんて」



いや、正直にいって私はあなた方3人とも保護者に見えるんですが。




「私たちも行こうか。翔音くんもお腹空いたよね?」




…………。






「……あのさ、翔音くんいないんだけど」

「翔音さんなら、玲夢さんがサンドイッチの話をされた瞬間、お店に向かって行きましたよ?」



そうだった、お前も本能に忠実な奴だった!!








「ねぇ玲夢。このメンツでプールに行こうって計画したのはいつから?」



自分でセレクトしたサンドイッチを買って外のほうのテーブルにみんなで座った。


ちなみに私が選んだのは、海老とアボカドとレタスとトマトをはさんだサンドイッチ。

アボカドはあんまり食べないけど、唯一この組み合わせは好きなんだ。



「んーっとねー……、一番最初に芹菜にプール行こうっていったときは、あたしと芹菜と柚子の3人の計画だったかなっ」

「玲夢さん、前からプールに行きたいとおっしゃってましたものね」

「うん!!調べたら温水プールあるって知ったから、これは行かなくてはと思ってね!!」



なるほど、最初は本当に私たちだけでいくつもりだったのか。




「それで、みんなで水着買いにいったっしょ?そのときに電話したの!!」

「……電話?誰に?」

「俺にだよー」


テーブルに頬杖を付いてニコニコしている新井くんと目があった。

……あれ、もう食べ終わったの!?
早ッ!!



「週末にプール行かないかって川上サンに誘われて、せっかくだからみんなで行こうってことになったんだよね」

「その後に光から俺に電話来て、俺は絶対行きたかったし!!んで、俺が棗と翔音に電話して誘ったんだ!!」

「……俺は全力で断ったんですけどね。橘先輩がうるさいので今週の俺の昼食代を条件についてきました」



ちゃっかりしてるよね、桐原くんって。





……ん、あれ?
ちょっと待って。



「橘くん、今翔音くんに電話したっていった?」

「ん?おう」

「翔音くんはスマホ持ってないよ?それにその時間は確かバイトしてたはずだけど……」


私たちも水着買ったあとお店にいったし、そのとき翔音くんもいたよね。


……今はあんまり関係ないけど、やっぱり翔音くんにもスマホ買ったほうがいいかな。

すぐどっか行っちゃうし、連絡する手段はあったほうがいいかもしれない。




「あ、悪ィ、言葉足りなかったな。あー、正確にいうと芹菜の兄ちゃん……朔名さん、だっけ?に、電話したんだ」

「朔名?へー、電話番号知ってたの?」

「光が教えてくれたけど?」


新井くんに改めて目を向けると、追加で注文したトロピカルフルーツジュースをストローで飲みながら、ニコッとしてきた。


いやだから貴方何者!?

どんなルート使って人の電話番号とか入手してるわけ!?




ってことは、今の話が本当なら私が家に帰ったときにはすでに朔名も翔音くんもプールのことは知ってたことになるよね?


え、じゃあ全部演技!?

”俺も翔音もプール行かないんだからさー”とか何とかいってたけど、あれ全部演技だったってこと!?



「あとはさっきいった通り、俺たちも来るっていったらきっと芹菜チャンは行きたがらないだろうから黙ってたわけ」

「俺も水着は持ってませんでしたけど、ここのプール水着売ってる店があったんで、今日早めにきて買ったんですよ」



なるほど、つまり私はみんなに騙されていたってわけですね!!

ちくしょう、ハメやがって!!


翔音くんも私に何もいわなかったから、グルだったんだね!!



私は隣に座っていた翔音くんをギリッと睨み付ける。

隣の美少年は、カットされたオレンジがグラスにささったアイスティーをストローで飲んでいた。



「…………」

「……?飲む?」


私の睨みを物ともせず、きょとんとした翔音くんがグラスを私に差し出した。


ダメだ、この美少年は人の話すら聞いてない!!




「あーあー、芹菜チャン機嫌悪くなっちゃったー」

「そりゃあ全員から騙されれば機嫌も悪くなるよ!!」

「でも実際プール楽しんでるでしょ?」

「う……、た、楽しい、けど……」


目を逸らしながらいうと、新井くんはまたニコニコしてくる。

その顔とてもイライラしますな!!





ボチャンという水の音とともに私たちはみんなでプールに入る。

最後は流れるプールで終わりにしようという玲夢の提案だ。




「芹菜ってばまだ機嫌悪いの?そりゃあ騙したのは悪いと思ってるけどさ」

「玲夢、顔ニヤけてるんだけど。ちっとも反省してないでしょ」

「まあまあ過ぎたことは気にしないの!!あんまり気にしすぎるとハゲるよ?」

「全ての元凶が何いってんだァァァァ!!」




ちくしょう、もうプールから出てやる!!
流れに逆らってでも出てってやるわ!!


そんでもって一人でアイスでも食ってやる!!



そう思ってくるっと体を後ろに向けるが、



バシャンッ


「ふぶはぁッ」


やっぱりこの水の流れに逆らうなんて芸当はできるはずもなく、水の中に逆戻りした。



「……芹菜、2度目だよ」


翔音くんは私の腰と肩を掴んで水の中から引き上げてくれた。


さながら溺れた子供を助けてくれたお母さんのようだ。

私もう高校生なのに!!
そろそろ卒業する年なのに!!



「……あ、ありがとう、翔音ママン」

「……は?」


冗談を突っ込んでくれないって虚しいね!!



「……私もうプールから出るね。そんでアイス食べて優越感に浸るんだから」

「……よくわからないけど、ここからじゃプール上がれないよ」



この流れるプールは基本的に最後にたどり着く場所までいかないと上がれない。

途中に梯子もいくつかあるけど、私たちが今いるのはプールの真ん中だから、この人混みと流れの中、泳いで壁際までいくのは無理だろう。



「……、私は翔音くんにだってちょっと怒ってるんだからね!!みんなでグルになって騙すとかイジメですか!!」

「……そうでもしないと、芹菜が来ないかもっていうから」

「そりゃあ、……この年で水着なんて、は、恥ずかしかったし……」

「……だからだよ」

「……え?」



私はゆっくりと顔を上げた。



「……みんなで遊びにいくのに、芹菜だけいないのは、嫌だよ」

私の腰を支える翔音くんの腕に少し力が加わるのがわかった。


「……だから、ちゃんとみんなで来れて、よかったと思う」

「か、翔音、くん」

「……それに、芹菜は恥ずかしいし、嫌だっていってるけど、俺は、いいと思ってる」


……?何が?


「……その水着、似合ってるよ、芹菜」



そうやって、人を褒めたりするときにかぎって綺麗に微笑むんだから、この人は。


何なのもうこの天然タラシ!!



「〜〜〜ッ離せ翔音くん!!プールから上がれないなら私は泳いでやる!!」

「ダメ。人も多いし、泳いだら危ない」

「私の身を案じてくれるなら、離してほしい理由も察してくれよォォォォ!!」




私たちの会話を聞いていたらしい周りのお客さんの”可愛いカップルだね”なんていう言葉に、私が再び暴れ出したのは言うまでもない。



51.無自覚にも程がある

(……や、やっと終わった)
(おかえり芹菜!!何か疲れてない?)
(それに顔もゆでダコみたいに真っ赤だよ。翔音クン、芹菜チャンに何かいったの?)
(……?……水着似合ってる、とか)
(((あー……)))


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