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「やっほォォォォいプール着いたーッ!!!!」



車から降りて両手を広げ嬉しそうに叫ぶ玲夢。



ああ、とうとう来てしまったよ。




只今の時刻は11時。

だいたい1時間くらいで到着した。


この時間でもすでにお客さんはいっぱいだ。


今日が休日ということもあるのか、友達同士やカップルの他に、家族連れで来ている人が多い。




「もう結構お客さんいるけど、入れるかな……」

「一応まだ午前中ですし、心配ないと思いますよ」



不安そうな顔をする玲夢に、にこりと笑って柚子が答える。



すみません、帰るっていう選択肢を下さい。










「よかったーッ、ぎりぎりロッカー空いてる!!」



荷物を持ってロッカーにいくと、お客さんでごった返しているものの、まだロッカーは空いているみたいだった。


ちくしょう、全部埋まっててくれればよかった。




「さーって、ちゃっちゃと着替えてプールいこっ!!」



みんな考えることは一緒なのか、あらかじめ服の下に水着を着てきているので、パパッと服を脱ぐ。




玲夢の水着は白地に黄色いラインの入った三角ビキニ。

柄だけみるとスポーツ水着っぽいかもしれない。



柚子はピンクや黄色、オレンジの花柄が全体にデザインされているチューブトップ。

上下ともにフリルがいっぱいあしらわれていて、とても可愛らしい。

柚子にぴったり!!





「ほら、芹菜も早く着替える!!」

「う…………、はい……」



玲夢に急かされてしまい、私も服を脱いだ。


私の水着は柚子が選んでくれたものだ。


青と白のボーダーでホルターネックのビキニ。

ボトムはスカートタイプになっている。


だってもろ下着っぽい形のやつは着たくないもんね!!

スカートタイプならまだ若干足隠れるし!!




「そんなに気にしなくて大丈夫だよ芹菜、ちゃんと似合ってるから!!」

「ええ、ビキニで極力露出控えるならその形が一番自然で可愛らしいですしね」

「……ドウモアリガトウゴザイマス」

「重症だね」




あああ晒したよ晒しちゃったよ。

ダイエットとかしとけばよかったあああああ!!



私はひとつため息をついた。


まぁでもうじうじしてても仕方ない。


もう開き直るしかない!!



「よし、玲夢、柚子、いこうッ!!いざ戦場へ!!」

「ここプールだよ」





ロッカーの鍵は腕に巻けるようになっているので失くす心配はないだろう。


私たちは鍵だけ腕に巻いてプールへと向かった。







「ひっろォォォォい!!」



そりゃあもうとてつもなく。

さすが人気の温水プール。


プールの数もたくさんあるし、一番奥にウォータースライダーが見えるけど、ここからみても大きいことがよくわかる。




「どのプールから入るか迷っちゃいますね」



プールの数だけじゃなくてお客さんの数も相当いるけど、ひとつひとつのプール自体が大きいから、泳げるスペースがないなんてことはない。


だからこそどのプールに入ろうか迷ってしまう。




「うん、そうだね。どうし…………玲夢?どうしたの?」



ふと玲夢のほうを見ると、あたりをキョロキョロと見まわしていた。




「あー、うん、ちょっと」

「?入りたいプールあるの?」

「いや、まぁプールには全部入ろうとは思ってるけど……、」




玲夢の歯切れが悪い。


どうしたんだろう?
いつもハキハキしてる玲夢にしては珍しいなあ。






「…………あッ!!いた!!」



玲夢が別の場所をみてそう叫んだ。


”いた”?

”あった”じゃなくて?




「おーーい、こっちーッ!!」



何かを見つけたらしい玲夢は、その場所に向かって大声で手をふった。


何となく柚子にも目を向けてみるが、特に反応もしていない。



え、何?

誰かと待ち合わせでもしてたの?




向こうも玲夢の声に気づいたようで、手は振り返さなかったものの、こちらに歩いてきた。


誰なのか気になったので、私は玲夢の横から顔を出してその場所を見る。





そこからの私の行動は速かった。



玲夢に呼ばれた人たちをみた瞬間、私は目の前にあったプールに思いっきり飛び込んだ。





「……芹菜、何してんの?」

「ちょ、ちょっと海水浴を」

「だからここプールだよ」

「……ぷ、プール浴を」

「苦しいね」








「なんだ、まだ芹菜チャンには俺たちも来るっていってなかったんだ?」

「うん。みんなが来てからネタばらししようと思って」

「なるほどねー。じゃあ芹菜チャンも来たってことはバレずに成功したんだね」

「そういうことーッ!!」



プールサイドで玲夢と新井くんが楽しそうに話している。


玲夢……、お前は私をはめたのか!!



玲夢が呼んだ4人とはいつものメンバーである、翔音くんと新井くんと橘くんと桐原くん。


よりによってなんで男の子呼ぶんだ。

帰りたい、ああ帰りたい、帰りたい。

あ、すげ、俳句になったわ。





「ってか芹菜は何でさっきからずっとプールに入ったまんまなんだよ?」



橘くんの言葉にみんな一斉に私のほうを見る。


やめてくれーッという思いで私は鼻がプールに入らない程度まで体を沈めた。




「水着姿見られたくないんだって」



おい玲夢ゥゥゥゥなんでそうポンポン言っちゃうんですか己はァァァ!!



「柄にもなく恥ずかしいんだ?」

「はっ、恥ずかしくなんか、ないし!!」

「そう?じゃあ別のプール移動しようか」




新井くんがそういうと、みんな歩き出そうとする。



み、水着見られるのは嫌だけど、せっかくのプールで置いてけぼりにされるのはもっと嫌だ!!



そうだ、さっき私は水着見られてももうふっきろうって覚悟したばっかりじゃん。


うん、意識しなければ大丈夫大丈夫……!!




私はプールから上がろうと思い、慌てて上がるための手すりを登った。




「……芹菜、いこ」



頭上から翔音くんの声がしたと思い、手すりをのぼりながら顔をあげると、しゃがみこんで私の方に手を差し伸べる翔音くんがいた。



思った以上に至近距離だった。


そしてもちろん、翔音くんは水着である。






バッシャァァンッ



「え、何!?今の水に落ちた音?」

「芹菜チャンが手すりに捕まってた手を離して、プールに逆戻りしたみたい」

「馬鹿なんじゃないですか」





「ほんと芹菜チャンて面白いよねー、いつも笑わせてもらってるよ」

「笑わした覚えねーよ」



あれから私は何とかもう一度手すりからのぼってみんなを追いかけた。




「だってプールに逆戻りするなんて普通はしないでしょ?」

「あ、あれは……っ、」



だって、あんな至近距離でしかも水着の男がいたら誰だってプールに逆戻りしたくなるでしょ!?




「そんなに水着姿見られるのは嫌なの?もうすでに見ちゃってるけど」

「……いや、もうふっきることにした。見せたくないのは事実だけどね」

「ふーん?まあ他に芹菜チャンを見る人なんていないんだし平気じゃない?」

「ありがたいけど、その言い方どうにかならんのか」



妙に棘があるよね!?



「でもいいんじゃない、その水着。可愛いよ、似合ってる」



そういいながら新井くんは私の首から胸までの水着の紐を、指でつつーっとなぞった。




「せっ、セクハ「落とすよ」」


プールに!!??








「まずはどこのプール入るの?」



私が玲夢に聞いてみると、キラキラした顔で振り返った。



「もっちろん、まずはウォータースライダーでしょ!!」


……楽しそうだね玲夢さん。



「ここのウォータースライダーは高さが3段階あるんだけど、そこの1番上にいこっ!!」

「う、うん……ッ、わかった、わかったから手ブンブンすんな!!」



私の手を握ってそりゃあもう楽しそうにはしゃいでいる。

こんな顔みたら誰も断れないよ。







「うわー、近くで見るとものすごい大きいね」



ジェットコースターと同じくらい高さあるんじゃないこれ?



みんなでぞろぞろと一番上まで登った。


階段っていうのがすごく辛かった。

エレベーターないのかよ……。




「芹菜先輩体力ないですね」

「うっさい!!私をあんたら運動部と比べるな!!」

「なんなら今度の合宿参加しますか?走り込みの練習ありますよ」

「勘弁シテクダサイ」



冗談じゃない。

そんなもんに参加するくらいなら、この高さから紐なしで飛んでやるわ!!





たくさん並んでいたにもかかわらず、すぐに自分たちの順番がまわってきた。



「俺いっちばーーんッ!!」


橘くんがそう叫ぶと、一気に滑っていった。

小学生かお前は。




「次は芹菜すべりなよ!!」

「え、私?いいよ、玲夢先にすべんなよ、楽しみにしてたんでしょ?」

「あたしはまだダメだよ、やること残ってるもん」



……やることって何だ?




「もしかして芹菜怖い?まあこの高さあるもんねー、ジェットコースターと違って固定するバーなんてないしー、やっぱり怖いかなー?」

「え、いや別に怖くはないけど、ってか何そのしゃべりかた?」

「そっかそっかやっぱり怖いかー!!でも大丈夫、あたしに任せなさいっ!!」

「人の話聞いてる!?」




強制的にスライダーのすべり出すところに座らされる。


あ、結構幅あるんだねこれ。




「ほらほら、翔音くんも座る!!」



…………ん?


パッと隣をみると、翔音くんも玲夢によって強制的に座らされていた。



「「え」」



私と翔音くんの声がハモった。




「はいっ、2人仲良くいってらっしゃい!!」


玲夢に背中をドンッと押されるとそのまま勢いよくすべり落ちた。



何これどういうこと!?



すべり台をすべるというよりは、ソリで雪山をすべる感覚に近い。

つまりバランスが全くとれない!!

座ってられない!!



あぁああヤバイヤバイヤバイッ、すべる、いや、落ちる!!

つ、つつつ掴まるところォォォォ!!




私は咄嗟に翔音くんにしがみつく。




「……、!!」



顔はみてないけど翔音くんが驚いたのがなんとなくわかった。



ごめんねェェェェ落ちそうなんですよォォォォ!!




無意識のうちに目を閉じていたし、かなり慌てていたので、今自分たちがどこまですべったのかはわからない。



そして、驚きながらも離れないように私の腰に腕をまわしてくれたことも、今の私には気付く余裕もなかった。






「……芹菜、……芹菜」

「…………ん、?何ぶふぉわァァ!!??」



私にとっては何分、けど時間にしてみればほんの数秒のことだったのだろう。



目を閉じていた私は翔音くんの声に意識を戻すと同時に、バシャァァと水の中にもぐっていた。

な、何、着水できたの!?



覚醒しきれていない自分の頭では何が起こったのかわからないが、とりあえず息が苦しいということだけはわかった。




「……ぷはぁ!!」



慌てて水から顔を出す。


なんとか息を整えて、ゆっくりと目を開けると、私の視界いっぱいに映るのは水ではなく、肌色。



ゆっくり顔を上げると、あと数センチで私の唇と翔音くんのソレが触れてしまうくらいの距離に彼の顔があった。



「……ッは、ひあっふぁぁぁぁあ!?」

「どんな悲鳴」



翔音くんのツッコミと同時にまたも私はプールへダイブ。


ええ、2度目ですわ。



「……何やってるの芹菜」



ダイブした私の肩を掴んで体勢をなおしてくれた。


あれ、私子供みたいじゃね?




「……平気?」

「う、うん。なんとか……」

「そう……。今の楽しかった、すべるやつ」

「ああ……私、すべってるときあんまり覚えてないや。バランス保てなくて掴まるところばっかり探してた記憶が……」

「……だから俺にしがみついたの?」

「……え?」



しがみついた?


「……えぇっと、誰が?」

「芹菜が」

「誰に?」

「俺に」



…………嘘ォォォォ!?

あれ、そうだっけ!?

あ、ヤバイ全然覚えてない!!




「ご、ごめん……。それも、覚えてない、です」

「……ん。そうだと思った」

「う……、ごめんね、急にしがみついたみたいで……、驚いたっしょ?」

「……驚いたけど、……嬉しかったから」



……嬉しい?

な、何で?



「……何でなのかはわからない。でも、芹菜に頼られて嬉しいと思ったのは、本当」


翔音くんは少しだけ、ふわりと笑った。




何も言えなくなってしまった。



だって、いつも以上に、綺麗に笑うから。


ずっとぎこちない笑顔で、自分が笑っていることを自覚したのはつい最近のことなのに。



自分の心臓の鼓動がはやく、大きくなった。

これだけ距離が近いと、聞こえちゃってるんじゃないだろうか?


落ちつこうと思っても音は余計に大きくなるばかり。



さっきの笑顔が頭から離れない。


やっぱり私は、翔音くんが、



「芹菜」

「ふはぁい!?」

「……?向こうで光たちが呼んでるみたいだから、行こ」

「あ、そ、そそそだね!!うん、行こう行こう!!」

「……何焦ってるの?」

「なな何でもありません!!」



わ、私、今何言おうとしたァァァ!?

思考が完全に少女化してる!!
重症だ!!

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