50


そのあと私は洗いざらい吐かされた。


どんな経緯で自分の気持ちに気付いたのかとか。

だからそれを話すには剣崎くんとのことを話さなきゃいけなくて……ご、ごめんね剣崎くん貴方に恨みはないけど、この2人が怖いからいろいろ話してしまったよすみませーーん!!





「そっかそっかー、芹菜はやーっと気持ちに気付いたかーめでたいねーっ」

「これからが楽しみですね玲夢さん」

「そうですねー柚子さんっ、いじり放題だねーっ」




助けてください、目の前に悪魔が2体います!!





「告白は?しないの?」

「し、しないよ!!ってか早すぎでしょ、私は最近気付いたばっかりなんだよ!?」

「大丈夫でしょ、芹菜は」

「どこにそんな根拠が!?……それによくあるじゃん。告ってフラれたあとに気まずくなる感じの。怖いじゃん!!」

「…………柚子さん柚子さん、この子自分の気持ちしかわかってないよ」

「報われないですね翔音さんも」

「いや多分翔音くんは自分のことすらわかってないと思うけどねっ」

「もどかしいけど楽しいですね、このお二方は」




何やら2人でニヤニヤしながら話してるけど、小声だからよく聞こえないや。








「ふぅー、美味しかったー」



ケーキも紅茶も全部お腹の中にいき、一息。


やっぱり甘いものはいいですな。




「ふふ……、ありがとうございます」



私の頭上から声が降ってきたと思い顔を上げると、綺麗に微笑む愁さんがいた。



「今回の紫芋のタルトは私が作らせていただきましたので。お気に召して頂けたようでとても嬉しいです」



胸に手を当てて恭しく頭を下げる愁さん。


一人称はいつも”俺”なんだけど、営業中で接客しているときのみ、”私”に変わるんだよねー。


服も燕尾服だし……、




「……愁さん、執事さんみたい……」



無意識に出てしまった本音。

あっ、と思ったけど愁さんは顔を上げて微笑んだ。



そして、






「貴女の執事になれるなんて光栄ですよ、お嬢様」



その言葉と共に、私の左手を取り、甲に唇を落とした。




「……、ッ!?」



突然のことに声も出ない。


正面に座っていた玲夢と柚子、それからまわりにいたお客さんたちが、黄色い声を発した。



ってかこれ、やってること執事というより王子様……!!


いや確かに愁さんは見た目王子様みたいな人だけど!!



真っ赤になっているだろう私の顔をみて、にこりと微笑む愁さん。


とても絵になる素敵な笑顔です。




恥ずかしくなって私は視線をそらした。

だってこれ以上見れないよ!!




「…………」



視線をそらした先のものをみて、私は今度は違う意味で口をぱくぱくさせた。




「し、愁さん、愁さん、」

「どうかしましたか?」

「……う、うう後ろっ、……後ろっ」




震える指でその方向をさす。


愁さんもくるっと振り返って、その笑顔が固まった。




厨房付近からこっちをみていたのは時雨さんだった。


それはもう素晴らしいほどの笑顔で。

”勤務中だっていってんだろ”オーラ全開である。




怖い!!





「……コホン、それでは私はこれで」



若干冷や汗が浮かんでいる愁さんはそういうと、奥の部屋へと消えていった。



そのあと、奥の部屋からドンガラガッシャーンみたいな凄まじい音がした。




うん、紫芋のタルト美味しかったです。





「ただいまー」



玄関でそういうが、返事は返ってこない。

そりゃそうだ。

今の時刻は20時でちょうど翔音くんたちの勤務が終わった時間である。


もう少しで帰ってくるかな。




あの後も話が盛り上がって、カフェを出た後も柚子の家で遊んでいた。


気づいたらもう外は真っ暗だったけど、暗いということで柚子の家の執事さんが車を用意してくれて、家まで送ってくれました。


運転手さん、ありがとうございます!!







よし、じゃあさっそく夕飯の支度しなきゃ!!


今日は……、コロッケでもしようかなー。



コロッケコロッケ〜、なんて歌いながら準備していく。


ご飯とサラダと味噌汁を作ったあと、最後にコロッケを揚げる。


うん、やっぱり揚げ物はサクサクしてるほうが美味しいもんね!!




明日は日曜日だけど待ち合わせ時間が早いから早めに起きなきゃね。



コロッケを揚げながら明日のことを考えてみる。




持ち物とかは、水着以外特にいらないかな?



……プールなんて多分授業以外ではいったことない気がする。


水着になるのはちょっと、いや結構抵抗はあるけど、あのウォータースライダーってやつは滑ってみたいんだよねー。







「コロッケ焦げるよ」

「ッ!?」



突然横から声がして私はビクッとした。


それと同時に持っていた取手もガタンッと揺れてしまい、油がはねた。



「ぁっ……づぅ……!!」



とっさにパッと手を離した。


何本かの指にかかってしまったけど、まあこのぐらいから舐めてれば平気かな。


そう思って一番油がかかった人差し指を咥える。





「……舐めちゃ駄目」





そういって手を取られ、キッチンの水道水で冷やされた。



おおお、感覚がなくなって冷たいんだから分からない。





「……指、痛くない?」

「あ、翔音くんおかえりー」

「………………ただいま」

「ちょ、睨むな!!別に無視したわけじゃないから!!」



心配したのに、私が何の反応もしないから少しムッとしたみたいだ。



「冷やしてくれてありがとう。でも大丈夫だよ、痛くないから」

「……ごめん、驚かせた」




最近、翔音くんは自分が悪いと思ったことは素直に謝るようになった。


動物だったらきっと、耳がしゅんと垂れているだろう。



か、かかか可愛い!!!!

頭撫でてあげたい!!

いいかな、いいよね!!




「翔音くんのせいじゃないよ、私がもっと注意してなかったのが悪いんだから。気にしない気にしない!!」



そういって翔音くんの頭を撫でる。

相変わらず髪の毛さらさらで羨ましいこと山のごとしだ。





「……好きだね、頭撫でるの」

「え?そう、かな。あ、嫌じゃない?」

「……ん、平気」

「!!そ、そっか」



少しだけど、この距離で微笑むもんだから私は自分の顔に熱を帯びるのが分かった。



だって普段は頭撫でるとムッとするのに、今日は笑ってくれるんだもん。


驚きと焦りと恥ずかしさが混ざったような感じになる。




「……芹菜は、本当すぐ赤くなるね」




そういって、そっと私の頬に触れた。


さっき手を冷やしたときに一緒に水で洗ったから、翔音くんの手はひんやりしている。



この状況はとても恥ずかしいけど、でも、




「……翔音くんの手、冷たくて気持ちいい」

「……ん」




熱い自分の顔に、水で冷たくなった手は相性がいいんだろう。


私は柄にもなく、へにゃりと笑いながらそういうと、翔音くんもまた少しだけ微笑んでくれた。









「……イチャつくのはいいけど、お前ら俺の存在忘れてるだろ」

「「あ」」





そうだよね、朔名も翔音くんと同じ店で仕事してるんだから一緒に帰ってくるのは必然だよね。




「お前ら俺の目の前で堂々とイチャイチャしちゃってさー、羨ましすぎんだよコノヤロー」



本音漏れてますよ。



「俺だって彼女欲しいわ。誰か友達とか紹介してくれよ芹菜」

「知ってるか、未成年に手を出すのは犯罪なんだよ、朔名被告人」

「何もしてないのに被告人扱い!?」



”最近お兄ちゃんに対して酷いよォォ!!”とか嘆いてる朔名。

今更である。











夕飯を食べ終え、お風呂も済ませたあと、それぞれリビングでのんびりと過ごす。





「そういえば芹菜、明日も出かけるんだろ?朝早い?」

「んー、待ち合わせは朝の10時に駅ってことになってるから、早いかな」

「電車で行くのか」

「ううん、車だよ。友達ん家の車で連れてってもらうの」

「す、すごいなその友達。車出してくれんのかよ。ならうちまで迎えに来てもらえば?」

「えー、さすがにそれは悪いし……ってか多分この家の場所知らないだろうから」



柚子たちと遊ぶときはいつも外だったからね。



「そっか。ま、気ィつけろな」

「うん」





「……どっか行くの?」



ずっと黙っていた翔音くんがしゃべった。




「うん、玲夢と柚子と一緒にプールいくんだ」

「……プール?」

「……いったことある?」

「…………あんまり覚えてないけど、子供の頃に一回だけ……」

「そうなんだ!!うん、そのプールに行ってきます」




玲夢たちと遊びにいけるのは嬉しい。


プールもここ何年かいってないから楽しみではある。


けど……、






「…………これ、何?」



ソファの前にある机に置いてある紙袋に翔音くんが手を伸ばした。




「ああああ駄目ェェェェ!!」


触れる前に私は勢いよく紙袋を奪い取った。




「みッ、見ちゃだめ!!」

「……何で」

「だ、だって……、これは、ッ」

「あ、芹菜も水着買ったのか」



おいィィィィ何で言っちゃうんだ馬鹿朔名、察しろォォォォッ!!




「……水着?」

「う、うん……。私もずっとプールなんていってなかったから、着れる水着持ってなくて……、柚子と玲夢に選んでもらったの」

「……そう」



翔音くんは一言呟いただけで特に何もいわなかった。


今回は洋服じゃないから、お披露目とかできないもんね。


だってよく考えたら水着って隠れてる部分は下着と同じじゃん。


プールとかではみんなが水着着てるからどうも思わないだけで、こんな家の中で水着着てたらおかしいわ。




「それで?」

「え、な、何、朔名?」

「え?お披露目してくんねーの?俺らはプールいかないんだし、水着見たいんだけど」

「恥を知れェェェェェェッ!!」

「ぎゃアァァァァアアッ!!??」



私はそこらへんに置いてあったものを片っ端から投げつけた。



この馬鹿朔名、何のためらいもなくお披露目とか言ってきたんだけど!!


ふざけんなァァァこちとらこれでも花も恥じらう女子高生だぞ!?

家族とはいえ男2人の前で水着なんか見せられるかァァァ!!





「だから朔名はモテないんだよこの万年発情期!!デリカシーのデの字も知らないんだから!!そんなんで彼女欲しいとか厚かましいんだよグラサンがァァァ溝にでもはまってろォォォォ!!」

「何この暴言のオンパレード!!??」

「…………うるさいんだけど」





しばらくこの争いは続いた。

夜遅いからお隣さんとか普通に聞こえちゃってるだろうなぁ。

すみませんね、ぜーんぶこのグラサンのせいなんで!!



50.絶対に見せないんだから!

(明日早いから私はもう寝るね。おやすみ翔音くん)
(……おやすみ、芹菜)
(えっ、俺には!?)
(明日の朝ご飯覚悟してろよ)
(うわああぁぁぁああああ)


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