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それは、何気ない一言から始まった。







「嫌」

「え、何で?いこーよ!!楽しいよ?」

「いやですー、行きたいなら他の子誘って行ってくださーい」

「……あ、もし一緒に行ってくれたらお菓子あげちゃうよ!!」

「それで私が着いて行くと思うかァァァ!!??」




ただいま、私と玲夢は言い争っている。


その中でどうして私がこんなに断固拒否しているのか、その理由は……、





「みんなでいったことないんだから行こうよ芹菜、プール!!」




そう、プールなのです。





「何で?プールの何が嫌なの?芹菜って別にカナヅチじゃないじゃん普通に泳げるじゃん?」

「……だって、…………水着、」




そう、別に私はプールが嫌いなわけじゃない。

水着になるのが嫌なのだ。




「水着?持ってないの?」

「……それもあるけど、」




私が口ごもっている理由がわかったのか、玲夢はニコッと笑った。



「だいじょーぶだいじょーぶ!!お客さん結構くる人気のとこだし、そんな特定の人じろじろみないって!!それにプールに入っちゃえばわかんないよっ」




どうやら私が体型のことを気にしていることに気づいたみたい。



そりゃあ小学生のときは授業でプールとかあったけど、今は高校生だよ?


私だって体型とかいろいろ気にしてしまう年頃なんだからね!!




「じゃあ今週の土曜日水着買いに行こうっ!!あたしも新しいの欲しいし、柚子も買いにいくっていってたから」

「えッ、私行くなんていってないよ!?それに、もう秋だよ?この季節にプールは寒いでしょ!?」

「チッチッチッー、甘いなあ芹菜は。チョコレートに蜂蜜とシロップをかけちゃうくらい激甘だよ」



それどんなお菓子よ。



「世の中には温水プールというものがあるんだよ?」

「あ」

「もちろん室内だから寒さなんて関係なーい!!」

「で、でも私は行くなんて、」

「だーめ、芹菜もいくの!!もし行かなかったら柚子が黙ってないと思うんだけどなー」

「あっれー?何かめっちゃ行きたくなってきたんですけどー!!プール最高ひゃほーい!!」



くっ……、こいつ、柚子を出すとはなんて卑怯な!!


あの子ミスコン入るくらい可愛いけど、腹ん中真っ黒だからなー。





で、土曜日。





「これなんかどう?」

「可愛らしいですね、色も淡い感じですし。……あ、これも可愛いと思いませんか?」

「いいねこれ!!ネックレス付きだって、可愛いーッ」




水着が売っているお店で楽しそうに選んでいる女子二人。


私はその後ろで疲れ果てていた。




水着を選ぶのに2時間。

彼女の買い物に振り回される彼氏の気持ちがわかった気がする。




「あ、あの、お二人さん……?何をそこまで悩んでいるのでしょう……?」

「何いってるの、今芹菜の水着選んでるんだよっ」

「……え、私の?」



そりゃあ選んでくれるのは嬉しいけど。




「ねえ芹菜、これなんかどう?」



玲夢が見せてきたのは、真っ白の三角ビキニ。

しかも上下とも紐で結ぶタイプ。




「こっ、こんな恥ずかしいの着れるかァァァ布面積考えろよォォォォ!!」

「えー、可愛いじゃん。あたしの調べによると、男の人って真っ白で、形は三角ビキニで紐タイプが人気高いみたいだよ!!」

「そんな情報いらんわ!!」




しかも男の人って何だよ!!

プールで逆ナンでもする気か!?




「じゃあこれとこれならどちらがいいですか?」



柚子が違う水着を2着持ってきた。


……さっきのよりは露出少ない分マシだけど……。




「……あのさ、ワンピースみたいになってるやつじゃダメ?」

「Aラインのこと?だめだめ、高校生なんだからここはビキニで攻めなきゃ!!」

「攻めるって何!?」

「さぁ芹菜さん、どちらか選んでくださいな。これでも露出控えめなものを探してきたんですよ?」

「……いや、その、ワンピ型で」

「これの、ど・ち・ら・か・で」

「………………右で」


逆らえなかった。






3人とも無事に購入し、そのまま解散するのももったいないので、お茶していこうということになった。



場所はもちろん、








「あら、いらっしゃい芹菜ちゃん」

「こんにちわー時雨さん!!」




そう、私と翔音くんのバイト先であるカフェ『Cherry』。



私も本当は今日も明日もバイトする気だったんだけど、今こういう状況だからどっちもお休みをもらっているのだ。


休みなのは私だけだから、翔音くんも朔名もお仕事してると思うけど。



うーん、休みもらえたのは嬉しいけど、みんなはお仕事してるからちょっと心苦しい。





ウェイターさんにメニューのうちいくつかをみんなで注文した。


今は秋だから、サツマイモとか栗系のスイーツがメインなんだよねー。

どれも美味しいから選ぶの大変だった。






「ねぇ、明日の時間はどうするの?」

「んー、あそこの温水プールかなり人気だから午後からいくとロッカー埋まっちゃうんだよねー。だから10時に駅で待ち合わせしないっ?」

「うん、りょーかい。電車だよね、結構遠いの?」

「んーん、車っ」

「…………車?」



玲夢の言葉にきょとんとしていると、玲夢の隣に座っていた柚子がふんわりと笑った。




「私が車を出しますので電車代のことはお気になさらず」




さ、さすがお金持ちのお嬢様。








「お待たせしました。紫芋のタルト2つと、マロンクリームブリュレ1つ、ラズベリーティー1つと、オレンジティー2つになります」

「……あ、朔名だ」




いつも後ろで結っている髪を下ろし、全て右側に流しているヘアスタイル。
少し赤いメッシュも入っている。

ビシッと決めたバーテン服の首元には黄色とオレンジ色のチェック柄のスカーフ。



相変わらずグラサンはかけたままだけど。




「朔名さん、こんにちわーっ」

「こんにちわ」

「おう、こんちわ!!」



玲夢たちに二カッと笑って挨拶をかわす。


んー、やっぱり何度みても慣れないな、仕事時の朔名は。




「どっか行ってきた帰りか?みんな袋持ってっけど」

「はいー、明日のために水着買ってきたんですよーっ」

「水着?もう秋なのに?」

「さすが兄妹、思考回路が同じだねっ」



まじか、朔名ってば私と同んなじこといってるし。





温水プールだと伝えると朔名も納得したみたいで、そのあとすぐに厨房へと消えた。


仕事中だからあんまり一箇所に長居はできないしね。





「……ねえ芹菜」

「あ、このタルトおいしー、紫芋の甘みがちゃんとわかるー」

「えっ、この距離で堂々と無視!?芹菜ちゃん酷い!!」

「ごめんごめん嘘です。で、何?」

「朔名さんもさ、なかなかイケメンだよね」

「………………ぷはーっ、あぁやっぱりここのラズベリーティーはおいしーねー」

「カフェ来て紅茶ガブ飲みとかそうそう無いからね、動揺してんのバレバレだから」



冷静につっこまれたよ玲夢に。



だって朔名がイケメンって……身内じゃそんなこと全く気にならないからなぁ。




「もしかして玲夢さん、朔名さんに好意とか?」

「え?いや、そーゆーんじゃないかなぁ……んー、何だろう。隣の家に住んでる爽やかでかっこよくて勉強とか教えてくれるお兄さん、みたいな感じ」

「それ朔名でも何でもねーよ、別人だよ」



そもそもグラサンかけてる人に対して、爽やかなんて言葉つけないよ。




「そういえば翔音くんは来てないのっ?」

「えー……いや、来てると思うよ……あ、ほら、あれ」



私が指をさす方には、お客さんが帰ったあとのテーブルにある食器などを腕に乗せて運んでいく翔音くんがいた。



最初はあの作業、腕がつるかと思ったけど、今じゃもう慣れた。

私はいつも左腕に乗せてるから左腕だけ筋肉ついたかもしれない。





私はじっと翔音くんをみてみた。


相変わらずの無表情だけど、与えられた仕事はきっちりやってるし、頑張っていろいろ覚えようとしている。



ふと、まわりをみてみると、ほとんどの女性客が翔音くんに釘付けである。


その表情は頬を染めながらうっとりしてる人とか、じっくりは見れないけどチラチラと見てる人とか様々。




まあそうなるよねー、翔音くんは美少年だから。



無意識に見過ぎていたのか、翔音くんが私の存在に気づいた。


パチッと目が合うと、向こうはきょとんとするが、そのあと少しだけ微笑むと厨房へと消えていった。





な……、なんだあの微笑み!?


突然の美少年の微笑みって心臓に悪いよ!!

きゅんってなっちゃったよ、もう!!




「翔音くん最近笑うようになったよねーっ、超イケメン!!ね、芹菜も…………、芹菜顔赤くない?」

「えっ、そ、そそそんなことは、」




「……もしかして芹菜さん、やっと気づいたのですか?」



柚子の一言でさらに顔が熱を帯びるのがわかった。

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