49


「芹菜先輩の家ってどこらへんにあるんですか?」




私の家に向かって歩いている最中。


さっきの桐原くんのものすごく不機嫌だったのは今は落ち着いている。





「んー、学校から歩いて20分くらいの住宅地だね。周り家だらけだから、初めて来る人は迷うかも」

「毎日歩きですか」

「うん。残念なことにうちの近くをバスが通ってなくてね」

「自転車でくればいいんじゃないですか?」

「まあそうだけど、私帰宅部だからせめて登下校くらいは歩いて消費しようと思って」

「溢れ出る脂肪をですね」

「何かすごく生々しいんだけどそれ!?間違ってないけどさ!!」










「お、芹菜おかえりー」


家に続く曲がり角を曲がったところで、前を歩く朔名をみつけた。



時間的に朔名も仕事帰りだろう。



「ただいま、朔名」

「……あれ、隣の……よく店に来てくれる桐原……棗くん、だっけ?」

「はい、桐原棗です。こんばんわ」



桐原くんは朔名に向かって頭を下げた。

年上には礼儀正しいのかな。


……あれ、私年上だよね。





「……一緒に帰ってきたのか?」

「うん、もう外暗いから送ってもらったの」

「手繋いだ?」

「繋いでねーよ」




なんで帰るだけで手繋ぐ必要があるんだ。





「じゃあ俺はもう帰りますんで」

「あ、うん、ありがとう桐原くん!!」




私がお礼をいうと、桐原くんは少し頭を下げてから背を向けて帰っていった。





「やさしーなー桐原くん。わざわざ送ってくれるなんてよ」




何だか朔名が感動してるみたいだけど、送りたいから送ったんじゃなくて半ば強引にだから、私は何とも言えない顔をした。




「にしても今日帰りいつもよりものすごく遅くね?何かあったのか?」

「あー……、うん。実はね、サッカー部のマネージャーを頼まれて」

「は?マネージャー?」

「そう。本来のマネージャーさんが一週間学校来れないみたいだから、その間私が臨時でやることになったんだ」

「なーるほど。まぁマネージャーやるのはいいけど帰り気をつけろな」

「はーい」




私たちはそこで話を終わらせて家の中へと入った。




「風呂先入るか?」

「うーん……、朔名入っていいよ。ちょっと休みたいから」

「んー、了解ー」




朔名は着替えを持って風呂場へ直行。



私は鞄を置きにリビングのドアを開けた。





「ただいまー」



声を発してみたが、返答がなかった。

あれ、翔音くんいないのかな?



そう思ってソファまでいくと、





「あ、寝てる……」



翔音くんはソファで足を伸ばして寝ていた。



そういえば翔音くんも夕飯まだだよね。

いつも私がつくってるし、朔名も今帰ってきたばっかりだし。




私は寝てるのをいいことに翔音くんの顔を見てみた。




いつ見ても綺麗な顔してる。


睫毛長いし、肌綺麗だし。

こんな美少年がうちにいるのが夢みたいだ。



でも今、その綺麗な顔の眉間には皺が寄っている。


ここソファだし、寝ずらいのかもね。




私はその眉間に指を置いて皺を伸ばしてみた。




「……んー、……」



あ、やば、起こしちゃったかな。


翔音くん寝起き悪いからなぁ。

バレる前に部屋にいこう。




私は翔音くんから離れる。


お風呂の前に部屋着に着替えよう。



そう思った矢先、




グイッ



「うきゃわッ!?」




突然手首を掴まれ後ろに引っ張られる。


そしてバランスを崩した私はそのまま重力に逆らうことなく、ソファへ……、いや、翔音くんの上に倒れこんだ。





いっつぅ……!!

鼻ぶつけた、曲がってないよね私の鼻、大丈夫だよね。



あれ、何、どうなったの?




状況を確認しようと私は顔を上げる。



そして、目の前にあるルビーのように赤い二つの瞳と目があったのだ。





「……遅い」

「……はへ、?」



あ、すっごいまぬけな声出た。





「今何時だと思ってるの」




ただいまの時刻、21時半弱。

確かに部活があったとしても学校が終わって帰宅する時間にしてはとても遅い。


そして寝起きということもあって翔音くんの声はすっごく低い。


めっちゃくちゃ怖ェェェ!!





「ごめ……、片付けとかやってたから」




あれ、ちょっと待って。


体制このまま!?
私、翔音くんの上に乗っかったままなんだけど!?



「あ、あの!!……わ、私、降り」

「うるさい」

「すみません」



ちくしょォォォ!!
降ろさせてくれェェェ!!





「あー、んと、翔音くんお腹すいたよね?ご飯まだだよね?今から作るから手を離し」

「夕飯はいらない」




なんだって!?

夕飯はいらない!!??


何よりも食べることを最優先する翔音くんが……!!


え、そんなに怒ってるの!?





「……外真っ暗だよね」

「…………そうですね」

「こんな時間に一人で歩いてたら危ないでしょ」

「………、」








「……あんまり心配かけさせないで」




私の腰にまわっている腕に少しだけ力が加わったのがわかった。


それと同時に自分の顔が真っ赤になっていくのもわかった。



翔音くんの言葉で顔が赤くなってしまうことは何度かあったけど、今は”自覚”してるから余計に熱い。




こうも真正面からストレートに言われるとどうすればいいのか迷う。




「……ご、ごめん、なさい」

「……ん」



私が小さい声で謝ると、少しだけ穏やかな表情をした翔音くんが頭を撫でてきた。



う、よ、余計に顔が熱くなる!!





やっぱりこんなに遅かったら誰だって心配とかするのかな。

不審者いたら危ないしね。

陽向くんもそんなこといってたし……、あっ、そうだよ!!





「あ、あのねっ!!私、一人、違う!!暗いから、違うよ!!」

「……何でカタコトなの」




お、落ち着けー、これじゃあ意味が伝わらないぞ!!




「あのね、今日は私一人で帰ってきたわけじゃないよ!!」

「……?」

「さすがにこの時間一人は危ないからって話になって、家まで桐原くんが送ってくれたの!!だから心配しなくても大丈………ぶ、……」




心配かけないように明るくいったつもりだったのに、目の前の美少年の顔はみるみるうちに不機嫌になっていった。



な、何でだァァァァ!!


一人で帰ってないから大丈夫だっていっただけなのに!!





「……それってこれからずっと?」

「え?あ……んー、多分マネージャーやってる間だけだから一週間くらい、デスカネ……」

「……ふーん」


ホワーイ!?

君は何でそんなに不機嫌なんだい!?






「……ねぇ翔音くん、ほんと、そろそろ腕を離してくれませんか……?」

「……何で」



何でときたか!!


だって私翔音くんの上に乗っかってるんですよ、ちょっと顔上げただけで目の前に貴方の綺麗なお顔があるんですよ!?



これを耐えろと言うのか!!

鬼だ!!






「……嫌?」

「えっ、い、嫌っていうか……その、」

「……俺は別に嫌じゃない」

「………へは」



私は口を開けてぽかーんとした。



嫌じゃないって……恥ずかしくないってこと?


嘘ォ!?


何でこんなにも感性が違う!?





「あ、あの、」

「…………ねむい」

「……え、眠い?」




翔音くんの目はすでに閉じかけていた。





「え、ま、待って!!寝るのはいいけど、せめて私を離してから……!!」

「……やだ」

「何で!?」



即座に返答するが、翔音くんは一瞬黙ってしまった。


そして何秒か間を置いたあとに再び口を開く。





「……何でだろう」



肝心なところわかってないのか!!


わからないのに行動できるってある意味すごいよ!?






「……それより……、俺は寝るから……」

「だっ、だからね!?その前に腕を……!!」

「………」




外してくれないかな、と続く前に、今まで片腕だけが私の腰にまわってたのに両腕に増えてしまった。


ちょ、なんで増えてるの!?

翔音くんすでに寝ぼけてる!?


私を抱き枕と勘違いしてるんじゃないんですか!?





おかげで私は身動きが取れず、翔音くんの胸に顔を埋めている状態。


恥ずかしすぎてどうにかなってしまいそうだ。





「か……っ、かのん、くん!!」

「……芹菜、」

「……!?な、に?」



密着しているせいで、耳元で翔音くんの眠そうな声が聞こえる。



また少しだけ抱きしめる力が強まる。










「……芹菜、抱き心地いいね……」

「……ッ!!??」

「……おやすみ」







私の頭は完全にショート。


それと同時に意識もフェードアウトした。




だって、抱きしめられながら耳元であんなこと言われたら、ね。



心臓がもちません!!









そのあと、お風呂から出てきた朔名が、ソファで気持ち良さそうに寝ている翔音くんと、その上で魂が抜けたような顔で気絶してる私を見て「どういう状況!?」となったのは別のおはなし。



49.その腕が私を離さない

(これで気絶したの二回目だ……)


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