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「状況を説明してください」




休憩時間に入った途端、桐原くんに腕を掴まれそのまま部室へと連れ込まれてから数秒のこと。



不機嫌丸出しの状態で問いただしてくるからちょっと怖い。



「まわりくどいのは嫌いなのではっきりいいます。どうして俺が芹菜先輩を好きみたいなことになってるんですか」

「ごめん、私にもさっぱりわからない」

「焼かれるのと煮られるのどっちが好きですか?」

「嘘じゃないよォォォ!!ほんとに私にもわかんないんだってェェェ!!」



桐原くん、目が本気。

私、半泣き。




「めんどくさいことになりましたね、あり得ないだろ何考えてんだかあの女顔」



……すごいや、怒りは人の性格をこうも変えられるものなんだね。



それと同時に少しだけ悲しさを感じた。


毎回毎回辛辣なこと言われてたけど、そこまで嫌われてたとは……。



私が俯いていると、目の前の桐原くんが呆れたようなため息をするのがわかった。



「そんな明からさまに落ち込むのやめてくださいよ、俺が悪いことしたみたいになるじゃないですか」

「男って女の涙に弱いっていうよね。今私が泣いたらどうする?」

「指差して爆笑します」

「どこの世界に目の前で泣いてる女の子見て爆笑する男がいるんだよ!?」



でも桐原くんならあり得ない話じゃないかもしれない。





「……あのですね、俺は別に好きな相手が芹菜先輩になってるから怒ってるんじゃないんです。どうしてそういう状況になってるのかってことに怒ってるんですよ」

「あ、でもやっぱり怒ってるのね」

「怒りの対象は違うでしょう」

「ってか何で私が落ち込んでるってわかったの?」

「顔にはっきりと落ち込んでるって書いてあるからですよ」

「油性ペンでか」

「はいはい面白い面白い」

「もっと感情込めてくださいィィィ!!」







「……これはもうアイツを一発殺るしかないですかね」

「何で最初っから最終手段いってんの!?もっと段階を踏もうよ!?」

「ご心配なく。ちゃんと2発目3発目も用意してありますから」

「回数の問題じゃねーんだよォォォ!!用意するとこ間違ってるからァァァ!!」




陽向くんのあの態度で桐原くん、相当キテるっぽい。


さて、どうすれば……。




「あっ、そうだ!!」

「却下」

「まだ何もいってないよ!?」

「どうせろくでもない事でしょう」

「そんなことないよ!!あのね、桐原くんに好きな人がいるってことにすればいいんだよ!!」

「は?」

「実は同じクラスのA子ちゃんのことが好きで、みたいな?」

「何でそこアルファベット、100%嘘じゃないですか」

「ジェニファーでも可」

「せめて日本人チョイスしろよ馬鹿が」




桐原くんだけじゃなかった。


私も結構キテるっぽい。





「何だかもう馬鹿らしくなってきました」

「え、何が?桐原くんの頭が?」

「とりあえず天城がその話題を口にしたら否定しとけばいいです」

「……無視ってさ、イジメの中で一番たち悪いんだって知ってるかい?」

「そろそろ休憩時間も終わりなんで、練習に戻りましょう」

「ほんとすいません、お願いだから無視はやめて悲しいから」




とことん私を無視していく桐原くん、酷いや。

あれ、でもそういえば無視されたのってこれが初めてだ。

とうとう反抗期か、そうか。








「芹菜せんぱーい!!棗先輩と部室で何してたんですか?」



グラウンドにもどるなり、陽向くんのこの言葉だ。


首を傾げるあたりすっごく可愛いんだけど、とんでもない勘違いをしてるということに気づいて!!



「何でもないよ。ちょっと雑談しただけだから」

「デートの約束ですか?」

「いや違うから。部活中にそんな話普通しないから」

「映画館とかいいですよねー!!」



聞いちゃいねぇ。




「天城、いっとくけど芹菜先輩とはお前が思ってるような関係じゃないからな」

「うんうん」

「え、そうなんですか?」

「第一、芹菜先輩には好きな人いますよ」

「うんうん…………ん?」




今度は私が首を傾げた。

あれ、何で桐原くんが知ってるの?

私言ってないよね?




今のところ知ってるのは剣崎くんと新井くんだけ、だよね……。



…………。






「どっちだ!!いったいどっちがバラしやがったァァァ!?そういうことベラベラ喋るとか最低だ、あとでぶっ飛ばすからなあのイケメンがァァァッ!!」

「最後褒め言葉ですよ」




剣崎くんはそういうことしなさそうだから、やっぱり新井くんか!?


イケメンだからって何やっても許されると思うなよ、あの隈男め!!





「……勘違いしてるみたいですけど、俺は別に誰から聞いたわけじゃないですよ」

「……え?そうなの?」

「……それ本気でいってるんですか?」




何だこいつありえねーみたいな表情をした桐原くんと目があった。




「何だこいつありえねー馬鹿すぎて燃えるゴミの日に出したい」

「ほんとに言ったよこの人!!ってか暴言増えてるし!!」



先輩をゴミ扱いとか酷い!!





「……ちなみに芹菜先輩の好きな人って誰なんですか?」



首を傾げながら可愛く聞いてくる陽向くんだけど、そんなの教えられるわけがない!!



「ああ、それは翔「ぬわァァァァァァ!!!!」



何バラそうとしちゃってんだこいつは!!



「ぬわァァって……もっと女子らしい悲鳴できないんですか」

「誰のせいだと思ってんの!?悲鳴のダメ出しされたって無理なもんは無理なの!!」







「ということはこれは棗先輩の片想いってことですね!!」

「「……は」」


あ、ダメだこれ、何言っても通じないよこの子。







「お疲れ様でしたー」


あれから陽向くんの誤解はとけることもなく、時間だけが過ぎていった。



制服に着替えて部室を出る。
(ちなみに私は部室にあるトイレで着替えとかすませました)




ただいまの時間、20時半すぎ。


外はすでに真っ暗だ。



マネージャーの仕事は今日一日でだいぶ慣れてきた。

これから明日からはもう少しペースアップしてできそうかな。






「芹菜せんぱーい!!」



花が咲いたような笑顔でこちらにやってくる陽向くん。

すでに制服に着替えおわったみたいだ。




「ん?どうしたの?」

「先輩、もう外暗いですから送りますよ!!」




私はその言葉にきょとんとする。


いや、送ってくれるのは嬉しいけど、むしろ私より陽向くんのほうが一人は危ないと思うよ。

なんたって可愛いから。




「あー、いや、私は……」

「あっ、大丈夫です、送るのは僕じゃなくて棗先輩ですから!!」

「何勝手に話し進めてるんだよ」



後ろから桐原くんが不機嫌そうに言った。




「だってもう真っ暗ですよ?」

「中里先輩だって毎日このくらいの時間に一人で帰ってただろ」

「そりゃあそうですけど……、でも芹菜先輩はこの時間初めてじゃないですか?」



急に私に話を振られて少し焦ったが、とりあえず頷く。


まあ私は部活やってないし、以前、宿題忘れて夜学校に来たときあったけど、あのときは朔名と翔音くんがいたしなぁ。




「ほら、頷いてますよ!!それにマネージャーやってくれたお礼もかねて!!」

「だったらお前が送ればいいだろ」

「僕家反対方向です」

「………………」




桐原くんが黙ってしまった。


いやぁ……、私は別に一人でも構わないんだけど、何か口挟みにくい雰囲気だなぁ……!!



というか、何で私の家知ってるの?



……あれか、あの隈男経由ですか、そうですか。





「生意気いうかもですが、女の子は最後までエスコートしなきゃダメなんですよ!!」

「天城、お前の目は節穴なのか?どこに女子がいるんだよ」

「ちょっと待て、聞き捨てならない言葉が聞こえたんですけど桐原くん」




どうみても私女の子だろ!!??



「私が男に見えると!?」

「いえ、新たな人種かと」

「どういう意味だァァァ」






「あっ、いっけな〜い僕これから行かなきゃいけないとこあるんで〜、えー、うん、そーゆーことなんで〜棗先輩頼みました!!」




スチャッと敬礼のポーズを決めると陽向くんは逃げるように去っていった。




「……どうみてもあれ嘘だよね、目が泳いでたもん」

「………」

「……?桐原くん?」




無言のままでいる桐原くんを不思議に思って私は顔を覗いてみた。




…………見なければよかった。



怒っている顔はしていない。

笑っている顔もしていない。



”無”だ。



無表情だからこそ、ものすごーく怖い。


え、これからこの人と一緒に帰れと?


い、嫌だ……!!





「じ、じゃあ桐原くん、私も先に帰るんで……お疲うぐえふゥゥッ!!」



私も走り去ろうと背を向けた瞬間、襟首を思いっきり掴まれた。



ぐ……っ、く、首が……ッ!!



反射的に後ろを振り向いた。



「……送ります」



眉間に皺を寄せながらドスの効いた声でそう言われる。




「い、いやぁいいです!!わわわ私一人でも全然平気だしむしろ夜とか大好きーみたいなー?」

「あ?」

「えへへ、桐原くん送ってくれるなんて優しい頼りになる〜!!」



何こいつ、勝てぬぇ。

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