48


だいたいみんなが5周したあたりくらいから、それぞれスピードに差がではじめてきた。



1周目から変わらないのは、先頭が部長さんだということだけ。


さすが部長様、しかもまだそんなに疲れていないみたい。




「芹菜ーッ!!俺っ、ずっと2位キープしてるよ!!すごくねぇ!?」


そんな部長さんの後ろを走っているのは橘君。


スタート地点にいる私に向かって大声でこちらにピースしてくる。


そんな大声だしたら体力持たなくなるぞ?



「せっかくマネになったんだし、応援とかしてくんねぇーッ!?」

「橘君がんばれー。」

「なんかどうでもよさそう!!」



調子にのっているワンコは無視だ無視。









「桐原くんがんばれ、あと2周だよー」


桐原くんが私の近くを通ったときにそう伝える。

走ってる最中なので、返事はしないがコクンと頷いてくれた。




大体があと2周残すくらいになってきたとき、私はふと思った。



……あれ、陽向くんは?




そういえばさっきから姿が見えない。


……いや、一人一人をみてるわけじゃないから覚えてないからかもだけど。




そう思ったとき、こちらに走ってくるピンク色が見えた。


あ、よかった、陽向くんいた。




「がんばれ陽向くん!!あと2しゅ、」




私の言葉はそれ以上続かなかった。



まるでここだけスローモーションのように時が流れていく。



ぐらりと傾いた体は私の方に倒れてきて、とっさに受け止める。



「……ひ、なた、くん?」




体が熱い。


声をかけても返事をしない。


なにより、汗のかきかたが尋常じゃない。



これは……!!











「……大丈夫かな、陽向くん」

「ああ、ちゃんと保健の北山先生が見てくれたんだから大丈夫だ」

「……………う、ん……」

「……どうした藍咲?」




あのあと、先頭だった部長さんが来てくれて保健室まで運んでくれた。

1番近くにいた私も一緒に付き添った。


北山先生は見てくれたあと、職員会議に行ってしまって今はいない。

先生によると、熱中症らしい。


真夏ほど暑くはないが、運動していて水分不足もあるし、季節の変わり目ということもある。


きっと体がついていかなかったんだろうと、告げられた。





「もっとちゃんと見てたらよかった」

「……ん?」

「1番みんなのこと見れる場所にいたのに気づかなかった」

「……けどさ、今こうやって後悔できてるだろ?それだけでも成長だ」

「そう、だけど……、マネージャーって簡単にはいかないものなんだね」

「そうだな。サポートっていったって、ドリンクつくってタオル渡すだけじゃない、今回みたいに部員の体調も気遣ってやらなきゃならない」

「うん……、ごめんなさい」

「謝るなって!!最初っから何でも出来るやつなんていねーし、これを機に気をつければいいんだしよ」




部長さんは私の頭をくしゃっと撫でる。




「……さすが部長様、器が大きいね」

「器?」

「うん。なんだろう、言葉にしにくいんだけど、全部包み込んでくれる感じがする」

「………」

「私のまわりに部長やってる人いないからよくわかんないけど……。あ、今頭撫でてくれたのとか、すごく安心した」

「……お前さ、」

「うん?」

「結構反則的なこと言ってることに気づいてる?」

「…………うん?」



反則?


何が?



目をぱちくりさせる私を見て、部長さんは大きなため息をついた。




「うん、まぁいいか。とりあえず俺はそろそろ部活に戻らねーとだから、悪いけど天城のこと頼むな。早く元気になれって伝えといてくれ」

「うん、わかった」



そういって部長さんは保健室を後にした。






「……う、ん……?あれ……」

「あ、陽向くん起きた?」

「え、……芹菜先輩!?」



ガバッと起き上がる陽向くん。



「ちょ、ダメだよまだ寝てなきゃ!!」

「大丈夫ですよ、僕こうみえてもタフなんです」

「自分の今の状況考えてみろや」



説得力皆無だから。




「……もしかして、僕……」

「うん、熱中症で倒れたんだよ」

「……そうですか。ごめんなさい、迷惑かけちゃったみたいですね、重くなかったですか?」

「いや、さすがに運んだのは私じゃなくて部長さんですから」



いくら陽向くんが小柄だからって、高校生男子を運べるほど力ないからね私。




「気分はどう?頭痛いとかある?」

「いえ、今はとくにないです。部活でれちゃいます」

「やめなさい」



それでまた倒れたら意味ないでしょ!!




「……僕、はやく上手くなりたいんです、サッカー」

「……え?」

「試合に出るためにはレギュラーにならないといけません。だから早く上手くなりたい、点いっぱいとれるようになりたいんです。だから毎日練習してるのに……、こんなことで倒れてちゃ、ダメなんです」

「陽向くん……」

「僕は、棗先輩に憧れてるんです」

「……へー……えっ、き、桐原くん!?」


私は自分の耳を疑った。

あの毎回会うたびに辛辣な言葉を吐いてくる彼を!?



「はい、そうです!!」



どうやら聞き間違いじゃなかったみたいだ。

とびっきりの笑顔でそんなこといわれてしまえば私は黙ってしまう。




「棗先輩、まだ2年なのにレギュラーだし、次期副部長だし、とにかくすごい人なんです!!」


ね、熱心に語るなぁ、桐原くん大好きか。



「だから僕は棗先輩みたいになりたくて頑張って練習してるんですけどなかなか上手くいかなくて……。コツを教えてもらおうと思ったんですけど、”そういうことは聞くんじゃなくて、見て盗め”って言われて教えてもらえなかったんです」



あれ、今の桐原くんのマネすっごくうまかったんだけど。




「早く上手くなりたいから先輩に教えてもらおうなんて甘いこと考えてた罰ですかね……」



陽向くんはそういって乾いた声で笑った。


……相当落ち込んでるなあ。


やっぱり倒れた事実が精神的にきてるのかな。







「……陽向くんが桐原くんみたいになることは不可能だと思うよ」

「え……」

「だって陽向くんは陽向くんでしょ?」




私はにっこり笑った。

陽向くんのきょとんとした顔が目にはいる。




「桐原くんみたいになれなくて当然。だって陽向くんには陽向くんなりの個性があるもん。それを押し込めてまでなろうとしてたら絶対に上手くはならないと思う」

「………」

「それにね、早く上手くなる必要はないんじゃないかな」

「え?」

「ほら、勉強と同じだよ。早く終わらせようと思って勉強するのと、しっかり覚えようと思って勉強するのじゃ、結果が全く違うのが想像できるでしょ?」

「……うん」

「それと同じ。スピードも大事だとは思うけど、最初はもっといっぱい時間をかけて学んだほうが絶対頭にはいると思う。桐原くんだってサッカーはじめたときから上手かったなんてことはないだろうし、じっくり経験してきたからこそ、陽向くんが憧れるくらい上手くなったんじゃないかな」





…………あれ、なんで私はこんなに熱弁してるんだろうか。


サッカーなんてルールもろくに知らない私が何でしゃばってんだろう。



どうしよう、陽向くん目が点だよ!!


絶対ひかれてるよこれ!!

何偉そうなことぬかしてんだてめぇみたいな!?





「……芹菜先輩、」

「な、なん、でしょう?」






「かっこいいです!!」

「……へ?」



目をきらきらさせて私の両手を包み込んできた。


「芹菜先輩の言うとおりですね、ちゃんとじっくり練習したほうが自分のためになりますよね!!」

「え、あ、うん……」

「えへへ、僕頑張りますから応援してくださいね!!」



ふにゃりと笑う陽向くん。


え、何この子めちゃくちゃ可愛いじゃねーの!!


男の子だよね、陽向くん男の子だよねえええ!?




「でもほんとに芹菜先輩はすごいですね。今日マネージャーやったのがはじめてなのにアドバイスができるなんて!!」

「あ、いや……うん、ごめんね、何かでしゃばっちゃった私」

「そんなことないですよ、僕にとってはとてもいい言葉でした。今日話したばっかりですけど、芹菜先輩のこと好きになりました」

「……へ?」



今さらりとすごいこと言わなかった?



「あっ、ち、違いますよ!?変な意味じゃなくて、その、憧れるみたいな意味で、好きってことで……!!」

「うん、わかった、わかったから落ち着こう陽向くん病人だってこと忘れてるでしょ!!」






「はぁー、ちょっと焦りました」

「ちょっとどころか結構焦ってたよね」

「だってもし棗先輩にバレたら、」

「……桐原くん?」



んん?

どうしてこの場に桐原くんの名前がでる?




「桐原くんがどうかしたの?」

「あ、いや、僕が芹菜先輩を好きっていったことがバレたらまずいなーって」

「……なんで?」

「絶対棗先輩怒るじゃないですか」




……どうして桐原くんが怒るんだ?


あれか、恋愛にうつつを抜かしてる暇があるなら練習しろとかそういう感じ?




「うん、ごめん、どうして桐原くんが怒ると思うの?」

「え?だって芹菜先輩と棗先輩って付き合ってるじゃないですか」









「はぁぁぁぁぁぁぁあ!!??」



何それ初耳なんだけど!!

え、どこをどう見てそう思ったの!?




「だから好きっていったのがバレたら大変だなーって思ったんです」

「いや待って、それ根本的に間違って、」

「じゃあ僕そろそろ部活に出たいので失礼しますね!!」

「いやいやいやいやそれこそ待って!?陽向くんは病人なんだよ!?」

「もう大丈夫ですよ、少し寝たから回復してます!!それにあんまり長くいると棗先輩に怪しまれますし」

「むしろもう一度ベッドに沈めてやりたいんだけど!!」




なんなのこの子!!


天然ボケなの?

勘違いを改めることなく我が道をいくタイプなの?

そんでもって、ごめんねー間違えちゃったーってへぺろ☆とかやるんだろ!?

女子か!!





「さ、芹菜先輩も部活もどりましょう!!」

「え、いや、でも」

「僕のことなら心配いらないですよ。それより棗先輩のこと応援しないとです!!」



誰かこの子止めてぇぇぇぇぇ!!



48.妄想が止まりません

(棗せんぱーい、もどりましたー!!)
(……なんで俺に報告すんの?)
(芹菜先輩連れてきました)
(……で?)
(棗先輩のこと応援するために戻ってきたんですよ!!かっこいいところ見せるチャンスですね!!)
(……芹菜先輩、あとで話があります)
(奇遇だね、私からも話があるよ)


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