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鳥のさえずりが聞こえる。


窓からはいってくる風がとても気持ちいい。


そっか、もう朝か。



ゆっくりと目を開けると、自分の部屋の見慣れた天井。



これまたゆっくりと体を起こし、ぐーっと上に伸ばしてあくびをひとつ。


うん、よく寝た。





……寝た?



ふと、思考が一時停止する。


あれ、おかしいな。

私、自分の家に帰ってきた記憶がないぞ。





…………。





「夢遊病!!??」











慌てて下に降りてリビングに直行する。

階段を降りる途中、踏み外して若干落ちたが今は気にしない。




リビングのドアを勢いよく開けると、テレビの音が聞こえた。



そしてテレビの前のソファには紫の頭が見えた。



「あ、翔音くん!!」



私の声に気づいて、くるっと振り返る。




「……はよ」

「あ、うん。おはよ……じゃなくて!!」

「……?」



きょとんとしている翔音くんのそばまでいく。




「……私、なんでここにいるの?」

「?ここが家だから」

「うん、ごめん私の質問の仕方が悪かった。帰ってきた記憶ないのにどうして家にいるのかなーって……」

「……俺が運んだから」

「…………ほわっつ?」

「……ひらがな」

「シャラップ!!」




……運んだ?

え、あれ?




私の一番最近の記憶は……。


確か、後夜祭で、剣崎くんと話して、そのあと新井くんが来て、それでまたそのあとに翔音くんが来て…………あ、ここで止まってる。




「……最初は保健室に運んだけど、先生に”疲れがたまってるみたいだから家でゆっくり休ませてあげて”って言われたから」



疲れ?


いや、それもあるかもしれないけど、でも……。




「……いきなり芹菜が倒れてきたから、心配した」

「……っ!!」



……ほんっとにこの美少年はもう!!


なんでそんなにさらりと言えちゃうのかなぁ。




でも、そっか、私、気絶しちゃったんだっけ。

いろんなことが頭の中でぐるぐるまわって、翔音くんのあのストレートな言葉にやられて。


……今思うとすごく恥ずかしい理由で倒れたな自分。





……ん?



「……翔音くん今、”倒れてきた”って言った?」

「……ん」

「え、っと……それは、どこに?」

「俺の方に」

「!!??」

「……心配しなくても、ちゃんと支えたから」




いやいやいやいや別に地面とこんにちはするしないの心配はしてないです!!


そうじゃなくて、支えた、ってことは……あ、……!!






「……なんでまた顔赤いの」




抱きしめられたってこと……、だよね?





う、あ……、だめだ、昨日からパニックになりすぎてて全然落ち着きがない。




落ち着け、落ち着け……。



「ひっひっふー」

「………………」

「……その変なものを見るような目やめてくれませんかね」

「だって変だし」

「顔か?それとも今の呼吸か?」

「全部」

「存在ごとか」



翔音くん、最近ほんと口が達者になってきたよね。






「……あれ?そういえば今何時?」



そう聞いてみるがリビングには壁にも時計はあるので、やっぱり自分で確認してみる。




「……10時」


翔音くんが答える。


「……10時だね」


私も針をみて納得する。




遅刻やんけ。




「……翔音くん、前も言ったけど私いなくても先に学校行っちゃって大丈夫だよ?」



そりゃあ待ってくれるのは嬉しいけどさ、遅刻はあんまりよろしくないし。




「……置いていったら芹菜起きれないでしょ」

「私は何歳児だよ」









一昨日と昨日で学園祭をやったので、今日は1日かけてその片付け作業。

そして明日、明後日が振替でお休み。



片付けって辛い作業だよね。


前日にすっごく頑張ってつくったレイアウトとかもろもろ壊して、ゴミになったものは全部捨てていくんだもの。



まあそのたった2日間しか輝けないものを何日もかけてつくるっていうのも、学生らしくて好きだけど。





「あっ、おはよー芹菜、翔音くん!!さっそく遅刻だねー!!」

「……はよ」

「おはよー玲夢、いや、寝過ごしたわ」

「昨日のクラスの出し物、芹菜が1番長く接客してたもん、そりゃあ疲れるよねー、お疲れ様!!」

「あー、うん、ありがとう?」



そんなに言うほど長くやってたかな?


昨日は出し物を含めてほんとにいろいろあったから、その披露と焦りで何かがプツンと切れちゃったんだろうな。


でもどこも悪くないし、いたって健康だから自分タフだなーとつくづく思う。




「芹菜ー、テーブルクロスとかの飾り付けはずすの手伝ってくれない?」

「あ、うん。いいよー」




カーテンだったり飾り付けの片付けは女子が担当し、机や椅子などをもとにもどす作業は男子にまかせてそれぞれ動く。


あとは最後にみんなで掃除をすれば多分午前中には終わるだろう。






机にのぼって学園祭で使っていたカーテンを外していく。


全部で4枚あるし、なかなかの大きさだから畳んで運んだとしてもそれなりの重さはあるだろう。



誰かに手伝ってもらいたいところだけど、男の子は私なんかよりもっと重いもの運んでて大変そうだし、女の子はその分、掃除だったり細かいところの片付けをやっていて手が空いている人はいなさそうだ。



仕方ない、私でなんとか運ぼう。




4枚のカーテンを畳んで積み上げ、その上にカーテンを取り付けるための金具をのせ、両手で持ち上げた。




ぐ……っ、やっぱりこれはちょっと、重い……!!



少しよろめきながらもなんとか踏ん張って教室を出た。





運ぶ場所は1階の1番奥の部屋。


教室の名前は特にないけど、そこがとても広いから使わなくなった器具とかその他もろもろそこに運んでいるのだ。



このカーテンまだ2日しか使ってないから、この先必要ならきっとそこに置いておけばあとで誰かが持っていくだろう。




少し腕から下に下がってきたカーテンを持ち直して、奥の部屋へと進む。




教室は広いけどそこに行くまでの廊下が他よりも狭いため、少し圧迫感がある。



そしてなによりこの場所を活用する生徒はほとんどいないため、ここだけが異常に静寂している。



外で部活をしているわけでもないので、本当に何も聞こえない。


無音。





「……〜、!!」

「……、〜、…」



「……ん?」



静かなはずのその場所で、誰かの話し声がする。




奥の部屋に通ずる廊下の少し手前に右に曲がる廊下がある。



壁で体を隠して顔だけ少しのぞかせた。




「……どうして、駄目なの……っ?」

「………」




今にも泣きそうな声を出すのは、多分下級生の女の子。

しかもめちゃくちゃ可愛い。


可愛い女の子の泣き顔って、より可愛……おっと危ないなんでもないよ私正常。



そしてもう一人が……、桐原くん。


こんなところで何してるんだろう?





「……理由、教えて……?」

「……俺は今、部活で忙しい。2つのことを両立できるほど器用じゃない」

「っ、大丈夫、部活の邪魔なんてしないし……!!桐原くん、次期副部長だもん、大変なのはわかってる」

「………」




な、なんか、すごく真面目なお話、かな。

空気が凄く重いというか……。



ん、っていうか、なんで私隠れてるんだ?




「……だから、応援したいの、1番近くで。役に立ちたい……。役に立たなかったら終わりにしてもいいから……!!3日、ううん、1日でもいい……っ、だから、」

「だから?」

「……え、っ」





泣きそうな女の子の声とは逆に、静寂した廊下に響いた桐原くんの声はとても冷めていた。






「お前はそれで満足すんの?」

「………ぇ……っ」

「仮に3日付き合ったとして、役に立たなかったら捨てられて、それで満足すんの?」

「……ぁ、わ、たし……」

「……サッカー部員として、俺を応援してくれるのは嬉しい。でもそれとこれとは話が別だろ」

「………」

「少なくとも、付き合う期間とか、役に立つ立たないで成立する付き合い方なんて俺は嫌だから」

「………っ!!ご、ごめ、なさ……ぃっ」





泣き出した女の子は震える声で謝ると、こちらに向かって走りだした。




あっ、ヤバッ、そっか向こうは壁だからこっちにくるしかないんだ!!


か、かか隠れっ……!!




といってもこんな狭い廊下で隠れる場所なんてないわけで。


とりあえず廊下の壁に積み重なってるダンボールとダンボールの間にしゃがみ、持っているカーテンに顔を埋めた。



タタタタッと女の子の走る音が目の前を通り過ぎ、再び静寂がもどった。



そろーりと、カーテンから少し顔を上げる。

よ、よかった、バレなかっ、




「……盗み聞きとはいい趣味ですね、芹菜先輩」




危険危険危険。


頭の中でサイレンが大音量で鳴りだした。



ゆーっくりと、ギギギという効果音とともに顔をさらに上にあげる。




それはもう−50度なんて軽く飛び越えちゃうくらいの(ちなみにバナナは−30度で凍るらしい)オーラを放っている桐原くんが見下ろしていた。




「ひぃぃっごめんなさいごめんなさい盗み聞きするつもりなんてなかったんですでもなんか足が止まっちゃいましてしかも動けない雰囲気でしたし、あの、ああああの……っ!!」




先輩の威厳なんかゴミ箱にさっさと捨てて、私は持っていたカーテンを顔の前にだしてカーテンごしに桐原くんに謝った。


おかげでくぐもった声しかだせないんだけども。



殴られるよこれ絶対殴られるうううう!!




「……はぁ、いくら俺でも女子を殴るわけないじゃないですか」




桐原くんの呆れたような声が聞こえたので、そっとカーテンを顔からどけた。




「でも今”盗み聞き”って認めましたよね」



カーテンをどけた瞬間目に入ったのは、いつの間にかしゃがんでいた桐原くんの間近にある顔だった。




「ぎゃっ「騒ぐなうるさい」」



バッと手で口を塞がれた。



顔が怖いよおおおおおおお!!

その視線だけで人気絶させられるよおおおお!!

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