46


20分くらい、こうしてたと思う。


さすがにもう涙も枯れてきた。

あー、これ絶対目真っ赤だわ。

というか、泣きすぎて目が痛いわ。




「大丈夫か?随分泣いたな」

「泣き疲れたかも……」

「そりゃああんだけ泣いたら疲れるわ」

「うん、でもなんかスッキリしたかな」

「そっか、んじゃあそろそろ戻るか?多分もうキャンプファイヤー終わる時間じゃね?」

「あ、もうそんな時間たってた?そうだね、もどろうか!!」




私たちは明かりが並んでいる道を歩き始める。




「ねぇ、剣崎くん」

「ん?」

「ほんとに、いろいろありがとう」



準備で助けてくれて、一緒にまわってくれて、私を好きになってくれて、自分の気持ちに気付かせてくれて。


1人の人にこんなに感謝することができたのは初めてだ。


この人に会わなかったら、と思うと怖くなるくらい、いっぱい、いろんなものをくれた人。


全部まとめて、”ありがとう”。

泣き笑いな顔で、申し訳ないけど。




「……………」

「………ん?剣崎、くん?」



あれ?

また固まってる、っていうか、聞いてる……?





「……はぁぁぁ……、ほんと、藍咲さんには敵わねーわ」

「え?」

「……泣き笑いとか、反則だろ。そんな顔向けるとか、一瞬でも期待するじゃねーか……、」

「ん?ごめん、小声でうまく聞こえないんだけど?」

「聞こえなくていーの」





そのままそっぽ向きながら歩いていく。


……なんだろう?

まぁ、いいのかな?









櫓の場所にもどると、剣崎くんは宮下くんに呼ばれて校舎内へといってしまった。






私は、どうしようかな。


他のみんなは櫓のまわりで踊ってるけど、私はできないし。



とりあえず、段差のあるところに腰をかけた。





……にしても、さっきは本当に驚いた。


まさか、告白なんて、初めてだったから。



それに、自分のことも…………。






「だーれだっ?」

「わっふぁぁっあ!!??」



急に後ろから目隠しをされて私は叫んだ。




「相変わらず面白い悲鳴あげるよね、悲鳴と呼べるかも微妙なところだけど」

「あああ新井くんんん」



目隠ししていた手をはずし、振り向くと、いつも通りにこにこした新井くんがいた。




「踊らないの?」

「いや、だから私は踊れないって」

「別にすごいノリのある曲ってわけじゃないんだし、大丈夫じゃない?」

「仮に大丈夫だったとしても踊る相手がいませんよ」

「俺は?」

「却下!!足踏んだ場合あとで何されるかがすごく怖い!!」

「よくわかってるじゃん」

「いい笑顔!!」




そんないくら踊ろうとかいわれても裏があったら何が何でも断るに決まってるでしょ!!





「……あ、そうだ。芹菜チャン、先に謝っておくね」

「え?何?」

「……聞いちゃった、さっきの話」






………………間。





「えええぇぇぇぇええええッ!!??」



それはもう、踊っている人たちの視線まで釘付けにするくらい叫びましたとも。




「えっ、な、……はい!?」

「うん、……だから、ごめんねって……」



新井くんはとてもばつが悪そうな顔をしている。


……ということは偶然ってこと?





「俺も別に踊る相手なんていないし、圭祐たちもどっかいっちゃってたからさ、静かな場所ないかなーと思って中庭行ったら……ね。ちょうど聞こえちゃった」

「……ど、どっから聞いてたの?」

「聞いたのは剣崎クンが芹菜チャンに、”好きなんだろ、あいつのこと”っていってるあたり。あ、と思ったから俺は直ぐにその場所を離れたけど、あの状況からして、剣崎クンが芹菜チャンに告ったことと、芹菜チャンが自分の気持ちに気付いたんだろうなーっていうのはわかったよ」




……言ってもいかな。

それってすごっく鋭くない?

すぐに立ち去ったのに、その一瞬で状況がわかるとかすごすぎない?



あ、エスパーだから?

なるほど、わかり……たくないな。




「んー、でも、」

「……え?」

「……泣いたことまではわからなかったけどね」



そういって私の目の下に軽く触れた。


あ、やっぱり真っ赤に腫れてるよね。



「知ってる?実は魚の中に、」

「出目金のくだりはもういいよ」



桐原くんだけじゃ飽き足らずこいつもそのネタに走るのかよ。





「にしてもやっと一歩前進したってとこだよねー」

「え?」

「今までも俺が何回か言って気づかせようとしてたのに、芹菜チャンは馬鹿が付くほど鈍いから全く意味ないし……」

「一言余計だよ。……というか、新井くん何かしてたの?」

「……うわー、自分の気持ちには気付いたのにそれまでのまわりの行動把握してないとか、イラッとするな。ちょっと一人で踊ってきなよ」

「笑顔で悪態つくのやめてくれませんかねぇ!?」




そんなこといったってわからないものはわからないんだから、仕方ないじゃんか。




「まあいいけどね。……それより、翔音くんには会った?」

「ううん、後夜祭始まってからはまだ会ってないけど?」

「じゃあ会うべきだよ」

「何故」

「告らないの?」

「待って待って急展開すぎるでしょ!?私には落ち着く時間も与えてくれないの!?」




さっきの剣崎くんとのお話もまだうまく整理がついてないのに、また新たに行動とか、私そんなに器用じゃないから!!




「まあ確かにこれに関しては芹菜チャンが決めればいいことだけど……」

「……うん?」

「俺で何人目かな?”はやくしないと翔音くんとられるよ”って言われたのは」

「…………3人目」

「クスクス……、結構言われてるね。今ならその意味わかるよね?」




……わかる、けど、わかるんだけど。


その実感があまりない。

確かに翔音くんはすごく人気なんだけど、……うーん。




「芹菜チャン、自分の気持ちに気付いても、まだ恋愛意識は乏しいんだねー」

「え、何その可哀想なものを見る目は?」

「可哀想だねー」

「言っちゃってるしいいい!!やめてくんない!?なんかその目すごく刺さるんだけど!!私ガラスのハートだから丁重に扱ってくださいよ」

「どうせプレパラート並みの強度でしょ」

「弱っ!!あれすぐパリーンっていくやつだよね、もろすぎない!?」

「一瞬で粉々にする自信あるよ」

「この人私の心粉々にする気だ」





油断も隙もないぞ、このエスパー新井め。






「……じゃあ俺はそろそろいくね」

「え?どっかいくの?」

「男子全員宮下クンに集合かけられてるんだよねー」




何その宮下くんは実は陰のボスなんだぜ的な言い回し。




「またね、芹菜チャン。頑張って」

「え?あ、うん……?」





頑張って?


何を?
翔音くん絡みのことかな?


去る前に主語いってくれよおおおお!!






はぁ……。



…………。


…………。





…………ダメだ、なんかすごく落ち着かない!!


頭の中がぐるぐるまわってる。






剣崎くんと初めて会話したのは、この学園祭の係りを決めるときから。


今思うとものすごく最近だ。


そんな短い期間で、わ、私を、す、すす好きに、なって、告白までして……、すごく、行動力があるって思う。


私には、無理だ。

そんな力も、勇気も、何も持ってない。



翔音くんとはもう5ヶ月くらい一緒にいる。


なのに、いつ好きになったのかなんてわからないし、なによりそれに気づいたのも自分の力ではない。




ほんと、鈍いなー……。





私は足に肘をたてて頬杖をついた。




”翔音くんが奪われる”



みんなに言われてきた言葉。


玲夢とか、あと後輩の女の子たちも”とられることなんてないですよ”って言ってたけど、可能性がないわけではない。

あれ、そうすると言われたの4人目?




……どう、しよう。


いや、たしかに自分の気持ちには気付いたけど、今どうこうする気はないし、なによりこのままでいたい。



少女漫画とかでよくあるじゃん?


告ったはいいけどフられて気まずくなる状況。


剣崎くんとはそうはならなかった。

向こうが普通に接してくれて、私も今まで通り会話したから。




でも、それが翔音くんで同じようになるかといったら、わからない、である。



私は翔音くんが好き…………、改めて言うと恥ずかしいな。


けどひとつ問題がある。






翔音くんは恋愛的な意味で”好き”って言葉がどういうことなのかわかるのかな。




……まず、そこからだよね。


だって、”彼女”が何なのかもわからないくらいだ。

絶対意味なんて知らないだろう。




………うん、やっぱりしばらくいつもの通りにいこう。


……いつも通り、できるかな。










「……何百面相してるの」


頬杖ついている私の目の前でしゃがんで覗き込んできたのは、たった今話の中心になっている翔音くんだった。






「…………………………」

「……芹菜?」





驚きを飛び越えて声も出なかった私はただ頬杖ついたまま、目の前にいる美少年に目をぱちくりさせた。




「………」


バチン


「いたっ!?」



何も喋らない私に不満があったのか、翔音くんは私にデコピンした。




「痛いよ翔音くん、いきなり何すんの!?」

「……芹菜が何も喋らないから」

「だってそれは翔音く……、」




だってたった今までずっと翔音くんのこと考えてたんだもん。



なんて言えるわけがない!!

あっぶなあああい、危うく言ってしまうとこだった!!




「俺が、何?」

「なっ……んでも、ない」




あ、どうしよう。
今すごく顔が熱い。


自分の気持ちに気付いてしまったから。

目の前の美少年が私の好きな人だから。

そう思うと何故か毎日見ているはずなのに、すごくかっこよく見えてきちゃって。





「……顔、赤いよ」



手を伸ばして、私の頬に触れてきた。



冷たくて気持ちいいけど、顔の熱さはますます上がる一方で。



「か、翔音、くん……、み、宮下くんに集合かけられたんじゃないの?」

「……ん」

「い、いったほうが、いいんじゃない?」

「……行くけど、」

「……?」








「……まだ、芹菜と居たいから」

「……ッ!?」



また、翔音くんはちょっとだけ微笑んだ。




ずるい。

綺麗に笑って、そんなこと言われたら、赤くならないってほうが無理な話だ。


どうしてそんなにストレートなの。


いつも通りなんて、さっき気付いたばかりの私には無理なことだった。






限界。





「……芹菜?」



翔音くんが私を呼んだ。


答えようとしたけど、声が出なくて。



顔が熱い。

頭がまわらない。



風邪?

ううん、違う。


目の前の翔音くんがぼやけて見える。



そして、だんだん視線が地面へと移動して……。


私は一気に体の力が抜けた。


重力に逆らうことなく、前に倒れこむ。






「……ッ芹菜!?」



珍しく、翔音くんの焦った声が聞こえた。


こんな大きな声も、出せるんだ。





ポスッと、抱きとめられたのがなんとなくわかった。



けど、目が開かない。


思考も停止していく。



私の名前を何度も呼ぶ声が聞こえるけど、だんだん、気が遠くなっていった。









恋だなんて、早すぎたのかな。



私にとって君は、眩しすぎる。



46.甘い誘惑に息が出来ない

(おおーい翔音ー、宮下が呼んで……っえ、え!?何、芹菜どうしたんだ!?ひひひ光!!芹菜が!!)
(……芹菜チャン、何かあったの?)
(……ッ、わからない。保健室、いってくる)

((……珍しいな、翔音クンが目に見えるほど焦るなんて。……芹菜チャンは、翔音クンにやられちゃったのかな?))


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