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私が今歩いている場所は、櫓からすこし外れた中庭。


キャンプファイヤーは校庭でやっているため、中庭にはあまり人の姿はなかった。

というのも、街灯の明かりが転々としているだけなのでとても薄暗いからだ。



え、なんか……、




「……なんか出そうだな」

「わあああああああいうなああああああ」



私が続きを言うまいと心で思っていたことを、奴はあっさりと口にした。



奴……、剣崎櫂斗くん。




「あれ、もしかして藍咲さんて怖いのダメな人?」

「うっさい」

「大丈夫だろ、出そうではあるけど出るわけねーし。俺もいるし」

「ソーデスネ」

「相当だな」



ケラケラ笑う剣崎くんはキラキラしちゃってる。


そうだね、貴方のそのキラキラな眩いスマイルでヤツらのほうが逃げ出すよね、うん、そういうことにしておこう。






「夏だけど夜はやっぱ少し涼しいな」

「うん、風もちょっとあるしね」

「その風のせいだろうけど、校庭からの声ここまで聞こえね?ここと校庭の間に校舎あんのに、みんなすげー騒いでんな」

「多分私たちの学年じゃない?これで学園祭最後だしねー」





そう、最後なんだ。

これから受験に向けて勉強する人が増えていく。



……うわ、嫌だ。

進路とか、なんも決めてないンデスケド。



「……案外あっという間だったな、3年て」

「だね、入学したときはまだ3年もあるとか思ってたのに」

「俺も。もう18歳とか全然自覚ねーし」




……あ、あれ?

なんでこんなしんみりモード?

え、やだやだ私にシリアスとか似合わない、なんか考えろ考えろ考えろ……。




「……け、剣崎くん!!」

「ん?何?」

「わ、笑ってください!!」

「……え?」




きょとんとした顔を向けられた。


わあああ何言ってんだ私いいいい!?

他に何か思いつかなかったのかよおおおおお!?


しりとりしようとかさあ、なんかあっただろ!?(あまり変わらない)




「……ほんと、藍咲さんて面白ぇよな」

「え」

「見てて飽きない」



そういってまたケラケラと笑う。

これは、褒められているのか?

いや、褒められてる感全くないんだけど、というか馬鹿にされている気が……。





「なんかあんまり喜べないんですけど」

「可愛いってほうが嬉しい?」

「いや、それはそれで現実離れしてる」

「そんなことはねーと思うけど」

「いい眼科を紹介するよ」

「認めねーのなー」




だって生まれてこの方可愛いとかほぼ言われたことないからね!?

普通ですよ普通、普通が一番、平凡万歳。




「……変なこと聞くかもしれないけど、剣崎くんはやっぱりかっこいいねー、とかは、よくいわれる、よね?」

「ん?あぁ、割と毎日」

「毎日!?」


レベルが違いすぎるわ。
さすがミスコン連続優勝。



「ハイスペックすぎて想像もできないや。モテモテですね」

「まーな」

「否定しないんか。彼女とかいっぱいいそうでなにより……」

「彼女なんかいねーよ?」

「…………え?」



ちょーっと嫌味を込めて言ったつもりがあっさりと否定されてしまった。



「わ、わんもわぷりーず?」

「英語苦手なのか?」

「純粋な目でこっちみるなよ、悪かったなひらがな英語で!!」





待って待って。

今、彼女いないって……、



「ほ、ほんとにいないの?」

「あぁ」

「あれは?1日目で一緒にまわったときに声かけてきた女の子3人組の誰か、とかは?」

「あぁー、あれは普通に友達って感じだな」



あんなに美人な人たちでもまだ友達レベル……!?



「す、すごいハイレベルな戦いですね」

「……何を想像したのかはわかんねーけどさ、俺別に顔で彼女選ぶわけじゃないからな?」



ジト目で見られた。

うん、なんかごめんなさい。





「……好きなやつならいるんだけどな」

「……好きなやつ……え、待って、聞いてもいい?」

「ん?」

「まさか、片想い、とか」

「そうだよ」



う、嘘だああああ!?


こんなにイケメンなのに?
まあ確かにチャラナルシストだけどもさ。

もったいないなー、その相手どこ見てるんだろうね。



「まあ好きになったのは最近なんだけどな」

「へー、そうなんだ」

「でも全然気付いてくんねーし、むしろ俺に全く興味ないみたいだし」

「でもミスコンで毎年優勝してるんだからその子だって剣崎くんのことは知ってるでしょ?」

「そりゃあ知ってるけど。でもほんとにその程度。それ以上俺のところに踏み込んでこようとしねーんだ」




話している剣崎くんの顔は、まわりにぼんやりとした明かりしかないからはっきりとは見えないけど、なんとなく寂しそうに見える。




「剣崎くんなら、自分からいってもすぐにその子も振り向いてくれる、とかは……?」

「ないな。そいつすげー鈍いし、俺も自分からいろいろ行動したけど結果的に無理だって思った」

「”思った”?」




あれ?
もう完結しちゃったお話?



「そいつな、いつも隣に男いるんだ」

「え、まさか彼氏?」

「いや、彼氏じゃねーよ。……なりつつあるってとこだけどな」

「そ、そう、なんだ」




こういう話、男の子とはもちろん、女の子とさえほとんどしないから、こんなときどんな風に声をかけてあげたらいいかわからない。


下手に言っても相手を傷つけるだけだから。




「……でも、剣崎くんをそう思わせるほどの男の子って、なんかすごいね」

「だろ?そいつもすげーイケメンなんだよ」



”も”って、いってる時点でやっぱりこの人はナルシストだと再認識した。




「でもイケメンさでいうなら優勝者の剣崎くんのほうが……」

「不特定多数の投票より、特定の人からの1票のほうが大事なときもあんの」



お、おぉ……、なんかすごく胸に刺さるお言葉。




「じゃあその子が誰に投票したかってこと知ってるの?」

「あぁ、見たっつーか、見えたってのが正しいけど、まぁたまたまな。投票って誰が誰に入れたかなんてわかんねーから、わりとみんな本心を書くやつ多いだろ?だから余計に、な」

「そっ、か」




ど、どうしよう。

空気が!!




「えぇっと、その……諦めちゃう、とか……?」




私の言葉に、剣崎くんは黙ってしまった。


あ、あれ!?

え、嘘、待って私もしかしてまずいこと言った!?

どどどどどうしたら、え、え!?




「……逆に聞くけどさ、」

「は、はい!?」

「……諦めなくていいのか?」

「……え、」



わ、私に聞くの?






「け、剣崎くん……?」

「………」

「えと、その、私に聞くよりその子に聞いた方が……」

「…………はぁー」




ものすごく、ものすごーーーく深いため息をつかれた。


え、何?




「……藍咲さんてさ、相当鈍いな、みんなに言われね?」

「……さ、最近、よく言われる」

「救えないほどに」

「おっしゃる通りで」



や、やっぱり鈍いんだ、私。

でも、そんなこと言ったって……、




「……言ってくれなきゃ、わかんない、よ」



鈍いっていうのは自分でも最近気づいた。


みんなにはわかっているみたいなのに、私にはわからない。

なんで?

観察力不足的な?

わ、私に人間観察なんて趣味はないぞ。




「……まぁ確かに、人のことには鋭くても、自分のことになるとまるで鈍感になるやつはいるけどな」

「え?」

「藍咲さんもきっとそれだろ?」

「う、うん?ん?」




結局、何が言いたいの?





「……俺としては、学園祭一緒にまわろうって誘った時点でちょっとは気付いてくれるかと思ったけど、かなり手強いな」

「……え、」

「……なぁ、藍咲さんは俺のことどう思ってる?」

「え?……んー、女好きチャラナルシスト?」

「ハハッ、やっぱ最初と変わんねーか」



さっきからずっと寂しそうに笑う剣崎くん。

その顔には、いつもの光が全く見えなくて。




「確かに俺の周りには女がいっぱいいる。でも別に自分からいったわけじゃない。向こうから来るんだ」




中学2年のとき、初めて女の子に告白された。


俺はそのときから女友達が結構いるほうで、その子もその友達の1人だった。


彼女なんて初めてだったから、そのときの俺はその子と付き合うことにした。



付き合うといっても、その子とはいつも一緒にいるメンツだったから、さほど何かが変わるわけじゃなかったんだ。


まぁまだ中学生だったし、どっか駅とかに2人でたまに出かけるくらいだな。



それでも俺はすごく楽しかった。
こういう関係もありなんだなって、中学生なりに思ってた。





「けどな、半月くらいたったあと、そいつ、遠くに引っ越したんだ」

「え?急に?」

「あぁ、俺に何も言わないで」

「………」

「まぁ後からわかったことだけど、さよならっていったらもう逢えないかもって思ったらしくてさ、だから何も言わないで引っ越したんだと。今思うとなかなか可愛いこと言うなーってな」





けど、そのときの俺はそんなこと全く気づかなくて、すごく、寂しかった。


なんつーか、ぽっかり穴が空いた感じっつーのかなー。


とにかく、その穴埋めようと必死でいつもの友達と一緒に楽しく騒いでたんだ。





「そのときからかな、告白される回数がかなり増えたのは」

「え、増えたの!?」

「増えたんだよね」




男友達によると、俺に彼女がいなくなったから、余計に増えたらしい。


そりゃあ、最初は焦ったけどさ、別に悪い気もしなかったし、告白してきた子とは付き合ったよ。




「……まてまてまて、」

「ん?何?」

「その告白してきた女の子って、一体何人いたの?」

「んー、ざっと15人、くらい?」

「誰かあああ、ここにとんでもないタラシがあああああ」

「ばっか、叫ぶなよ響いてるじゃねーか思いっきり!?」





はぁ、で、続けるけど。



付き合ったのはいいんだけどさ、まずほとんどが長続きはしなかったな。


「私より他の女の子と仲良いね」

「ほんとに私のこと好きなの?」



だいたいこんなこと言ってくる子が多かった。


といっても俺は好きっていった覚えはないから、そこらへんはどうなんだろうって思ったけど。


え?俺サイテーだって?

ま、まぁ俺もまだ子供だったってことで……。



とにかく、そんな感じで付き合ったり別れたりを繰り返してたんだけど、その中で一番言われた言葉があるんだよ。






「”なんか、イメージと違うね”ってな」

「……イメージ?」

「中学のときは髪も染めてなかったからさ。相手が何思ってたかは知んねーけど、俺に王子様みたいに紳士的なイメージとかあったんだろ」





だから、実際に付き合ってそれが違うとわかって、別れる人がほとんどだった。




結局、顔なんだ。


みんな俺の顔しかみてない。

顔が良ければ性格も完璧なんだと思い込んで、違ったらあっさり離れていく。



女って怖ぇーな、そう本気で思った。




けど、そんな女でもひとつだけ凄いと思うことがある。





「俺さ、自分から告ったことねーんだ」

「……相手から来るから?」

「あぁー、まぁそれもあるけど……、俺に、そんな勇気なかったし」



だからさ、理由はなんであれ、直接俺に好きだって伝えて来る子が、なんか、きらきらしてみえたんだろうな。



俺にはないものを持ってる。

すげーな、って。




でも結果的にはみんな一ヶ月も持たなくて別れたんだけど。







「だから俺はそれ以来、彼女は作ってない。友達はいるけどな」

「あ、あれ?でも私今でも可愛い彼女何人もいるって聞いたことが……」

「それ噂だろ?多分女友達を彼女と間違えてるやついるんじゃねーの?」



な、なるほど。

そういえば昨日来た3人組もみんな美人だったもんね。






「なんかごめんな?昔話長々と話して」

「あ、ううん。でも、イメージ違うなっていうのは、私も思った」

「え?」

「最初は本当にただのチャラくて女好きでとんでもないナルシストだなーって思ってた。今でもほとんど変わってないけど」

「さらりと悪口かますんだな」

「でも!!でもね、学園祭一緒にまわったとき、優しいなって思ったよ」

「………」

「私が衣装作ってて失敗したとき、助けてくれたし、実際まわってるときも、どこいきたい?ってちゃんと聞いてくれたし、クラスの出し物の手伝いも嫌な顔はしてたけど、最後までやってたし」

「………」

「ちゃんと、いいところあるなって、思ったよ」

「………」

「だから、……、あ、あれ?剣崎くん?聞いてる?」



何故か剣崎くんは手の甲で口元を抑えていた。

俯いてるし、暗いから顔は見えない。

けど、街灯でほんの少し光が当たっているからそれでわかるのは、……耳赤い?



「……どうしたの?な、なんか私変なこといった?」

「べ、別になんでもねぇ……」

「耳赤いけど……」

「き、気のせいだろ……ッ、」




あ、これ、あれだ。
一緒にまわりはじめるときにみた、いつもと違う剣崎くん。




「……まあ、でも、そう思ってくれただけでも、いいか」

「え?何が?」

「…………」

「……剣崎くん?」












「……俺の好きな人が、俺のこと優しいって思ってくれてるだけでも、進歩かなって思ったんだよ」


「………ぇ……、」



好きな人……って、




「今まで女とはさっき話した通りの付き合いしかなかったから、俺もそれ以上は望まなかった。けど、とある女に会って変わったんだ」

「………」

「そいつは俺に媚を売らないし、むしろ俺の名前さえ知らない変わったやつ。話しかけても優しくしても俺に落ちない手強いやつ」

「………」

「……そいつの近くにはいつも美少年がいて、ちょっと対抗したつもりでキスしたけど、驚いただけでとくに何も反応しなかったやつ」



そ、それ、は……、





「…………やっと気付いたかよ、ばーか」




少しだけ赤い顔で、でもやっぱり寂しそうな顔で、目の前の彼は笑った。




「あ、あの……わ、私、っあ、う、」

「ハハッ、大丈夫?俺より焦ってね?」

「だ、だって、は、初めてだか、ら……」




顔がとんでもないくらい真っ赤なのが自分でもわかった。

うまく言葉が出なくて、情けないくらいに焦る。




「……最初はさ、普通に俺の名前知らないやつがどんな子なのかなーって思っていろいろ話しかけてたんだ」

「………」

「いつもならすぐに落ちるはずなのに、全く俺に興味がない。これは面白い子だと思って話しかけてたら、いつの間にか好きになってた」

「……ッ、」







「……でも、隣にはいつもあいつがいる」



俺と話してるときと、あいつと話してるとき。

とくに変わったとこはねーけど、やっぱり何かが違うんだと思った。




もちろん俺はそれで諦めたわけじゃない。

だからこそ学園祭一緒にまわろうって誘った。


けど、まわればまわるほど、俺のことはそういう対象として見てねーんだなって実感したんだ。



だから、最後の最後、あいつがこっちに来てるってわかってて、俺はキスした。


ただの、俺の意地だ。



少し、ほんの少し、一瞬でもいいから、俺を見てくれたら……そう思って。





「……けど、結局好きなのは、俺だけだったな」




そういう彼の顔は、今にも泣きそうだった。




気づかなかった。


ここまで自分を思ってくれる人がそばにいたのに、全く気づかないなんて。


鈍いなんて、そんなことじゃ済まされないくらい……。




「……あ、の、ご、ごめ……なさい」

「んー?」

「全然、わかんなくて、私、酷いな、ほんと……、それに、気持ちにも、こ、答えられなくて……」

「……なんで藍咲さんが謝んの?本心が聞きたかったから、いいんだよ、それで」

「え、でも、だっ、て、酷いじゃん私……、気づかないにもほどがあるっていうか……あの、」

「……じゃあ気付くのがもっと早かったら、俺に対しての接し方変わってた?」

「ぇ、……」




トンッと軽く押されると、私の背中に壁が当たり、顔の横に手をつかれた。


あ、あれ?
いつの間に壁ここにそびえたの!?



て、いうか、これ、壁ドンてやつ?

え、あれ、なんかさっきまでの剣崎くんどこいった?
なんかいつもの剣崎くんにもどってない!?

ど、どうしよ!?

まわり誰もいないし、に、逃げ、




「……他のこと考えてる余裕あるんだな?」

「ひぎゃっ!!」



みみみ耳元おおおお!!

や、やっぱり剣崎くんいつものチャラさにもどってる!!

さっきのシリアス?どこいった!!




「……で?答えは?」

「あ、の、ですね!!」



お、落ち着け、落ち着ける状況じゃないけど、とにかく落ち着け!!




「っ、もし、早く気づいてても、何も変わらないと思う」

「………」

「こういうことは、気付いた今となっては言いづらいんだけど、やっぱり、態度を変えるのはその人にとって失礼だと思う」



自分もその人のことが好きだったら、もしくは気になってた人だったら、いいのかもしれないけど。



「でも、変に期待させるのは、その人を傷つけるだけだと思うから。だから、私は……ずっと友達でいると思い、ます」







「ふ、ハハハハッ」

「え、あれ、なんで笑う?」

「いや悪ぃ、藍咲さん、変なとこで鋭いなと思ってさ」

「え?うん?」




またケラケラと笑っているけど、さっきと違ってほんとに楽しそうに笑っている。

なんか、スッキリしてる、みたいな?



「それでこそ、俺が好きになった人だな」

「、あり、がとう?」

「……うん、俺も一通り全部打ち明けたからなんか楽になったなー……ってことで藍咲さん、」

「え、何?」

「俺ら随分イイ格好してると思わね?」

「は、」



誰もいない、明かりもあまりない暗い中庭で、壁ドンされてますね。



「……なぁ、」

「な、何……かな、」

「……シていい?」



カタカナああああ!?

ちょっと!?ここにそんな指定はないのよ!?
誤解を招く発言は慎みたまえよ!!



ちょっとずつ、剣崎くんの顔が近づいてくる。



「へ、ま、待っ、ぁ……!!」



私はぎゅぅっと目を閉じた。






……ちゅっ、



「……へぁ……っ?」


「……なーんて、な」



おでこに柔らかいものが触れたと思って目を開けると、剣崎くんは満足そうな顔をして私の頭を撫でた。



「……え、?あ、」

「ごめんごめん、ちょっと意地悪してみたくなった」

「………あ、ぉ、あ」

「顔赤ぇーな、俺にとっては気分いいけど」

「……一発殴らせてくれ」

「おー、怖、それは勘弁」



完全にいつもの調子に戻った剣崎くん。

いや、なんか達悪くなってないか?



「……女好きチャラナルシストに、エロって言葉も追加しよう」

「それ語呂悪くなんねー?」

「じゃあただの変態で」

「それはマジでやめて」


かなりの真顔で言われた。





「あーあー、にしても、初めて告ってみたはいいけど、フられたかー」

「あ、それは、あ、の」

「いいって、そんな顔すんな。OKして無理矢理付き合ってもらうとかより全然いいんだから」




そういって剣崎くんは私から離れ、隣で同じように壁にもたれかかった。




「……その代わり、あいつとはうまくやらねーと俺の立場無くなるからな?」

「……ん?」




あいつ?

あいつって、




「それ、翔音くんのことだよね?」

「あぁ、そうだよ」

「うまくも何も、別に普通に仲良いよ?」

「……俺さ、たまーに思うんだよ、カマトトぶってんのかなって」

「かまぼこがどうしたって?」

「……それ本気でいってんのか?」

「ごめん、かまぼこの下りは冗談」



いやでもちょっとそう聞こえそうではあったけど。



「カマトトぶってはないよ?というか、そんなことして得とかあるの?」

「……そうだよな、藍咲さんはそういう人だよな」

「どういう意味?」

「裏がないってことだよ」



裏、ねぇ……。



「あ、で、翔音くんがなんだっけ?」

「付き合わねーの?」

「……は?」

「好きなんだろ?あいつが」



私が、翔音くんを?


「いやぁ、それは、」

「ないって、言い切れんの?」

「っ、え」




好き?

翔音くんを……?



家族としては、もちろん好きだ。


知識もいっぱい増えてきて、成長してくれて、すごくすごく嬉しい。

朔名も喜んでくれてた。





でも、今聞いてるのはこの”好き”ではないってわかる。




私……、



「多分、いつも一緒にいる川上さんとかに言われたことねぇ?”早くしないと奪われるよ”とかみたいな感じで」



うん、玲夢にも、柚子にも言われた。



「まぁ今回は俺が藍咲さん奪う側だったけど、今後どうなるかわからない」

「………」

「んじゃあひとつ質問な?」

「え?急に?」

「翔音に彼女できたら、どーする?」

「……え」



翔音くんに、彼女?



翔音くんが彼女っていう存在をどう認識してるかはとりあえず置いておいて、少なくとも彼女のほうは翔音くんのこと、好きなんだろう。




それは……、





「…………嫌、かな」

「……よくできました」



くしゃりと、また私の頭を撫でた。



「なんとも思ってない相手にそんな感情はわかない」

「……ぁ」

「それ、ヤキモチとか、嫉妬っていうんだよ」

「………」




ヤキモチ……、嫉妬。


他の子といるのを想像したら、なんだかモヤモヤした感じになって、すごく、嫌だった。




私、翔音くんが、好き、なん……だ。



そう思った瞬間、顔が真っ赤になった。



え、私、いつの間に……?


でも、玲夢たちの言葉からいうに、本当はもっと前から、好き、だったのかもしれない……?


私が、気がつかなかっただけで……。





「な、なんか、私さ」

「ん?」

「何もかも今頃気づいて、ほんと、遅すぎだよね、ごめんなさいとしか、いえなくて」

「……本当は俺だって、藍咲さんには気付いてほしくなかったよ、その自分の気持ちに」

「………」

「救えないほど鈍いからさ、もしかしたら俺にもちょっとくらい希望あってもいいかなとか思ってたけど」

「それは悪口か」

「……けど、最終的に気付くのが遅くて手遅れになってたら、俺は好きな子を最低な理由で泣かせたことになる。誰も幸せになんかならない」

「………」

「だから、な」




最初のときよりはスッキリした顔、でも、一生懸命自分を抑えてるのが、すぐにわかった。





「……剣崎くん、」

「……何?」

「…………ありがとう」








「こういうのもアレだけど、おかげで、気付いたから」

「………」

「……それとね、こんな私を思ってくれて、ありがとう」

「……え?」

「……気持ちにこたえることは、できないけど、でも、すごく、嬉しかった」

「………」

「私、自分のことなのに全然気付けなくて、でも、まわりは気付いてて、それ、にっ、剣崎くん、は、自分のこと、よりっ、わ、私の幸せ、とか、考えて、くれちゃって……っ」



私の目から、たくさんの涙がこぼれ落ちた。

これで3回目。

あと何回泣くんだろう、なんて。



「……俺も男だし、そこまで人間できてねーから、無理矢理奪うとかの選択肢がないわけじゃねーよ」

「………」

「けど、そんなことしても藍咲さんは笑ってくれないだろうし、俺も素直には笑えないと思う」

「………」

「……だから、やっぱりここは気付かせたほうがお互いのためかなって思ったんだけど。結局、泣かせちゃったな……」



そっと私の頭を撫でる手は、壊れ物に触れるくらい、酷く優しくて。


それが更に、私の涙腺を緩めた。

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