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「……あれ?」



見渡す限り、人、人、人。


制服ではなく、みんなそれぞれクラスの出し物に合わせた衣装をきているから、見慣れないこともあって、なかなか特定の人を見つけるのが難しい。


そしてここにも1人。



「……翔音くん、まーたどっかいっちゃった……」



お決まりの展開です。







翔音くんと一緒に学園祭をまわろうということになり、ついでにクラスの出し物の宣伝もしちゃおうぜ的なノリになって早20分。



あの美少年どこに行きやがりましたの?


うちの学校はとても広いため、探すのは一苦労。

もしかしたら見つからないなんてこともあり得る。




「はぁ……、2人でならまだしも、この格好で1人でいるの辛いよ……」



そう、私は今男装中。


いつもの制服なら別に1人でも全く問題ないんだけど、さすがに男装は、ねぇ……。





「あ、あのー……?」



ため息をついていると、後ろから誰かの声がした。


振り返ってみると、そこには女の子が3人。

見たことない子たちだから、多分下級生だ。




「藍咲芹菜先輩、ですよね?」

「え?あ、はい、そう……ですけど、よくわかったね?」

「はい、だって藍咲先輩ですから!!」



いや、だからね?
みんなそういうけどそれ全く理由になってないってことに気づいて!?



「藍咲先輩有名なんですよ?」

「……え、なんで?」

「だってあの翔音先輩の彼女さんなんですから」



私は目が点になった。


あ、そうか。
私桐原くん以外に下級生に知り合いなんていないから、訂正することもない=噂がそのままになってるってわけか。


うん、どうしよう。




「でも、気をつけてくださいね?」

「え?」

「翔音先輩、ものすっごく人気がありますから、ファンクラブの人たくさんいますし、中には本気で好きになってる人もいますから」

「え……、」



ファンクラブがあるっていうのは知っている。

でも本気でっていうのは、恋愛的な意味でってこと、だよね?

嘘!?


まあ確かに翔音くんは今まで見たことないくらいの美少年だし、モテるのもわかる、けど。





あれ、おかしいな。

なんだろう、私……焦ってる?


今の話を聞いて、少しドキッとした。

もちろんときめいたわけじゃない。


なんか、あまりいい気分ではない感じ。



私、どうしたの?





「……藍咲先輩?どうしたんですか?」

「えっ、あ、いや、なんでもないよ」



どうやらボーッとしていたらしい。

いけないいけない、話の途中だったのに。



「大丈夫ですよ!!藍咲先輩可愛いですから、取られたりしないですって!!」

「え?目大丈夫?」

「私の視力2.0です!!」



いや、そういう問題じゃないし!?
むしろ頭大丈夫!?


お世辞でも可愛いって言ってくれるのは嬉しいけど、その根拠はどっからくるの!?




「ところで翔音先輩って今お店やってます?私たち会いに行こうかなーって思ってたんですけど……」

「あ」



そうだそうだすっかり忘れてた。

私は今その話題の主を探していたところだったんだ。




私は3人と別れてまた翔音くんを探し始めた。


手伝うといってくれたけど、せっかくの学園祭がもったいないので、断った。

まあでもあの子たちなら断っても探してそうだけど。





うーん、翔音くんが行きそうな場所……。


やっぱり食べ物売ってるところかな。

あ、でも食べ物系の出し物してるクラス結構あるからなあ……。




それかさっさとひとりで学園祭満喫してたりして。


……あり得る。



はぁ、これは探すのやめて私も普通に満喫するべきなのかな?


それともやっぱり探すべき?



あー、この考えてる時間がもったいない!!





「何百面相してんだよ芹菜?」



声がしたほうを向くと、そこには橘くんと桐原くんがいた。



「……あれ?橘くん、制服?」

「おう、着替えたんだ」

「え?だって今日は一日中メイド服と執事服でいろって宮下くんが……」

「もちろん宮下には内緒。だーって棗がさー」



橘くんがジト目で桐原くんを見た。




「誰が女装した人と好き好んで学園祭まわらなきゃいけないんですか」

「っていうからさー」



桐原くんの意見はもっともである。


まわるのが男装女装であればいいけど、男と女装だと微妙だ。




「ずるい、私も着替えたい」

「え?芹菜は着替えなくてもいいだろ、別に変じゃねーし?」

「いや、変でしょ。頭らへん特に」

「はい、変ですね確かに」

「嘘でもいいから否定してよ桐原くん」



なんだよー、さっき会ったときは変じゃないって言ってくれたのに。




「……桐原くんのツンデレ」

「しばくぞ」

「ひょえ……っ!!」




顔が非常に真顔!!



「相変わらず仲良いよなー、芹菜と棗!!」


どこがだよ。




「んで?話飛んだけど、芹菜はひとりでまわってんのか?」

「あ、う、うーん……、本当は翔音くんと一緒だったんだけど……どーこいっちゃったんだろうねー、あっははは……」

「笑ってる場合じゃないと思いますけど」

「全くその通りで」

「心当たりとかねーのか?」

「うーん……、私は食べ物系のところにいるのかなーと」



というかそれしか思いつかないよね。



「んじゃあ外とかは?ステージのまわりとか、屋台いっぱいあるじゃん!!」

「あ、そういえば外はまだいってないや」

「俺らも探すの手伝うよ!!こっちはこっちで校舎内探してみっから」

「おー、ありがとう助かります!!」


2人とわかれ、私は靴を履いてステージのある外へ向かった。






「翔音くんはー……っと、」



ステージのある場所までいき、人がたくさんごった返してる中、私は紫頭を探した。



……おかしいな、紫頭が見当たらない。





って、翔音くん、今ウィッグで黒髪だった!!!!



あああああ……うん、無理だ。

こんな人居すぎなところで特定の人物さがすなんて。

私にそんな便利なセンサーは付いてないのよ。




はぁ、なんか探し回ってたらお腹すいたかも。

屋台いっぱいあるし、もう私は私でまわっちゃおうかな。


別にひとりでも困ることはないし。

……話す相手いないのはちょっとさみしいけど。



そもそも翔音くんがいっつもすぐにどっかいっちゃうのが悪いんだよ!!

探す方はすごく大変だし心配もするのに。


そりゃあ私だって一度は翔音くんに心配かけたこととかあったけどさ。


圧倒的に私の方が探してる数多いじゃん。




「すいません、これ一個ください」

「は、はい……」



ムスッとしながら頼んだら屋台の店番してる人にちょっと引かれた。


いや、君に怒ってるわけじゃないんですよ。

私が怒ってるのはあの美少年です。





「……翔音くんのばーかばーかばーか」

「聞こえてるよ」



後ろからの声に、私はピタリと止まった。


振り返ると、いつもの紫頭の美少年が立っていた。



わたしは目をぱちくりさせる。



「……よく、私がいる場所わかったね?」

「……芹菜だから」



だーからっ、なんで!!
理由になってないよそれ!!



「……翔音くんどこにいたの。ってかなんで着替えてんの」

「……怒ってるの?」

「…………ちょっとだけ」





だって、すぐにいなくなるから。


別にいつも一緒にいようとかそんなこと言ってるわけじゃないけど、一緒にいてどこかに行く場合は一言くらいあってもいいと思った。


それならいなくなってもどうも思わない。



だから、それがなかったから、少し、寂し…………い……?





「……芹菜、顔、赤いよ」

「ばっ、ち、ちが……っ」



私は手で自分の両頬を覆った。

あれ、私今、何を思った?


寂しい?

確かに話し相手いないのは寂しいとは思ったけど、でも……。



なんか、違う。

はっきりとは言えないけど、その”寂しい”とは違う気がする。





「……着替えてた。そろそろ時間だったから」

「……え?時間って?」

「……俺も詳しくは知らないけど、ステージの人に、着替えてって言われたから」




この時間でステージでやるっていったら…………あ、もしかして、ミスコン?



「翔音くん、ミスコンでるんだ?」

「みす、こん?」

「校内の美男美女をランキングするんだよ」

「……?、?」



わかってないなこいつ。





「んまあ、とにかくさ、いつもじゃなくていいけど、せめて一緒に行動してるときくらいは、どこ行ってくるっていうの言ってほしかったな」

「……ん、ごめん」

「うん。でもよかった、見つかって。ちょっと心配したし」



そういうと、翔音くんが黙ってしまった。


なんだろうと思って改めて彼を見ると、目を細めて僅かだが嬉しそうに微笑んでいた。



「……ありがとう」




……え?

なんでお礼?




「……心配かけたのは、俺が悪いけど」

「………」

「……芹菜は、ちゃんと、俺を見てくれてるから」




それは、前にも、翔音くんの両親が来たときにもいわれた言葉。


以前と違うのは、私の名前を呼んでくれているところ。



やっぱり、自分という存在を認めてくれることが嬉しいんだろうな。




けど、翔音くんがあんまりにもサラッというから、こっちはものすごく恥ずかしいんですけど!!




「そ、そりゃあ、急にいなくなったりしたら普通心配するよ……っ」

「……うん」

「……でも、さっきも聞いたけど翔音くんこそ、よく私のいる場所わかったよね?」

「……芹菜だからね」

「………ッ」



私の顔の赤みが増したのは絶対に気のせいじゃないと思う。


なんなの、この天然タラシ!!

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