43


『おはよう芹菜チャン、今日から学園祭だね。浮かれすぎて羽目外したりしないように気をつけないと駄目だよ?』

「新井くん、今何時だと思ってんの?」

『芹菜チャンは時計も読めないの?今は午前2時だよ』

「思いっきり真夜中でしょおおおおっ!!??何考えてんの!!??」






明日からは学園祭が始まり忙しくなると思っていつもより早めに寝た私。



夢も見ないほどぐっすり寝ていた私を叩き起こしたのは、机に置いてあった携帯からの着信。



すぐ鳴り終わるだろうと思って無視していたが、何度も鳴り続けるので仕方なく電話に出たのだ。





『今ちょっと暇でね、だから電話したんだ』

「寝ろよおおおおっ!!私今すっごく眠いの!!今にも爆睡できるの!!お願いだから寝かせてよ!!」

『駄目、寝かせない』

「そんな色気のある声で言われても今はイラつくだけなんだけど」

『なんだ、残念』



電話越しにクスクス笑う新井くんにさらに苛立ちを覚える。


明日寝不足になったらどうしてくれるのさ!!




そんなときだった。




ガチャ





「……うるさいんだけど」




向かいの部屋で寝ていたはずの翔音くんが部屋に入ってきた。


その顔は眠いのが半分、あとは睡眠を邪魔されて機嫌が悪いのか、かなり目付きが悪い。




や、やば……さっき私が叫んだりしたからだ。

こ、怖!!
目付き、目付き怖いよどうにかして!!





『ん?芹菜チャン?どうかした?』

「え、いや、別になんでもないよ!!」



なんでもないわけがない。

現在進行形で睨まれてます私。





「あ、ごめん翔音くん!!もう静かにしてるからっ、ほんと、寝て、いいですよっ」



携帯を握りしめながらしどろもどろになる私。


だって美少年の睨みってかなり怖いんだよ!?





「……ん、寝る……」



そういって何故か私に向かってくる翔音くん。



……え?




「え、ちょ……っ、ま……っ!?」




ボフンッ




急に覆いかぶさってきたことで私はその重さに耐えきれず、そのままベッドにダイブしてしまった。



え?

……は?




「か、翔音……くん?あ、あの……っ」

「……眠い」

「いや、眠いのは分かるけど、あの……自分の部屋に、」

「……また戻るの、面倒」





た、確かに面倒かもしれないけど!!


この状況はよろしくないよ!?


私、完全に押し倒されてるからね!?

下が床じゃなくてベッドで助かったとかの問題じゃないんです!!




「あ、あのさ、と……とりあえず、どかない?重いし……色々とまずいし……」

「……やだ」

「……っ」




翔音くんの低くて眠そうな声が耳にダイレクトに聞こえるこの状況。


だからまずいんだって!!

今の年頃は色々と複雑なんだって!!





「ね、もうほんとどきましょう?私が寝れないし、自室に戻った方がベッド占領できるんだよ?」

「うるさい、黙って」

「はい、すみません」





って、何謝ってんだ私の馬鹿ああああ!!





「……ん、おやすみ」

「うん、おやすみ…………って、え?ちょっ、ね、寝るなああああああッ」




私の叫びも虚しく、翔音くんは夢の中にいってしまった。


けど私もかなり眠かったので、諦め掛けたと同時にそのまま眠りに落ちた。













ガチャ



「おーい芹菜ー、早く起きねーと遅刻…………する、ぞ……?」




あれ?
ここ芹菜の部屋だよな?


確かに向かいの部屋には誰もいなかったけど、なんで翔音がここに……。




しかも一緒に寝てるうううう!?


な、何があったんだ昨日の夜!?



ま、まさか…………い、いや、そんなことはない!!

だってこいつらまだ高校生!!

あれ、もう高校生!?





……にしてもこいつら、





「何この一点の汚れもないような寝顔!!お前ら天使か!?」




朝から衝撃すぎて自分のキャラを見失った我が兄だった。




「あああ……、若干寝不足かも……」

「それはもしかしなくても俺のせいかな?」





学校に着き、レイアウトされた教室で私は大きなあくびをした。


それに反応したのはもちろん全ての元凶である新井くん。




「そうだよ、全部新井くんのせいだよ。あの時電話なんてしてこなければ、」

「”翔音クンに襲われずにすんだのに”?」

「お、襲……ッ!?」




な、なんでそんなこと知ってるの!?



「あの時芹菜チャン、電話切らなかったでしょ?最初から最後まで筒抜けだったよ」

「NOOOOOOOOOーーーーッ!!」





そういえば携帯握りしめたまま寝ちゃったんだっけ!?


ああああなんでこうも不幸が重なるのかなあああ!!




「……言っておくけど、私別に襲われてないからね?翔音くんの睡眠の巻き添え食らっただけだから!!」

「大丈夫、わかってるから。芹菜チャン襲うほど飢えてないでしょ」

「それいろいろと問題発言だよね」





そもそも翔音くんに開口一番に”なんでいるの”って言われたんだよ私。


あんたが昨日私を押し倒したまま寝たくせに覚えてないのかって言いたくなったよ。


彼の寝起きが不機嫌すぎて何も言えなかったけどね!!





「まあでも、結果的に何事もなかったんだし、気にしなくていいんじゃない?」

「う、ん……まあ、そう、なんだよねー」




向こうは全く覚えてないし、なら私も忘れた方がいいのかな。


何このやるせない気持ち。

私の方が被害者なのに!!





「さ、そろそろ開会式始まるみたいだし、俺たちもいかないと」

「あ、うん」







開会式は体育館ではなく、学園祭限定で中庭に設置されたステージで行うことになっている。



うわあ、ステージの飾り付けすごい煌びやかだなー。

さすがに組み立てたのは大工の人だけど、デザインはうちの生徒なんだよね。



毎年思うけど派手だ、さすが私立。



にしても人が多すぎる。

まあ全校生徒いるから当たり前なんだけど、これじゃあ知り合いを探すのさえ困難になるな。



その中に、見覚えのある派手な人を見つけた。


うわ、こんな人混みでもなお目立つだなんて。




すると向こうもこちらに気づいて、私の方に歩いてきた。




「はよ、藍咲さん」

「あ、うん、おはよう剣崎くん」

「……今1人?」

「うん、そうだよ」




新手のナンパか、その切り出し方。





「なら好都合」

「え?」




すると剣崎くんは私の手を取って指を絡ませてきた。



こ、これって……、




「な、なんで恋人繋ぎ……?」

「今日1日は俺が彼氏だから」

「おい、いつそう決まった」

「照れない照れない」

「照れてねーよ。見て私の顔、無表情だろ」




ああっ、ダメだ、この人といると余計に口が悪くなる!!





そんなこと言ってる間にいつの間にか開会式は終了していた。



校長先生がステージから下りるのと入れ替わりに生徒会長がステージに上がった。



って、おい生徒会長!?

なんか衣装がものすんごいギラギラしてるよ!?

イケメンしかいない歌って踊れる某アイドルみたいになってんぞ!?






「さぁ、いよいよ学園祭の幕開け!!みなさん、今日も明日も大いに盛り上がっていきましょーッ!!!!」




その掛け声と同時に学園の生徒たち全員がワーッと叫び出した。



その声に私も自然と笑顔になった。




「んじゃあ藍咲さん、俺らも移動しよっか」

「うん!!」




まあ何にしても、これが私たち3年にとっては最後の学園祭だもんね。


いい思い出たっくさん作らないと!!





「……………」

「……ん?剣崎くん?どうしたの固まって?」



私の顔をじーっと見て動かない。

な、なんだ、顔に何かついてる?




「…………んだよ、そんな顔も出来んじゃん……」

「え?ごめんっ、周りがうるさくて……、今何て言ったの?」

「……なんでもねーよ、ほら、いこ」



恋人繋ぎのまま、くいっと引っ張られ人混みの中を掻き分けて前の方に進んでいく。


前を向いているから顔は見えないけど……、なんか、




「……ねえねえ剣崎くん、耳赤いけどどうかした?」

「……ばーか」




余計にそっぽ向かれてしまった。



あれ、これ剣崎くんだよね?

いつもの女好きチャラナルシストはどこいった?

なんか、全く威厳も感じないくらい大人しくなってるんだけど。




剣崎くんに引っ張られ、大分前の方にきた。


ステージのトップバッターは生徒会長。


真ん中にマイクが置いてあり、後ろではドラムやらギターやらアンプやらと準備でバタバタしている。


なるほど、だから生徒会長あんなすごい衣装着ているのね。





「藍咲さんはステージで何かやんの?」

「あー……、うん……。いつの間にかね、項目に私の名前入れられてた」

「へー、で、その項目は?」

「…………クイズ」




これはもうただのイジメだと思うのよね!!


クイズって……!!

私別に頭いいわけでも頓知がきくわけでもないのに!!


まあステージ出ても答えずにわからないふりしてればいいんだけどさ。


こんな大勢の人の前に出るだなんて……。



「クイズかー、頑張れ」

「なげやりだ!!……そういう剣崎くんは何か出るの?」

「んー、特に何かやれとは言われてねーけど、まあ出るとしたらミスコンじゃね?」

「さいですか」



出たよ、ナルシスト!!

真顔で言ってるあたりが腹立たしい。



ミスコンとは、どこの学園祭にも大体ある項目で、学校内の美男美女の順位を決めるコンテストのことだ。



学園祭が始まる前に全校生徒にアンケート用紙を配って投票してもらうという方式で順位が決定する。



ちなみにミスコンは一番人気のある項目なので、毎年発表は2日目の一般公開の日になっている。




「明日だもんな、ミスコン」

「まあ剣崎くんはランクインすると思うよ、イケメンですからね」

「俺もそこは疑ってねーよ」




嫌味が通用しない、だと……?




話している間に生徒会長のライブが終わってしまった。


あ、聞き逃しちゃった。

いつも風紀委員以上にきっちりとしている会長の貴重なお姿だったのに。




ライブがあるのは最初と最後。


生徒会長と、他4人が場の盛り上がり役として歌い、そのあとはいろんな出し物をやる。


パンの大食い選手権だったり、梅干しを制限時間の中でどれだけ食べれるかとかだったり。


見てるこっちが酸っぱくなったのは言うまでもない。



あとは私がでるようなクイズや、観客も参加可能なビンゴやイントロクイズだったり。




そしていよいよ私の出番であるクイズの項目が始まる。




「……ど、どうしよう。次クイズなんですけど……、私舞台裏に行かなくちゃなんだけど……」

「おー、もう始まんのか。……んじゃあちゃんと出来たらご褒美やろーか」

「……ご褒美?」

「んー、藍咲さんの好きなものなんか奢ってやるってーのは?」

「よし、ちょっと頑張ってくる」




剣崎くんの提案にまんまと乗った私。


まあでも学園祭の屋台っていったって、普通のお祭りの屋台よりかは安いから、そこはあまり気にしないようにしよう。



剣崎くんに見送られ、私は舞台裏へと移動する。


そこには私と同じクイズの参加者や、照明、BGM担当の生徒だったりと結構な人が集まっていた。



その中に見知った顔が1人。




「玲夢!!」




確か玲夢はイントロのほうに参加するんだったよね。



「あ、芹菜!!そっか、芹菜は次のクイズに参加だもんねっ」

「不本意ながら、ね」

「……ってか芹菜ってば、いつの間に浮気したの?」

「……へぁ?」




出たよ、浮気。


おかしくない?
私に彼氏なんて大層な人いないのに浮気という単語が使われること自体おかしくない?



「平凡顔なのにモテるなんてすごいね!!」

「それ褒めてるの?貶してるの?」



後者に1票。



「でも浮気なんてしてたら、あっという間に翔音くん、他の子に取られるよ」



……もうこの際、浮気ということは気にしないようにしよう。




「……あのさ、柚子のときもそうだったんだけど、事あるごとに翔音くんの名前がでるのは何でなの?」

「芹菜って救えないレベルの鈍感さだよね」


解せぬ。




そんなことを話している間に、まさに始まろうとしているクイズ。



私は他の参加者と一緒にステージに移動し、置いてある椅子に座った。


手元には押すとピンポーンという音が鳴るボタン。


ステージの前にはほぼ全校生徒がいるであろう観客たち。


うん、逃げたい。





「さあてお次はクイズの時間です!!回数を重ねるごとに難易度は上がっていくので、頑張って考えてくださいねーッ!!」



司会役の人が場を盛り上げる。


ってか司会も生徒会長なのか!?

仕事しすぎでしょ!!





「第1問!!ジャガジャンッ」


え、効果音自分で言うんか。



「最初は4本足で歩き、次は2本足で歩き、最後は3本足で歩くもの。これ、なーんだ?」




あ、これ知ってる。



ピンポーン!!


「はいっ、1番右側の人、どーぞ!!」

「答えは、人間です!!」

「わーおっ、大正解!!」



わーおっ、テンション高っ。


答えたのは他のクラスの女の子だった。

正解したのでとても嬉しそうにしている。




この問題は小学生くらいのときに聞いたことがあったから私も答えは知っている。


4本足はハイハイで歩く赤ちゃん。

2本足はそれから成長した私たち。

3本足は歳をとって杖をつく老人。


ということで、答えは人間、となるんだよね。




……にしても、私や今答えた子は最初から答え知ってるからいいけど、初っ端にしては問題難しくないですか……?







それから、第2問、3問と続いていくが、意外と問題が難しい。

それでも答えていってる他のみんなはやっぱり頭がいいのか。


そうだよね、普通クイズっていったら頭いい人出るよね!?

人選ミスだようちのクラス!!





「さーて、いよいよ最後の問題ですよーッ!!みなさん準備はいいかなー?」



や、やっと終わるかこのクイズが……。



「最後の問題になってしまったけど、今だ答えていない藍咲さんッ、頑張ってくださいねー!!」



名指しかあああああッ!!??


ちょ、おまっ……やめてええええ!?


目立ちたくないから静かにしてるのに、わざわざ名前呼ぶな空気読んで!?





「はいっ、では最後の問題です!!

あるとき、AさんとBさんとCさんがいました。
AさんとBさんが結婚し子供が生まれた場合、その子供の血液型はA型、AB型、O型のいずれかです。

BさんとCさんが結婚し子供が生まれた場合、その子供の血液型はB型、O型のどちらかです。

それではAさんとCさんが結婚した場合、生まれてくる子供の血液型は何型でしょうか?」




あ……、これ、私知ってるわ答え。

随分前に朔名から聞いたことがある。



私が知ってるくらいだから、きっとみんなも知って…………る、よね……?



ちらっと横を見てみたが、今まではすんなりボタンを押していたみんなも、今回ばかりは難しい顔をしていた。


え、嘘……、え、この沈黙続いちゃうの!?




「うーん、さすがに最後の問題はなかなか解けないのでしょうか!!……藍咲さん、どーです?答えわかりましたか?」

「!!??」




突然私に向けられたマイク。


それと同時に観客の視線も一気に私に注がれた。


う……わ………え、私ィィィ!?


私は別にあがり症というわけではないが、この注目度はかなりキツイ。




でもどうやらこの問題の答えを知っているのは私だけっぽいし、この大勢の視線にも耐えられないし、なによりマイク向けられちゃってるし。



生徒会長のニコニコした顔がかなり腹立たしい。

名指しした上にマイクまで向けるだなんて私に何か恨みでもあるんかこのやろう。



でもいつまでもこの沈黙なのは辛いし、時間ももったいないので私はおそるおそるボタンを押した。



ピンポーン!!



「おおおっとー!!最後の最後で挽回なるかな!?さあ、藍咲さん、答えをどーぞ!!」

「……こ、答えはーーー……、」





(答えはあとがきで!!)

prev / next


back
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -