04


どうもこんにちは。
そういえば自己紹介がまだでした。


私は藍咲芹菜、桜葉学園に通う高校3年生。
自分でいうのもなんだけど、特にこれといった特徴もない平凡な娘です。

兄の名前は朔名で歳は23歳。
大人の癖にやることなすこと青春真っ盛りの高校生みたいな人です。
お仕事もしてるみたいだけどあんまり知らないなぁ。


え、両親?
両親は私が物心ついたときにはすでに亡くなっています。
だから顔はよく覚えてません。

それから私達は祖父母の家で育ってきたけど、その祖父母も3年前に他界してしまったので、この家―――つまり両親と暮らしてきた家で朔名と2人暮らししています。



最初はもちろん慣れなかった。
身内が次々といなくなっていくのが怖かった。

でも当時20歳の朔名が私を励ましてくれた。



『俺はもう立派な大人になった。だからしっかり働いてしっかり稼いで、芹菜が苦しまないように俺がんばるからなっ!!』





多分それからだ、朔名が少し子供っぽくなったのは。
私が明るく元気でいられるように日常を照らしてくれているんだ。

今じゃもうすっかりお馴染みの光景になってきた。
扱いがめんどくさくて私の口がすぐ悪くなるけど、お馴染みになっても飽きたことなんて一度もない。



だから私は今のこの日常が好きです。





けど今、その日常が若干変わりつつあるようです。






あれからしばらく沈黙が続いた。

実際はほんの数秒だろうけど、感覚的には数分な感じがする。
嫌な沈黙ではない。呆然として声がでないというべきか。



「えと……、腹減ってるんだっけ?」


沈黙を破ったのは朔名だった。
その言葉に私も正気を取り戻していく。

美少年は小さく頷いた。



(芹菜っ)


朔名が小声で私に話しかけてきたので視線を朔名にもどす。


(なんか食いもん残ってるか?)

「………へぁ?」


つい素っ頓狂な声を上げてしまった。


(何変な声出してんだ。食いもんだよ、夕飯つくっただろ?)

(あ、あぁ………でも目覚まさないかと思って2人分しかつくってないよ)

(このクロワッサンは?)

(……あっ、それならまだある)



私はくるっと美少年のほうへ振り返ってなるべく笑顔になる。
第一印象は大事っていうし!!



「クロワッサンならあるけど、食べる?」

「くろ……わさん?」

「くろわさんじゃなくてクロワッサンね。何か人名みたくなってるからねソレ。……このパンのことだよ」


私達が食べていたクロワッサンを指さして美少年にみせた。

てゆーかそんな無表情で首傾げられても困るんですけど。
思わず突っ込んじゃったじゃない!!





とりあえず冷蔵庫にあるクロワッサンをとりにいこう。

はぁとため息をついてキッチンへ向かう。
冷蔵庫の一番上の扉にはいっているクロワッサンを袋ごととりだした。
まだ10個くらいはいってるから十分足りるでしょ。


リビングにもどって袋を美少年にわたした。


「それだけあれば足りる?」


美少年は私の問いには答えず、袋からだしたクロワッサンを手にして目をぱちくりさせていた。

クロワッサン知らないのかな?
つかお礼は無しか。



美少年はクロワッサンを一口かじる。
飲み込んでまた一口かじる。
かじる、かじる、かじる。







…………無言だ。
ひたすら食べつづけている。
美味しそうに食べているのかもわからない。
ずっと無表情なんだもん。


え、どうしようこれ。
また沈黙してるんだけど。
私も夕飯にありつけていいかな、冷めちゃうよ。



(なぁ芹菜)


また朔名が小声で話しかけてきた。


(何?)

(とりあえずさ、こいつが誰なのか聞いたほうがいいんじゃねーの?)

(あぁ……そうだね)

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