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「……えーっと、とりあえず何が必要か予想できるのは、テーブルクロスと食器と入り口のカーテンと雰囲気出すための花壇、くらいだな」



ホームセンターの中をぶらぶらしながら宮下くんが言った。



「え、そんなにあるの?お金大丈夫?」

「あー、食器もプランターも学園祭終わったら学校で引き取ってもらえば問題ないよ」




まあ確かに食器は先生たちが使うだろうし、プランターは学校の花壇に植え直せばいいしね。





「あとは、衣装だよね」

「衣装は衣装デザインの組の人たちに任せる。買い出しもそっちに頼んだから。さすがに作るのはみんなでだけど」

「あ、そうなんだ」




衣装……、私は、というか女の子はみんな執事服だ。


ズボンなんて普通に履いてるから問題はないけど……。







「俺ら男子はメイド服かー」



私の心の声に便乗するかのように、剣崎くんが頭の後ろで手を組んで言った。



「……うちのクラスの女子は何を考えているんだか……」

「んー、まあいいんじゃねーの?こういう機会でもないと女装なんかしねーし」




剣崎くんは女装に抵抗がないのかな?


宮下くんなんてものすごーく嫌な顔してるのに。







「剣崎くんって女装好きなの?」

「……あのさ、藍咲さんの中で俺ってどういう位置づけされてんの」

「女好きチャラナルシスト」



私の言葉に宮下くんが拍手をくれた。

よくやったぞって顔してるよ。




「俺そんな二次元にいそうなキャラではないと思うけどなー」



え、この人自分が女好きチャラナルシストって自覚ないの!?

それはそれでたちが悪いよ!!




「まあまあ、とりあえず今は剣崎のことなんてどーでもいいから、下見続けよーね」

「宮下酷い」

「黙れチャラ男」



この2人を見るとまるで漫才を見ているようだ。





宮下くんの言うとおり、さっさと下見を終わらせようと思い、辺りを見渡す。



ここのホームセンターは広すぎてピンポイントで探していかないと終わりそうにないな。






「…………あれ?」



ふと、おかしいことに気づいた。



「……ねぇ宮下くん、」

「あー、何?」





「……翔音くんは?」





買い物に行くと、いつの間にかいなくなる人とかよくいるけど、翔音くんはまさにその部類に入る。



最近翔音くんと出かけるなんてことがなかったから、すっかり油断していた。




そんなわけで私は今彼を探している最中。

さすがにみんなで一緒に行くと時間がかかってしまうので、私は翔音くん探し、剣崎くんと宮下くんは食器とか植物を探しながら翔音くんも探すということになった。




もう、ほんとどこに行っちゃったんだあの美少年は。


無駄に広すぎるこのホームセンターを独りで歩き回るのは辛いんだぞ!!


最終手段は店内放送に頼ります。





さて、まず翔音くんが行きそうなところといえば……。




「……食べ物、だよね」



真っ先に頭に浮かんだのは食べ物。


でもここはホームセンターだからそんなものはほとんど無い。




あと他に翔音くんが好きそうなものは……。



そこまで考えて、ふと思う。



そういえば私、翔音くんの好きなものとか、知らない……。



食べ物好きっていうことは知ってるけど他は……。



ど、どうしよう!!

探すに探せない!!









「……翔音くーん……」

「何?」

「をっふああああっ!?」




突然後ろから声がした。



「……変な悲鳴」

「誰のせいだ誰の。っていうか翔音くん、またどっかいっちゃうし……探したよ」

「……下見してた」

「え?下見?」

「……こっち」




翔音くんに手を掴まれてそのまま歩き出す。






ついた場所はテーブルクロスがたくさん置いてある場所。


うわ、すごい。
さすがここのホームセンターだけあって規模が大きい。




「……そっか、テーブルクロスの場所見つけてくれたんだね」

「……ん」

「ごめんね、勝手にどっか行っちゃったのかと思ってたから……。見つけてくれてありがとう」

「……ん」





せっかく翔音くんが探してくれた場所だし、私たちでどれがイメージに合うか探してみよう。


食器とか植物はあの2人が探してるだろうし。


あ、あとで翔音くんが見つかったって連絡しなきゃ。

同じ仕事の担当になったってことでアドレスと電話番号教えてもらったし。




「よし、それじゃあこの中から喫茶店に合うようなテーブルクロス探そうか!!」



意気込んだ私は拳をぎゅっとしようとしたのだが……。




「………」



そういえば、私の手は翔音くんに握られたままでした。







「あ、あの、翔音くん……手、」

「……手?」

「……その、もうここに着いたし、離して大丈夫、だよ?」








「…………嫌?」

「……え、」

「手……、嫌?」




翔音くんは首を傾げ、若干眉を下げてほんのすこしだけさみしそうな顔をしていた。



間近でその表情を見て、私は顔に熱が集まるのがわかった。



「っ、い、嫌……じゃ、ない、けど……、」




ええええっ、ちょ、ちょっと待ってよ、いったい誰からそんな表情教わったの!?


目まともに見れないじゃん!!



でもよく考えて。


ここホームセンターです。


そんな甘い雰囲気とはかけ離れた場所です。





「い、嫌じゃ、ないんだけどね?その、ここ人多いし……、恥ずかしいっていうか、……やるならせめて人が少ないところで……、」







…………あれ?


私、今……?






「……じゃあ人少ないとこで繋ぐ」




あれええええええ!!??


私とんでもないこと言った!!

しかも何か納得されちゃったよ!!


いいっ、納得とかしなくていいんだよ翔音くん!!

お願いだから今の忘れてッ、脳内から抹消して!!





「……はやく下見終わらせよう」

「えッ?!」

「……何?」

「あ、いや……な、ナンデモゴザイマセン」




急に現実に戻されて驚いたが、そうだよ、私たちは下見に来てるんだ。




パッと繋いでいた手を離し、翔音くんはまわりにあるテーブルクロスを見始めた。




今まで繋がれていた私の手のひらに、まるでさっきまでの温かみを消し去るかのように建物独特の冷気が通り過ぎた。





そういえば、手を繋いだのは初めてかもしれない。


翔音くんはいつも、手首を掴んできていたから。





翔音くんがいなくなったあの日から、何かが少しずつ変わりつつあるような気がした。



でも、不思議と嫌な感じはしない。


あたたかいものが私の中に流れてくるのを疑問に思いながらも、私も翔音くんに続いて下見を始めるのだった。





「でも良かったな、翔音見つかってさ」



ホウキの持ち手の先に手と顎を乗せて話すのはただいま掃除中の剣崎くん。




「うん、わりとすぐ近くにいたみたいだからそんなに探さなくてすんだしね」



机を運びながら答えるのはもちろん私。




あのあと、テーブルクロスを見ながら宮下くんたちに電話をし、あの場所で合流した。



2人ともそれらしいものを見つけられたらしいので、一緒にテーブルクロスを見た後、学校に戻ったというわけだ。





そして今は教室を掃除中。


さすがにこの短時間でデザインは終わらないので、とりあえずいくつかの机と椅子はそのままにしておき、残りのものをどかして掃除しているというわけだ。





「そうなんだ……、翔音案外わかりやすい行動とるしな」

「え?何が?」

「藍咲さんの手引っ張ってどっかいったときとかあったじゃん?」

「あぁ……、うん?」

「……ちょっと妬けちゃうなあ」

「……だから何のお話?」




少し困ったような、でもちょっと嬉しそうな顔をする剣崎くんに私は頭にハテナマークが浮かんだ。


……妬けるって、何に対して?





「はいはいお前ら喋ってないで掃除しろよー」



机を運びながら私たちに注意する宮下くん。


おっと、私も手が止まっていたわ。




「掃除めんどくね?」

「文句いうな、ジャンケン負けたお前が悪い」

「俺ね、箸より重いもの持てないの」

「お前当日バニーガールな」

「やめて」





う……、想像しちゃった。


さすがにこれはいくら剣崎くんがイケメンだとしても見れたもんじゃないや……。





「……芹菜?」




ホウキを持った翔音くんが私のそばに来た。



「あ……翔音くん」

「……どうしたの」

「え、何が?」

「……顔悪いよ」

「…………」





かっ……、顔が悪いだって?


今顔悪いって言った!?



いきなりなんだああああこのやろう!!

いくら自分が美少年だからって言っていい事と悪いことがあるっつーの!!



顔が悪いだなんて自分でもわかってるわ!!


あ、言ってて悲しくなってきた。




「…………翔音くんのばかやろー」

「……?」




翔音くんはきょとんと首を傾げる。




「……翔音、顔が悪いじゃなくて顔色が悪いっていわないと伝わんねーよ?」

「……そう」




いや、“そう”じゃないし!?




「顔悪いだとさ、顔の造作が悪いって聞こえるし?藍咲さんはさ、ほら……普通じゃん?」

「剣崎くん、なんとかフォローしてるみたいだけど全然フォローになってない」

「じゃあ可愛いよ」

「じゃあって何!!??」




あんたらみんな私に対して失礼だろ!!



普通で何が悪い、こちとら18年間可もなく不可もなく平凡に暮らしてんだよ文句あります!?



もうなんでこんなに私の周りにはイケメンが多いの、みんな下水道でマラソンでもしてこいよ。





「さすがにそんなところでマラソンはしたくないよねー」




いつの間にか私の隣に立っていたのは新井くんだった。




「うわあぁっ?!あ、新井くん!?」

「ほらほら手が止まってるよ、当番なんだから掃除はちゃんとやらなきゃ」

「あ、あぁ、うん……っていうかまた私の心読んだよね!?」

「だってわかりやすい顔してるから」

「今度からエスパー新井って呼ぼうかな……」

「芹菜チャン、当日バニーガールね」

「いつからいたのおおおおおッ?!」





まさに神出鬼没。

そしてさらにエスパーだなんて。





まあそれはともかくとして、今日は下見に行ったし掃除もやった。


あとはデザインが決まり次第、実際に買い出しいったり衣装作ったりするだけだ。



学園祭は今週末だから頑張って決めないとね!!



41.順調に進む

(あ、そういえば男女逆転ってことは新井くんもメイド服着るってことだよね?)
(芹菜チャン、とりあえず下水道でバタフライでもしてきなよ)
(さっきより状況が悪化してませんか)


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