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「はーい、じゃあ次、買い出し行ってくれる人ー」



学園祭実行委員の宮下くんが教壇から教室を見渡す。



書記の人が黒板に書いたのは、それぞれの役割分担。


メニューを考えるチーム。
衣装を考えるチーム。
教室のレイアウトを考えるチーム。

あとは掃除当番と買い出し。



それぞれのデザインを考えるチーム以外の人は、当日に使う教室を綺麗に掃除し、ある程度目処が立ってきたら買い出しにいく。




うーん、どれも大変なのは確かだけど、掃除と買い出しは絶対嫌だな。


だって体力勝負なのが目に見えてるもの。





「えー、誰もいないみたいだからまだ当番決まってない人は後ろでジャンケンしてー」



やっぱりそうくるのか!!


みんなめんどくさい仕事には手を挙げないので、必然的にこういう運命になるのだ。



私はまだ決まってないから後ろへと移動する。


ジャンケンって言い出しっぺがよく負けるっていうけど、今回の言い出しっぺは宮下くんだから関係ない。




……なんだか嫌な予感。









「……だよね、やっぱりこうなるよね」



私はパーを出した右手で顔を覆った。

ジャンケンの嫌な予感は当たるから嫌いだ。



兎にも角にも私は掃除当番と買い出し担当になってしまった。





「ジャンケン終わったー?負けたの誰ー?」

「あ、私、です……」


弱々しく手を挙げた。



「藍咲さんねー、あ、ちなみに俺も同じ担当だから」

「え?宮下くん実行委員だよね?」

「実行委員だからこそ、金銭に関わる仕事にまわされんだよ」



あ、納得。



「んでー?後負けた人はー?」

「あー、俺ー」



顔の横で手を挙げたのは、あのナルシスト君。


……え、嘘!?



「げっ、お前かよ、俺実行委員辞めようかなー」

「ひでーなー、俺だってやる時はやるよ。ねー、藍咲さん?」

「えっ?あー、うん……」



いや、いきなり話振られても私貴方の名前すら知らないからね。



ってか、え、やだよこのメンバー!!

宮下くんはいいけどこのナルシストは嫌だよ!!


そもそも私この2人と話したことなんてほぼ皆無なのに!!



うわー、誰か助けて。




そう嘆いていると、私の隣にいた人物が手を挙げた。



……え、翔音くん?



「あー、翔音くんもジャンケン負けた人ー?」

「…………勝った」



宮下くんの問いに、手を挙げたまま答える。


えっ、ジャンケン勝ったの?



「勝ったけど、買い出し担当引き受けてくれんの?」


その問いにも彼はこくんと頷いた。



翔音くんは心が広いねーなんていいながら、書記の人に名前を告げると、掃除と買い出し担当の項目に、翔音くんを含めた4人の名前が書かれた。




「……いいの?翔音くん、掃除も買い出しも結構大変だよ?みんな嫌がるくらいだから」



実際にジャンケンで負けた人が他にいるからあんまり大きな声では言えないので、私は少し小声で言った。



「……別に、いい」

「何で?」

「…………………やりたいから」



……なんだろう、今の間は。


にしてもやりたいって、あんなめんどくさい仕事をやりたいって……!!


なんていい人なんだろう!!



でも良かった、翔音くんが同じ担当になってくれて!!


さっきのままのメンバーじゃほとんど話したことない2人だから気まずいし……。


身内が増えてくれただけでとっても心強い!!



「ありがとう翔音くん、私翔音くんが天使に見える!!」

「……は?」



すっごく変な顔をされた。




「……芹菜、不運だったね、掃除と買い出し担当だなんて」



休み時間、後ろの席の玲夢に哀れみの目を向けられた。


やめてその顔、余計悲しくなってくる。



「でもまあ翔音くんも同じ担当だし、とりあえず身内いるから良かったかな」

「あーね、自分で立候補してたしねっ」

「この仕事やりたいからって言ってた。やっぱり優しいわ翔音くん、ジャンケン勝ったのにね」

「……いや、多分それだけじゃないと思うけど」

「え?」



珍しく玲夢が真剣な顔していうものだから、私は少し身を構えた。




「きっと芹菜と一緒にいたいんだよ」

「……何故そうなる」

「じゃなきゃ、あんな担当やりたいだなんて言わないっしょ!!それにやりたいって言ったのも、宮下くん達と同じ担当だってわかった後だし。……ほら、ヤキモチ焼いてるんだよ!!」

「いや、それはない」

「真顔で否定!!……仮にヤキモチとかじゃなくても、ああ見えて翔音くん、結構芹菜のこと心配してるんだよ?勉強会しかり、遊園地しかり」



ああ、そういえばそんなこともあったなあ。


遊園地のナンパ事件のときは本気で心配してくれたみたいで、もちろん私は嬉しかったよ。




「まあでもあのときは状況が状況だったし」

「そりゃあそうだけどさー」



あ、そういえば私が遊園地で居なくなってたとき、実はナンパ事件に遭遇してましたーってことはみんなには話してなかったんだっけ。


うん、まあいいか。




「それに私よく怪我とかしてしょっちゅう呆れた顔されるし。だから仮に心配されることがあったとしても、それがヤキモチに繋がるかどうかは……」

「繋がるでしょ」

「即答か」




繋がるかー?

ヤキモチなんて焼いたことも焼かれたこともないからわかんないよ。



……いや、待てよ?


私がいつも先に一人で帰ろうとすると拗ねたような顔をするのは……ヤキモチか?


いやいや違う。

だってヤキモチとか嫉妬って自分より優れた人、つまりは第3者にするものだよね。


じゃあこれはヤキモチじゃない、だって登場人物が私と翔音くんしかいないんだもの。



なんだろう、拗ねるってことは……構ってもらいたい……?

甘えたいざかり?




「あ、わかった!!」

「え、わかったの!?」


玲夢が嬉しそうに反応する。



「きっと甘えたいんだよ!!ほら、弟がお姉ちゃんに対して甘えたいって思うやつ!!」

「……は?」



玲夢の目が点になったのがわかった。



え、なんでそんな顔する?






「だから、翔音くんは、」

「……俺が何?」

「ふおあっ!!??」




いつの間にか後ろにいた翔音くんに話しかけられて私はかなり驚いた。


ま、まさか本人登場とは……。




「……俺が、何?」

「あ、いや……、えと、……っジャンケン勝ったのに買い出しやってくれるなんて優しいなあって……」



うん、嘘は言ってない。





「……優しい?」

「うん、優しいよ?」

「…………そう」



翔音くんは目を細め、少しだけ笑った。



わ……、まだまだぎこちないけど、綺麗に笑うなあ……。







「えっ、今翔音くん笑った!?笑ったよね!?」

「うん、最近やっとね」

「か……っ、かかかかかかかッ」

「効果音か」

「か、かかかか可愛い……っ、うわ、うわあわわわあああ」

「落ち着いて玲夢!!気持ちはわかるけど落ち着こう!?」




私の背中をバンバン叩きながら興奮を抑える玲夢。


いや、抑えられてない気もするけど。




そして私たちの近くにいた女の子達も翔音くんの笑顔を見たのか、顔を真っ赤にして黄色い声をあげた。


それに乗じてクラスのほとんどがこちらに目を向ける。



おおおおおおやめてやめて、目立つの苦手なんだからああああ!!


翔音くんの笑顔恐るべし!!




昼食後の午後の時間。


すでに学園祭の準備期間である今日からはしばらく授業がない。



ということで、買い出し組の私、翔音くん、宮下くん、ナルシストくんは学校から一番近いホームセンターへとやってきた。




……あれ、なんで私たちここにいるの?




「ねー宮下、俺らなんでホームセンター来たの?」


あ、ナルシストくんと疑問が被った。



「教室は今デザイン組が使ってるから掃除はできないだろ。その間は暇になるから、デザイン組がイメージしやすいように、下見に来たんだよ」

「へー、お前ちゃんと仕切ってるな、意外だわ」

「お前にいわれたくない」




なるほど、そういった理由か。


にしてもこの2人仲良いんだなー。

宮下くんがちょっと冷たそうだけど、本気で冷たくしてるようにはみえないし。





「まあ何にしても、俺らの中に女の子1人いてよかったなー」



……それ間違いなく私のことですよね。




「……藍咲さんはお前の好きなタイプとは違うと思うんだけど?」

「俺だってたまには普通な子に興味持つときだってあるのー」



悪かったな普通で!!

ってかそんな会話本人がいる前でやりますか!?

するならせめていないところでやってよ!!




「お前が誰に興味持つかなんてどうでもいいけどさ、多分藍咲さん、お前の名前知らないと思うなー」

「え?そーなの?」



バレていらっしゃる!!


し、知らないよ、だってこういうタイプの人とはあんまり関わらないように平和に過ごしてたんだから!!





「俺の名前知んない?」

「え、……あ、あはは……」

「これでも結構有名だとは思うんだけどなー、女の子の間では」

「あー、うん。女遊びすごい人ってことしか知らない……かな」

「んー、まあ間違っちゃいないけど、ふつーだよ、ふつー」



いや、全然普通じゃないよね。

世の中の普通な人に謝れ。



「俺は剣崎櫂斗(けんざきかいと)。これを機に覚えてね」

「あ、うん、剣崎くんね」

「えー、そこは名前で呼ばね?櫂斗くんって」

「ふざけんな」




ハッと、言って後悔した。


あ、ヤバイ、いつものノリで罵声を浴びせてしまった。



おそるおそる剣崎くんの顔を見ると、少し驚いた顔をしていた。


どどどどどうしよう、ほとんど話したことない人にいきなり罵声って!!


うわあああ、印象最悪だ、私の平凡が!!





「……わー、今すごいこと言ったね」



うっわあああああこれ絶対私終了のお知らせ!!




「初めてだよ、女の子にそんなこと言われたのは」

「え、あ……いや、あの……」

「……でもさ、そういう媚びない子を落としたくなるのが男なんだよね」

「…………は?」



え、何、おっしゃる意味が皆目見当もつかないんだけど。


この人頭大丈夫なのか?





「…………ねぇ、」

「ふおっ!?」



急に後ろから腕を掴まれ引っ張られた。


か、翔音くん?



「……下見に来たんでしょ。早く行こ」

「あ、うん。そう、だね」



腕を掴まれたまま、スタスタと歩いていく。


ちょ、ちょっと待って!!
速いよ歩くの、歩幅がっ、歩幅が違う!!

私ちょっと小走りになってるからああああ!!







「……翔音って随分と可愛いことするんだな」

「その原因作ったお前が何を言うか」

「興味あるのは本当だけど、もうちょっとからかってみようかな、面白そう」

「明らか巻き込まれてる藍咲さん可哀想」

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