◎ 40
「はーい皆さん聞いてくださーい。これから学園祭の出し物を決めまーす」
実行委員の……確か名前は宮下くん……が教壇に立って指揮をとっていた。
いつも眠そうにしてるけど、よく実行委員やろうと思ったね。
雰囲気でいうと桐原くんに似てるかも。
あ、見た目は似てないよ。
宮下くんのほうが髪の毛直毛のサラサラだから。
こんなこと言ったらあの生意気な後輩にぶっ飛ばされそうだ。
「えーと、前回の話し合いで出てきた案は、えー、お化け屋敷と縁日と、射的と、焼きそば……くらいかなー。あー、イマイチだなー」
ボソッとじゃなくて普通の音量で文句いったよ宮下くん。
「お化け屋敷定番だけど、新しい脅かしとかいれたら面白いんじゃね?」
クラスの男子が挙手して意見を言う。
「あー……、落とし穴とかー?」
現実を考えろ実行委員。
そんなことしたら下の階に落ちるぞ。
「じゃあお化け屋敷やめてメイド喫茶とかはどーっすかー?」
そう案を出したのは女遊びが凄いと噂の男子。
名前?
知りません。
「それはお前が女子のメイド服姿見たいだけだろー、却下」
「男子もちゃんと執事服着んの。ほら、これで平等」
そういってにっこり笑った。
あれだ、言わなくてもわかると思うけどこの人はナルシストだ。
女の子のメイド服姿見たいと同時に、自分も執事服着たいんだ。
クラスの女の子たちは、この人の執事服姿が見れるなら……、と顔を赤くしながら賛成しそうな雰囲気である。
メイド服……バイトで似たようなの着てるから慣れたといえば慣れたけど、学校でその姿を晒したくはない!!
なんとか違う意見を……。
「宮下実行委員殿!!!!」
急に大声を張り上げたのはなんと玲夢だった。
「(殿……?)あー、どーぞ川上さん」
「男女逆転メイド喫茶というのはどうでしょうッ!!??」
「却下」
即答だ。
「待って、よく聞いて女子のみんな!!その企画が通れば、そこのナルシストの女装が見れるんだよ!?」
「……それって俺のこと?」
クラスの半分の女の子の気持ちが揺らいだ。
「さらに!!この美少年の翔音くんの女装だって見れちゃうんだよッ!?」
手のひらでバッと翔音くんを示す。
当の本人はきょとんとしている。
「「「「「男女逆転メイド喫茶に賛成ーッ!!」」」」」
クラスの女の子全員の意見が一致した。
うわあああ女の子怖ええええ!!
その声を聞いて、宮下くんはがっくりと項垂れていた。
それもそのはず。
このクラスは男の子より女の子のほうが人数が多い。
その女の子全員の意見が一致した今、多数決をとっても無駄な事である。
男は女に口では勝てないと言ったもんだ。
「やったよ芹菜っ、提案が通ったよ!!」
「うん、そりゃあもう見事にね」
放課後、学園祭の出し物が決まり、HRが終わったあと、玲夢がものすごく嬉しそうに抱きついてきた。
そんなに翔音くんのメイド服姿見たいのか。
……私も見たいけど。
「本番が楽しみ!!衣装頑張って作んなきゃねっ!!」
「……え、衣装って手作り?」
「当たり前じゃん、いくらうちが私立だからって衣装ばっかりにお金はかけられないっしょ!!」
そういえば去年も一昨年も手作りだったっけ。
自分じゃ作らないから忘れてた。
うわー、裁縫とかできないのにー……。
「……柚子ー、私のかわりに作ってくれたりは「しません」」
ですよねー。
そんな満面の可愛い笑みでいわないで……。
「……あれ、そういえば翔音くんは?」
後ろを振り向いてみるが彼の姿がどこにもない。
「あぁ、翔音くんならさっき新井くんと橘くんと一緒にどっかいってたよ」
「あ、そうなんだ」
「じゃああたし達はそろそろ部活にいってくんね!!」
「また明日、芹菜さん」
「うん、また明日ね玲夢、柚子」
そっか、裁縫か。
鞄に荷物を詰めながら考える。
さすがにもう3年だし、少し裁縫に慣れた方がいいのかな。
というか3年にもなって人に任せて作ってもらうってのが一番気が引けるしな……。
しかも執事服って……。
愁さんが仕事のときに着てるのが燕尾服だから、イメージ的にはピッタリだけど、借りるわけには……ってかサイズが違いすぎる!!
ああああなんでうちの制服は学ランじゃないんだ。
同じくらいの背の人に借りればズボン作る手間が省けたのに!!
「何百面相してるんですか、芹菜先輩」
「うわっひゃああっ?!」
突然顔を覗き込まれて、私は声をあげた。
「……どんな悲鳴ですかそれ」
「き、桐原くん……お、驚かさないでよ、びっくりしたじゃん!!」
「真剣に考えてたみたいなんで、この方が気付くと思って」
「あぁ、……うん、まあ」
裁縫が全く出来なくてーなんて言ったら絶対に馬鹿にされる!!
私はゆっくりと目を逸らした。
「…………また、悩んでるんですか?」
桐原くんは真剣な顔をして私の目を見てきた。
あ……、そっか、私まだ、桐原くんに言ってない。
「あ、あのね、翔音くん、帰って来たんだ」
「え、いつですか」
「昨日の夕方。また前みたいに過ごせるんだ」
「…………良かったですね」
僅かに目を細めながら微笑み、私の頭をぽんっとした。
私は一瞬ポカンとする。
朔名といい、新井くんといい、桐原くんといい、今日はやたら頭ぽんぽんされるけど、何で?
頭撫でるの好きなのか?
……それにしても、
「今の桐原くんの笑顔貴重すぎる。ワンモワプリーズ?」
「だから空気くらい読んでくださいよ、ワザとですか?」
どうやら桐原くんは橘くんを探しにうちのクラスに来たらしい。
まあ、いつもそうだよね。
ほんと先輩後輩関係を逆転したらどうだろうか。
その桐原くんはもうここにはいない。
教室にいる人もほとんどが部活に行くか、帰宅してしまいガランとしていた。
そろそろ私も帰……る前に翔音くん探さなきゃ。
いや、別に私一人で帰っても問題はないんだけどさ。
一人で帰ろうとすると、翔音くん拗ねたような顔をするんだ。
本人には言えないけど、可愛いと思いました。
美少年はどんな顔しても美少年でした。
まあそれはさておき、その美少年を探しにいこう。
私は鞄を机の上に置いて教室を出る。
ガラッ
「わひゃあっ?!」
ピシャァァッ
ドアを開けた瞬間、目の前に翔音くんがいて、驚いて思わず勢い良くドアを閉めてしまった。
ガラガラガラ……
ゆっくりとまたドアが開く。
「……………………」
む、無言の絶対零度ォォォォッ!!!!
怖い、怖いよ!!
不機嫌オーラMAXだよ!!
「ごごごごめんなさいっ、いきなり目の前にいたからッ、びっきゅりして……っ、」
「……噛んでる」
「う……っ、」
うわあああ変なとこで噛んじゃったよ恥ずかしい!!
翔音くん、呆れてため息ついてるよ。
ほんとごめんなさい、ほんっとごめんなさい。
「……いいよ、別に」
翔音くんはスタスタと自分の席の方まで歩くと、置いてあった鞄を2つ持った。
「……帰ろ」
そのうちの1つを私に渡す。
「あ、……うん、あり、がとう」
よ、良かった、ちゃんと一緒に帰ってくれるみたいだ。
「明日から本格的に学園祭の準備だねー」
いつも通り、とくに会話をするわけでもない帰り道、ふと思ったのはやっぱり学園祭のことだった。
「……何をするの?」
「んー、うちのクラスの場合だと、お店だからメニュー決めたり、衣装作ったりとか、あと買い出しとかかな……」
去年は衣装作らないかわりに買い出しに何度も駆り出されたりしたっけ。
あ、そういえば……。
「……翔音くん、女装するんだよね」
「……じょそう?」
「男の子が女の子の格好することだよ」
その瞬間、翔音くんは顔をしかめた。
「……何で」
「だって男女逆転って設定になっちゃったから……」
「………」
「だ、大丈夫だよ。私だって男の子の格好するし、うちのクラスの男の子達はみんな女装するから!!」
「……見た目が悪そうな出し物だね」
包み隠さずストレートに言う翔音くんだけど、私も同意見なので何も言えません。
……がたいの良いメイドさんか。
見たいような見たくないような。
女の子の考えることはわからないな。
あれ、私女の子だよね?
「まあとにかく頑張ろうね、明日から」
「……ん」
「とくに翔音くん頑張って」
「……は?」
「きっと衣装決めるときとか、実際着るときとか、女の子に遊ばれると思うから」
さすがに着替えを手伝うことはしないと思うけど、髪型とかいろいろいじられそうだし。
翔音くんは一瞬考えるような素振りをし、何かを思いついたのかこちらに顔を向けた。
「ていそうのきき?」
「おい誰だそんな言葉教えたのは」
言葉を覚えてくれるのは嬉しいけど、そんな言葉知らなくていいから!!
40.メイド服は正義
(……使い方合ってる?)
(ある意味間違いではないと思うけど、今すぐ忘れてその言葉!!)
(……なんで)
(ダメ、純粋な翔音くんには必要ない!!意味も知らなくていい!!)
(……………………………)
(す、拗ねた顔してもダメなものはダメなの!!)
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