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「おっはよー芹菜、久しぶりー!!」

「おはようございます芹菜さん」

「あ、おはよー玲夢、柚子」





今日から夏休み明け初の学校がはじまった。



これから体育館で全校集会です。


はっきりいって行きたくない。


真夏の体育館て、まるでサウナだよ?


そんな中先生たちのながーいお話を聞かなきゃならないなんて拷問すぎる。











「みなさん、夏休みはどうでしたか?私は――……」




校長のなっがーいお話がはじまった。



これ、聞いてる意味ある?


何が悲しくて校長の夏休み生活を聞かなきゃならない!?




お願いだから教室に帰らせて!!






ポスッ


「!!」




ふいに肩に重みを感じた。


何だと思って目を向けると、紫色が視界に入った。




「え、ちょ……っ」





集会のときはクラスごとであれば並びはテキトーなので、私の隣には翔音くんが座っていた。



その彼は今、私に寄りかかって眠っているのだ。





え、待って、何この状況!?


何で私の肩にもたれ掛かってるの!?




いくら家族だからって、こんなみんながいる場所で……っ。




恥ずかしい……いや、重い………じゃない、暑い!!




「か、翔音くんっ、起きてってば」



なるべく小声で私は翔音くんの肩をゆする。




「……ん……ねむ………、」

「眠いのはわかるけど……っ、せ、せめて姿勢は直して……、」

「……じっとしてて」

「あ、ごめんなさい」




少しずれようと思い動こうとするが、翔音くんに止められてしまった。



あれ、なんで謝ってるんだ私?


体育館にいる間、私の肩にはずーっと翔音くんの頭が乗っていたため、今非常にこっています。




「芹菜さん、肩大丈夫ですか?」

「うん、まあ……」

「翔音くんずっと寄っ掛かってたもんねっ、いいなあ、羨ましい!!」

「肩こってるのに?」

「肩こりは勲章みたいなもんでしょ!!」




嬉しくないよそんなものもらったって!!






「あんな公共の場で見せつけてくれちゃって、芹菜チャンも隅におけないねー」

「(げっ……)あ、新井くん……」


「今“げっ”て思ったでしょ」

「ままままさか!!今日も新井くんは素敵なお姿だなーって考えてたよ!!」

「そうなんだ。じゃああとで体育館裏ね」

「ミンチにされるッ!?」











「そういえばそろそろ学園祭だよね!!」




教室の自分の席に座っていると、後ろから玲夢に声をかけられた。



「あ、そっか……もう9月だもんね」

「今年は何やるのかな、うちのクラスは」

「3年になったしねー……やっぱりここは……、」

「女装喫茶とかどう!?」

「それ需要あります玲夢さん?」





喫茶店て、あれでしょ?


私がバイトしてるとこみたいにみんなメイド服着てやるんでしょ?



女装喫茶って……がたいの良いメイドさんをみてどこに萌えろと!?





あ、でも……………、





「翔音くんなら似合うかも……」




そう口にして、玲夢の隣の席の彼をみる。




「……何?」

「………………………」



私の頭の中でメイド服を着てウィッグかぶって、さらにホワイトブリム(メイドさんが頭につけるカチューシャ)なんかをつけちゃった翔音くんが現れた。




「……何見てるの」

「……あ、やばい、完全に負けたかも」

「は?」





文句なしで可愛い、めちゃくちゃ可愛い。



女装喫茶、良いかも。



翔音くんだけ!!


「せっかく3年になったんだから、ここはお化け屋敷じゃないの?」

「それもいいけど、ありきたりじゃない?」




……そのありきたりなお化け屋敷と張り合う提案が女装喫茶ってのはどうなんだ。





「……そういえば芹菜チャンって確かお化け屋敷苦手じゃなかったっけ?」

「脅かす立場だったら大丈夫だよ」

「へぇ……?じゃあ是非お客として入るべきだよね」

「何それなんのいじめですか!?……というか、タネがわかってるお化け屋敷に入ったところで全く怖くないよ」

「ああ、それなら安心して。誰かに頼んで芹菜チャンを全力で追いかけまわすようにしとくから」


「何そのリアルすぎる脅かし方!!脅かすっていうより呪うってほうがしっくりくるんだけど!?」





ほんとにそんなことされたら、きっと私は登校拒否になるだろう。




「あ、いいねその追いかけまわすっていう提案!!」




玲夢がのってしまった。



「えっ、本気でいってる玲夢!?」

「もちろん」

「待て待て待て!!私……というか、怖いのダメな人のことも考えて!?」

「そういう人こそ、このお化け屋敷で鍛えるべきじゃんっ」

「その鍛えた成果をどこで発揮しろっつーの!!軽くトラウマもんだよ!!」

「ダメだよ芹菜チャン、軽くじゃ。ちゃんと徹底的にやんないと」

「君はちょっと黙っててくれません!?」



話がややこしくなるだけだから!!





……にしてももう学園祭の時期か、早いなあ。


今月の前半は学園祭の準備で授業ないししばらくは楽しくなりそうだな。



午後の授業のとき、どんな出し物にするかクラスで話し合った。



定番であるお化け屋敷は他の人たちも賛成の意見が多かった。


あとは女装喫茶……ほとんどの女子が翔音くんをみて黄色い声をあげてた。

……やっぱり考えてることはみんな一緒か。




異例な提案に男子たちの反応も上々だったけど、女装するのは君たちですよ?







「どうなるんだろうね、うちのクラスの出し物」





そんなことを考えている今は、翔音くんと家に帰る途中。



こちらから話題をふらないと会話が一切ないからなんとなく呟いてみる。


……まあ無言で返されるときもあるけど。





「……お化け屋敷」

「えっ、縁日とかじゃないの?駄菓子とか食べ物売るんだよ?」

「…………売ることができても自分が食べれるわけじゃないでしょ」

「あ、そうでした」




まともな答えが返ってきました。




「翔音くんってお化け屋敷好きなの?」

「……嫌いじゃない」

「まじですかー」




さ、さすが男の子というべきか。



男の子って何で怖いの平気なんだろう。


男だから?
女の子だって元は同じ人間じゃないか。



「……アンタは怖がりだよね」

「なっ……そ、そんなことは……!!」

「……この前お化け屋敷で人間じゃない悲鳴あげてたし」

「それはあれか、私が化け物並だとでもいいたいのか。人間咄嗟のときはありえない悲鳴だってあげちゃうんですーっ!!」




いつ現れるかわからないものに対して、“きゃあああっ”なんて可愛い悲鳴用意しろってほうが無理だから!!





「……別に面白いからいいけど」

「それ褒めてます?」











家に着いた私はすぐに部屋着に着替えた。


翔音くんも着替えるために今は2階にいる。




朔名が帰ってくるまでまだ時間あるし、夕飯をつくるにはちょっと早いし……どうしようかなあ。




なんとなくテレビをつけていようと思い立ち、リモコンを手に取った。




そんなとき、









ピンポーン





インターホンの音がした。





あれ、もう朔名帰ってきたのかな?




私はぱたぱたと玄関に急いだ。



ドアを開けようとして、ふと気づく。





……身内である朔名が呼び鈴を鳴らすわけがない。





私はチェーンロックをかけたまま、ゆっくりドアを開けた。






「……どちら様ですか?」



おそるおそる声をかけてみる。





「あ……ここ、藍咲さんのお宅、ですよね?」

「……はい」




そこにいたのは40代くらいの男の人。


見た目のわりには白髪が目立っていて、来ているスーツもシワだらけで、全体的にくたびれた感じだ。



でも、その少し垂れた目元から受ける印象はとても優しい。





……優しい、はずなのに。




「あ……私……、」





嫌な予感がした。








「……翔音の、父親です」



37.不安が押し寄せる

(……来ちゃったんだ、)

(このときが、)


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