36


昼御飯を食べ終わり、私たちはお店をでた。



さて、こっからどうしよう。



涼みにきたのはいいけど、別にそれ以外の目的はないんだよね。


昼御飯もたべちゃったし……。








「ねえ、君もしかしてモデルの人っ!?」




随分ハイテンションな声にそちらを向くと、20代後半くらいの女の人がいた。




「「……は?」」



はじめて私と翔音くんの声がハモった。





「あっ、私“Brightness”って雑誌の編集担当の塚本です!!」



そういいながら私たちに名刺を配った。




その雑誌なら私も知ってる。


いわゆるかっこいい男の子がたくさん載ってるやつだ、モデルさんや芸能人だけじゃなく、一般人も。


確か玲夢がこの雑誌買ってたなあ……。




「それで今一般人でイケメンな子を探してあちこちまわってるの。で、君をみつけたってわけ!!もうストライクゾーンよ君!!……でももしかしてすでにモデルとかやっちゃってるかな?こーんなにイケメンだもんねー」




笑顔全開のマシンガントークに、私も翔音くんも呆然である。




「……えーっと、普通に一般人です、けど……」



翔音くんのかわりに私が答える。




「ほんとー!?うわあラッキー!!ねっ、お願い写真取らせて!!」





そういって女の人は嬉しそうにしながら鞄から大きなカメラをだして構えた。




翔音くんを見てみると、未だにきょとんとしている。



カメラに抵抗がないのか、まだ状況が飲み込めてないのか……、その表情からはよみとれない。




ど、どうしよう……このお姉さん怪しい人ってわけじゃなさそうだけど………。




私が少し困っていると、お姉さんは“あっ”と声をあげた。








「貴女はそのイケメンくんの彼女さんだよね?写真一緒にはいっちゃって!!カップルで撮った写真も載せる予定だからっ」



そんな馬鹿な。



待てええええい!!


この雑誌が発売されたら玲夢はもちろん、うちの学校の生徒が何人も買っていくだろう。



なんたって女の子に人気の雑誌だから。




その雑誌に私たちの写真が載ってたらどうなる?




また“付き合ってる”だのなんだの聞かれることになるかもしれない。





……………………。









「させるかあああああ!!逃げるぞ翔音くん地の果てまでええええッ」

「……は?……ちょ……っ」




私は翔音くんの手首を掴んで全力疾走した。




お姉さんごめんなさい、あなたのお仕事には協力できません!!



それからいっときますが、私は彼女じゃありません!!



というか男女2人でいたら付き合ってるだなんて勘違いもいいところだああああ!!




「……ぜぇ……はぁ……あ、あっつーい……」

「……誰の、せいだ……」




走ったせいで息があがり、涼しいこの建物の中なのに身体中が熱い。



せっかく涼みにきたのにこれじゃあ意味がない。




「……だってさ、あのお姉さん、写真とろうとしてたから……」

「……駄目なの?」

「え!?だってツーショットだよ!?雑誌に載っちゃうんだよ!?学校のみんなが見るかもしれないんだよ!?」

「……それの何が駄目なの?」




それの全部が駄目なの!!



いや、翔音くんがいいなら別にいいんだけど…………って、そうじゃなくて!!



こんなテキトーな格好で自分を晒したくないから!!





もうほんと、翔音くんってまわりに無頓着すぎるよ……。


もうちょっと気にして、じゃないと私の苦労が……!!






「あぁぁ……暑すぎる……水がほしい」

「……水ならあるよ」

「……え?どこに?」





飲み物なんて持ってきてたっけ?と不思議に思うが、翔音くんが指さしたほうに目を向けてみる。





「……………」

「……あれ、水でしょ」

「いやあ、うん……確かに水だけどさ……」





そこにあったのは噴水だった。


……飲めってか?




まあでも飲めないけど涼むにはちょうどいいかも。




1階の真ん中に大きな噴水があるこの場所は休憩所みたいなとこ。


ベンチもたくさんあるし、まわりにはアイスとかクレープとか、ちょっとしたものが売っているため、買い物の休憩がてらここにくる人が大勢いる。





「うわあ……冷たくて気持ちいいー」



噴水に少しだけ手をいれると、ほどよく冷たい水が指をすり抜け、火照った身体の熱を鎮めていった。



「翔音くんも来なよ、涼しいよー」

「………」

「……どう?結構涼しめるっしょ?」

「……ん」




翔音くんも私と同じように噴水に手を入れる。


……手を入れるというより、腕を突っ込むのほうがあってるかもしれないけど。



…………意外と豪快だな。





そしてもう片方の手も……いや、腕も噴水に突っ込む。





バシャアアアア



「ぅぶわああっ!?」

「あ」





腕を入れる角度が悪かったのか、上から流れ落ちる噴水の水は翔音くんの腕によって軌道を変え、もろに私の顔面に直撃した。





「………………」

「……あー……、ごめん」

「……いや、大丈夫……涼しくなったし……あっははは……」




ここはポジティブにいこうと思ったけど逆にネガティブに聞こえるねこの言葉。




スタッと噴水から降りてどこかへ行ってしまう翔音くん。



私はその間持っていたハンカチで濡れた顔とか服を拭いていた。




でも見事に髪も服もびしょびしょになってしまい、とてもこのハンカチ1枚じゃ拭えない。




はあ……なんか最近ちょっとした不幸が多くないか?





バサッ



「ふぶぁっ!?」




そんなとき、頭に何かが勢いよくかかった。




「……それで拭いて」



投げたのは翔音くんらしい。


あ、もしかしてこれタオル?

拭くもの探してきてくれたんだ……。




私は翔音くんにお礼をいうと、そのタオルで髪を拭いた。






……あれ?おかしいな。


このタオル…………え、袖……?


何故かタオルに袖がある……、それにこの四角い……紙?








「……って、これ値札あああああ!?」



よくみるとそれはタオルではなく、白いカーディガン……しかも値札つき。




「ちょっ、まっ、か、翔音くん翔音くん!?これっ、このカーデどこで……」

「……そこらへんの店にあったから、拭くにはもってこいだと思って」

「何さらっと泥棒発言しちゃってんのぉぉぉ!?あんた“もってこい”の意味わかってる!?」




“もってこい=持ってこい”じゃないんだよ!!


持ってきちゃ駄目なのそれ売り物だからああああ!!





「…………ごめん……?」

「……うん、でもありがとう、拭くもの探してきてくれて」

「……でも涼しくなったね」

「翔音くん、ちっとも反省してねーのな」





泣いていいかな、いいよね。





まあ確かに結果的に涼しくはなったけど。




そのかわりこのカーデは買うはめになったけどね。



36.涼みに来ました

(うっわあああこのカーディガン5000円!?高っ!!よりによってこの値段!?)
(……もっと安いのがよかった?)
(翔音くんはお店からかっぱらっていくこと前提なのか)


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