35


どうやら橘くんは私と同じく、夏休みの宿題が終わらなくてここにいるらしい。



部活はどうしたのかと聞けば、部長自らの命令で宿題を優先しろとのこと。



……そんなにヤバいのか。





「で、桐原くんは何でここに?」

「……部長の命令で」

「お前も付き添ってやれー的な?」


「ほんと人使い荒いんですよあの部長(眼鏡)」

「いや、()の中もろ聞こえたんだけど」






相当恨んでいらっしゃるようだ。




とりあえず、宿題が理由でここにいることはわかった。



でも私たちを呼んだ理由は?





「……橘くん、なんで私ら呼んだの?」

「ああ、翔音に宿題教えてもらおうと思って!!」

「……じゃあ助けてって叫んだのは?」

「宿題全然わかんねーし、棗は意地悪ばっかで教えてくんねーしってことで!!」





まあ確かに翔音くんは頭いいし、別に断る理由もないからいいだろうけどさ。




「私別にいる必要ないじゃんそれ」

「えー、でも人数は多いほうがいいだろ?」

「教えられない人が増えたって仕方ないじゃんか!!」





うわああ家でのんびりしてればよかったあ……。




「……まあ男3人でいるよりいいんじゃないですか?」


「えっ、もしかして私のこと花だと思ってるっ?」

「微塵も思ってねーよ」

「ちょっ、敬語忘れてる!!」




私の隣に桐原くん、その向かいに橘くんと翔音くんという順で座っている。




本を読んだり宿題をやったりと、それぞれの時間を過ごしているが、はっきり言おう。




この状況、辛いです。




だって女の子私だけ!!


何が悲しくて男3人にまぎれて宿題やらなきゃならない!?


私帰っていいよね!?




玲夢か柚子を呼びたい、今果てしなく会いたい。


女の子カモオオオンッ!!






「……芹菜先輩、変な顔してないでさっさとやったらどうですか」

「君はどうしてそうストレートに発言するのかな」


「……芹菜先輩、早くはかどるように顔を動かすより手を動かしたらどうですか」

「あんまり変わってないうえに更にイラッとくるんだけど!?」







だめだ、もうこの際気にしないことにしよう。



宿題に集中してれば、まわりが男だろうが女だろうがカボチャだろうが関係ないもんね。






「なあ翔音、これどういう意味?」

「これは――……、」




「なーるほど、こーいうことかあ!!」

「………」




「すげえさすが翔音!!お前先生になれるよ!!」

「………」






集中……できない。



私は頭だけ机に伏せた。




いや、橘くんは悪くないよ?


教えてもらって理解できて喜んでるだけだから。





ただ、私が周りの音とか声が気になって集中しきれてないだけ。





はあ、どうしよう。





ため息をついていると、ふいに頭に違和感を感じた。



少し顔を上げると、頭に乗っているのが手だということがわかった。





「さっきから全く手が動いてませんね」

「………」

「この頭には集中力という言葉が足りないようで」





いつも通りの生意気な言葉のわりには、私の頭をぽんぽんと叩くその手は優しい。





なんだろう。



桐原くんがデレた!!





「……何ニヤニヤしてるんですか気持ち悪い」




そのままスパァァンと頭を叩かれた。




「い、痛いッ!!痛いよ今の!!私仮にも先輩だから!!」

「知ってますよそれくらい。あまりにも見れない顔だったのでつい……」

「今さら生意気なこといっても無駄だから。桐原くんがツンデレってことくらい知ってたから。初めてみた今のデレが可愛いとかちっとも……いやちょっと可愛かったけど……、でもそれだけだから。それ以上でもそれ以下でもナッシング!!」

「いったい何が言いたいんですか」





うわあ私動揺しちゃって何いってるかわかんないよ。



でもデレの威力はすごいね。


ツンデレ万歳。




「……なるほど?今度は関係詞が壊滅してますね」




さっと問題集をとられ、中身を見られた。


お前は遠慮というものがないよな本当に。





「何々、芹菜ももしかしてわかんねーとこあるんだ?仲間だあああ」

「……いや、仲間意識もたれても困るんだけど」

「俺は翔音のおかげで宿題がわかるようになったんだ!!」

「そ、それはよかったね」




ニカッと太陽みたいに笑う橘くんは、問題が理解できて喜びに満ちているとみえる。





私は、どうしよう。


翔音くんは橘くんを教えてるから無理だし。





私はちらっと隣を見る。



すると視線に気づいた桐原くんと目が合った。





「……なんですか」

「いや……英語、教えてほしいなあ……なんて」




参考書みてもわかんないし、隣に頭がいい人がいるなら相手が後輩だろうと聞きたくなる。



プライド?


そんなもんはティッシュにくるんでゴミ箱行きさ。






「…………はあ……、仕方ないですね」

「……えっ、じゃあ……」

「……まあ芹菜先輩がここに来たのは、橘先輩の電話を止めなかった俺にも責任がありますから」





そういって私の問題集を読み始める桐原くん。




……なるほど、いつもよりすこーし優しいのはその責任を感じたからか。



自然と口許が緩むのが自分でもわかった。





「……またニヤニヤしてますよ、いい加減やめてください気持ち悪いです」

「あはは、ごめんごめん。今日の桐原くん優しくて可愛いなあって思って」


「教えませんよ?」

「わああああごめん、なんでもないから!!英語、教えてください!!」





おっと、せっかくの教えてもらうチャンスをのがすところだった。


これで宿題が終わる!!





「ありがとう桐原くん!!」

「……、……早く始めますよ」






教えてもらっている間は、まわりの音も気にならないで集中できた。



やっぱり一人でやるより誰かとやったほうが理解しやすくなるね。




あとで橘くんにもお礼いわなきゃね!!



35.後輩に頼んでみる

(桐原先生っ、できました!!どうですか?)
(こことここ、スペルが違います。あとこれ、文法が果てしなくまちまちです)
(うっ……道のりは長い……!!)


(……なあ翔音、何だかんだいって棗のやつノリノリだよな)
(……そうだね)


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