◎ 35
どうやら橘くんは私と同じく、夏休みの宿題が終わらなくてここにいるらしい。
部活はどうしたのかと聞けば、部長自らの命令で宿題を優先しろとのこと。
……そんなにヤバいのか。
「で、桐原くんは何でここに?」
「……部長の命令で」
「お前も付き添ってやれー的な?」
「ほんと人使い荒いんですよあの部長(眼鏡)」
「いや、()の中もろ聞こえたんだけど」
相当恨んでいらっしゃるようだ。
とりあえず、宿題が理由でここにいることはわかった。
でも私たちを呼んだ理由は?
「……橘くん、なんで私ら呼んだの?」
「ああ、翔音に宿題教えてもらおうと思って!!」
「……じゃあ助けてって叫んだのは?」
「宿題全然わかんねーし、棗は意地悪ばっかで教えてくんねーしってことで!!」
まあ確かに翔音くんは頭いいし、別に断る理由もないからいいだろうけどさ。
「私別にいる必要ないじゃんそれ」
「えー、でも人数は多いほうがいいだろ?」
「教えられない人が増えたって仕方ないじゃんか!!」
うわああ家でのんびりしてればよかったあ……。
「……まあ男3人でいるよりいいんじゃないですか?」
「えっ、もしかして私のこと花だと思ってるっ?」
「微塵も思ってねーよ」
「ちょっ、敬語忘れてる!!」
私の隣に桐原くん、その向かいに橘くんと翔音くんという順で座っている。
本を読んだり宿題をやったりと、それぞれの時間を過ごしているが、はっきり言おう。
この状況、辛いです。
だって女の子私だけ!!
何が悲しくて男3人にまぎれて宿題やらなきゃならない!?
私帰っていいよね!?
玲夢か柚子を呼びたい、今果てしなく会いたい。
女の子カモオオオンッ!!
「……芹菜先輩、変な顔してないでさっさとやったらどうですか」
「君はどうしてそうストレートに発言するのかな」
「……芹菜先輩、早くはかどるように顔を動かすより手を動かしたらどうですか」
「あんまり変わってないうえに更にイラッとくるんだけど!?」
だめだ、もうこの際気にしないことにしよう。
宿題に集中してれば、まわりが男だろうが女だろうがカボチャだろうが関係ないもんね。
「なあ翔音、これどういう意味?」
「これは――……、」
「なーるほど、こーいうことかあ!!」
「………」
「すげえさすが翔音!!お前先生になれるよ!!」
「………」
集中……できない。
私は頭だけ机に伏せた。
いや、橘くんは悪くないよ?
教えてもらって理解できて喜んでるだけだから。
ただ、私が周りの音とか声が気になって集中しきれてないだけ。
はあ、どうしよう。
ため息をついていると、ふいに頭に違和感を感じた。
少し顔を上げると、頭に乗っているのが手だということがわかった。
「さっきから全く手が動いてませんね」
「………」
「この頭には集中力という言葉が足りないようで」
いつも通りの生意気な言葉のわりには、私の頭をぽんぽんと叩くその手は優しい。
なんだろう。
桐原くんがデレた!!
「……何ニヤニヤしてるんですか気持ち悪い」
そのままスパァァンと頭を叩かれた。
「い、痛いッ!!痛いよ今の!!私仮にも先輩だから!!」
「知ってますよそれくらい。あまりにも見れない顔だったのでつい……」
「今さら生意気なこといっても無駄だから。桐原くんがツンデレってことくらい知ってたから。初めてみた今のデレが可愛いとかちっとも……いやちょっと可愛かったけど……、でもそれだけだから。それ以上でもそれ以下でもナッシング!!」
「いったい何が言いたいんですか」
うわあ私動揺しちゃって何いってるかわかんないよ。
でもデレの威力はすごいね。
ツンデレ万歳。
「……なるほど?今度は関係詞が壊滅してますね」
さっと問題集をとられ、中身を見られた。
お前は遠慮というものがないよな本当に。
「何々、芹菜ももしかしてわかんねーとこあるんだ?仲間だあああ」
「……いや、仲間意識もたれても困るんだけど」
「俺は翔音のおかげで宿題がわかるようになったんだ!!」
「そ、それはよかったね」
ニカッと太陽みたいに笑う橘くんは、問題が理解できて喜びに満ちているとみえる。
私は、どうしよう。
翔音くんは橘くんを教えてるから無理だし。
私はちらっと隣を見る。
すると視線に気づいた桐原くんと目が合った。
「……なんですか」
「いや……英語、教えてほしいなあ……なんて」
参考書みてもわかんないし、隣に頭がいい人がいるなら相手が後輩だろうと聞きたくなる。
プライド?
そんなもんはティッシュにくるんでゴミ箱行きさ。
「…………はあ……、仕方ないですね」
「……えっ、じゃあ……」
「……まあ芹菜先輩がここに来たのは、橘先輩の電話を止めなかった俺にも責任がありますから」
そういって私の問題集を読み始める桐原くん。
……なるほど、いつもよりすこーし優しいのはその責任を感じたからか。
自然と口許が緩むのが自分でもわかった。
「……またニヤニヤしてますよ、いい加減やめてください気持ち悪いです」
「あはは、ごめんごめん。今日の桐原くん優しくて可愛いなあって思って」
「教えませんよ?」
「わああああごめん、なんでもないから!!英語、教えてください!!」
おっと、せっかくの教えてもらうチャンスをのがすところだった。
これで宿題が終わる!!
「ありがとう桐原くん!!」
「……、……早く始めますよ」
教えてもらっている間は、まわりの音も気にならないで集中できた。
やっぱり一人でやるより誰かとやったほうが理解しやすくなるね。
あとで橘くんにもお礼いわなきゃね!!
35.後輩に頼んでみる
(桐原先生っ、できました!!どうですか?)
(こことここ、スペルが違います。あとこれ、文法が果てしなくまちまちです)
(うっ……道のりは長い……!!)
(……なあ翔音、何だかんだいって棗のやつノリノリだよな)
(……そうだね)
prev /
next
[
back]