33


誰かここに来るのかな?



そんなことを思っていると、こっちに近づいてくる足音が聞こえた。



やってきたのは朔名だった。




「よ、芹菜、お疲れさん」

「あ、朔名。……なんだ、来るって朔名のことだったんだ」

「は?何の話だ?」

「さっき愁さんにね、もうすぐ来るからここにいてっていわれたんだよねー。だから誰か来るのかなあって……」





私が首を傾げていると、朔名は何か閃いたような顔をした。






「多分それ俺のことじゃねえよ」

「え、何で?」

「俺はただ忘れ物とりにきただけだし」

「忘れ物……」







と、ここまで話していたとき、また新たに足音が聞こえた。




今度は誰だろうと思っていると、やってきたのは翔音くんだった。






「お、やっぱり翔音だったか」




朔名は何やらはじめから気づいていたようなことをいった。




やっぱり?


翔音くんがくることわかってたの?







「えっと……、翔音くんも休憩?」

「…………………」






私はそう質問したが、翔音くんは頷くこともせずに無言を突き通した。





え、無視ですか!?









「……あのー、翔音くん?」







「アンタ誰?」


「お前もかああああ」






なんで?


そんな認識できないくらい私変わってるのか!?


メイク薄いよ!?

もしかしてこの髪型がいけないの!?



ああ、お洒落するなってことですね、わかります。




「なあ翔音、芹菜のことどう思う?」

「……は?」

「ちょっ、朔名!?何聞いて……っ」

「はいはい芹菜は黙っててー」





私の声を遮った朔名はまた翔音くんに声をかける。





「で、どう思う?」

「……何の話」

「だから、今日の芹菜いつもと違うじゃん?化粧してるし、髪おろしてるし」

「………」

「そんな芹菜を見て、翔音はどう思ったんだ?」






朔名はさっきからニヤニヤしっぱなしだ。


楽しんでるなこのやろう。







翔音くんはじっと私を見た。


しかも無言で。




そんな視線に耐えきれず、私は目をそらした。




こいつ相変わらず自分が美少年だって自覚ないなあ!!



そんなに見られたらどうしていいかわかんなくなるでしょうが!!






すると、少し納得したような顔をした。








「ちょっと年とったように見える」




「「………………」」












私はゆっくりとその場から歩き出す。




近くにあったこの店の掃除用具入れに手を伸ばした。






大丈夫、大丈夫よ芹菜。


このくらいなんでもない。



きっと“大人っぽい”って言いたかったんだわ。



うん、絶対そうに決まってる。





でも、でもさ、








「美少年だからって何でも許されると思うなああああ!!」


「お、おい芹菜落ち着けって!?」


「馬鹿っ、美少年っ、睫毛長すぎだ交換しろっ!!この天然タラシィィィィィッ!!」







私は猛スピードでその場を去った。

我ながらやってしまった気もするが。










「……褒めたつもりだったんだけど」

「……翔音、あとで謝りにいこう、俺も謝るから。それから……日本語の勉強もしような」

「?わかった」



翔音くんはきょとんと首を傾げた。




「はあぁぁぁ………」




私は長いため息をついた。



思わず走り出して裏口から出てしまったけど、私休憩中だったんだよね。



もどらなきゃ!!






………にしても、






私ってメイクすると老けるのかなあ。



うわあああ嫌だ、何のための化粧品だばかやろおおおお!!




もうしない、ぜーったいメイクしないわああああっ!!









「あれ、芹菜ちゃん?こんなところで何してるの?」





やってきたのはジョウロを持った愁さん。




……なんでジョウロ?








「……愁さん……、」

「ん?何?」

「今の私、老けてます?」

「……え?」





愁さんは目が点になっていた。











「……なるほどねー」



私はさっきのことを話した。





「私決めました。もうメイクしません、すっぴん万歳!!」

「……それはもったいないなあ、可愛いのに」

「……おだてても何も出ませんよ?」

「ふふ……、……でも、ごめんね、悪いことしちゃったかな」

「え?」





眉を下げて悲しそうにいう愁さんに私は疑問を感じた。





「翔音くんに休憩させたのは俺だから……。せっかく芹菜ちゃんがメイクしたから、ちゃんと見せてあげようかなって思って休憩にしたんだけど」

「………」

「かえって悲しませちゃったね……」





そういって悲しそうに笑った。







「そんなっ、愁さんのせいじゃないですよ!!」




メイクが似合わないこの顔のせいです!!


時雨さんごめんなさい、メイクしてくれたのは嬉しいけど、どうやら私には似合わないようです。






「……でも、気にしてるでしょ。翔音くんにいわれたこと」

「え……」





気にしてる?


私が?





確かに、いつもなら突っ込みいれたり怒ったりする………、いや、今回もしたけどさ。




でも、なんか………翔音くんにいわれたとき、妙にグサァァァと……。




……妙ではないな、“グサァァァ”って結構刺さってるよね。







「芹菜〜、いるか……?」





裏口から出てきたのは朔名……と、翔音くん。





あ、どうしよう。


いきなり飛び出してきちゃったから私どんな顔してれば……!!




しばらく沈黙が続いた。


この場に4人もいるのに何故誰もしゃべらないィィィ!?





「……えっと、ごめんな芹菜」

「……へ?」

「いや、俺も興味本意で翔音に聞いてみたから、さ。どんな反応すんのかなあって……」

「あ、うん」





愁さんも朔名も興味がどうのみたいな話してるけど……興味って、何の……?






「それから………、」




朔名がそういって言葉を切ると、翔音くんが前にでてきた。




うわあああどうすれば、目合わせづらいよおおお。







「……さっき、は……ごめん」

「えっ」

「大人っぽいって、言おうとした……んだけど」






なんだろう、さっきのグサァァァっていうのが無くなってきたような……。



それに翔音くん、なんか口が達者になってる……?





そんな疑問を持ちながらも私は決めたことを言う。





「……もういいよ、大丈夫だよ私は!!」

「………」

「もともと今日かぎりのメイクだし、私はすっぴんのほうが楽でいいしねっ」





私は手をぐっと握りしめて笑った。



あ、今気づいたけど私さっき飛び出したとき、掃除用具入れからモップもってきちゃってたんだ。



返さなきゃ……っていうか早く仕事にもどらなきゃ!!





翔音くんからの謝罪にはちょっと驚いたけど、でも嬉しかったし、なんか気分も晴れてきたし。



うん、いつもどおりだ!!






「私のほうこそ、いきなり飛び出したりしてごめんね?」

「……ん」





よかった、これでみんなと仲直りかな。


喧嘩はしてないけど、雰囲気はいつもどおりにもどったみたいだし。





「じゃあ私はお店にもどるね、ずっと休んじゃってたからさ」




そういうと、朔名も愁さんも頷いてみんなで仕事に戻ろうとする。




「あ」

「え?」




翔音くんが小さく声を出したので何だと思って振り向く。





「その、“めいく”っていうやつは、もうしないの?」

「え?ああ……まあ私自分じゃできないし、すっぴんのほうが楽だし……」





後者のほうは一番の理由だ。

似合う似合わないの前に、まずはどうやって楽な道に進むかだよ。




「……そっか」

「?なんでそんなこと聞いたの?」














「それも可愛いと思ったから」







「「「……………」」」







何を言われたのかしばらくわからなかった。



でも時間がたつにつれてだんだんわかってきて、それと同時に顔に熱が帯びていくのがわかった。






「なっ、な………なあ……っ」

「?顔赤い」





私はさっきとは違う意味で手をぐぐーっと握りしめた。


そりゃあもうモップを折る勢いで。




そして最高に顔が熱くなってしまったとき、


「うわあああぁぁもう馬鹿あああやっぱり天然タラシだああああ」



持っていたモップを朔名にぶん投げて私はまた飛び出した。





「えええちょっ、モップぅぅぅ!?」



朔名が驚いているがそんなことはどうでもよかった。





なんで、なんで翔音くんあんなこと言ったの!?



普段絶対言わない……というか可愛いなんて言葉知らないくせにぃぃぃ!!




おかしいよ、なんか今日変だよ!?




いや私も結構変だよ!!




心臓の音がバクバクいっててうるさい。


走ってるから……?



何なんだほんとにこのやろおおおお!!



33.何これ、どうしちゃったの?

(ねえ朔名、いったい翔音くんに何吹き込んだの?)
(あ、愁……いや、普通に日本語の勉強をだな……)
(すごいストレートな言葉だったね、芹菜ちゃん顔真っ赤だったよ)
(……まあ、結果的にいいんじゃね?)


((……またどっかいった))


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