極月 | ナノ


夏枯草が芽吹き、死に最も近いとされるこの季節は彼の帯電体をより過敏に感じられる。

ぴりりと決して厭とは思えない痛みが肌に刺さる。赤くなってる、少し咎めるような声に笑んで首を振ったら、はぐらかされたと思ったのか唇を僅かに引き結んだ。

「ハーバー君だって息白い」
「きみとぼくとじゃ何かと違う」

自分を棚に上げて人の心配ばかりするのだから、悪戯交じりにサングラスに触れても微塵も動揺する気配はない。一体なにをそんなに信頼されてるというのか逆に此方が困ってしまう。普段はそんな様子は一切見せない癖して、否応無し望めばどこまでも許すのだろう。わたしは成るべく不自然にならないように、寒さと緊張から冷えた指先で壊れ物を包むかの如くそれを外す。彼の双眸が晒される。揺るぎようの無い眼差し、いとしい目だ。きっと抑えきれなかっただろう緩む口元に、ハーバー君が呆れたように目を細めた。サングラスを取るのに両手を使ってしまったからわたしはもう何も出来ない。何も要らない。なんて幸いなことか。

彼がまるでさっきのわたしを真似るみたいに手を伸ばす。

「この甘えたがり」

わたしはサングラスも眼鏡もかけてないのでそのまま目尻に触れてこめかみを辿る。
繊細とばかり思っていた硬めの指の皮膚と、その下の熱から甘い痺れが滲んでいく。
心地の良さに世界を閉ざした。


101220

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