西谷 | ナノ


これの西谷視点


足が石になったようだ。常なら施錠された筈の部室の灯りに引き寄せられて、何気なくドアの隙間から覗いた光景が頭から離れない。思い詰めたように眉を寄せて震えながら細い手を伸ばす。見たこともない表情で俺のタオルを抱きしめる姿に頭の中で何かが砕けた。酔ったみたいに顔中に熱が集まって目眩に襲われる。彼女の劣情を初めて目の当たりにして頭の中が真っ白になった。薄く張った氷が割れたような、触れてはいけない繊細なものを壊した気分だった。
「西谷くん」
案の定、先輩はすぐに我に返ったようで俺の顔を見るなり真っ青になる。いっそ逃げてくれたら俺も忘れることができたかもしれないものを、言い訳も抵抗も無く呼び出しに応じた。だから止められない、どうしようもない。彼女は見ていて痛々しいほど身体を震わせて頭を下げた。泣きながら俺の名前を唱える彼女にガンガン加虐的な部分を揺さぶられる。背筋から得体の知れないものが湧き上がり、どう抑えればいいのかわからない。
「それで許します、タオルくらい欲しいならあげます、だから」
だから貰ってもいいだろう、折れそうなほど脆い身体を拘束しながら言い聞かせる。柔くて繊細で、この手を離せば崩れるんじゃないかと思うとたまらなかった。脳みそを洗濯機で回されたみたいなイメージがぐるぐる頭を巡る。
「西谷くん」
「はい」
「好きです」
「はい」
馬鹿みたいに頷くしかできない自分が情けない。消え入りそうな声は俺を信じられないくらい満たしていく。先輩らしい控えめな嗚咽を聞きながら彼女の髪に顔を寄せた。


130301

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