西谷 | ナノ


授業終了のチャイムで目が覚めた。日差しの強さに窓を睨むとタイミングよく彼女の姿を見つける。体育が終わった後らしくダボついたジャージがより彼女の頼り無さを示しているようだった。こっちを向けと念じてたら本当に目が合って、心臓がおかしな音を立てる。
「夕くん」
好意を隠そうともせず笑って手を振る。柔らかな声に裏側から心臓をくすぐられたような感覚が襲う。思考より先に窓を開け放つと滑り込んできた風が机の上のプリントを攫っていく。見開かれた眼を捉えたまま、構わず窓枠に足をかけて飛び降りる。冷め切った空気と周囲の雑音の中なんなく着地すれば息苦しさからやっと自由になれた気がした。心配そうに駆け寄る彼女の可愛さに真正面から抱きしめる。勢いをつけすぎてそのまま倒れそうになるのを必死に堪える姿に更に機嫌が良くなる。
「あーっ腹減って死ぬ!メシ行こうぜメシ!」
「こ、こら!窓からなんて危ないこと…」
「こんくらい全然危なくねーし、余裕だし」
「もう、ピースして威張ることじゃないよ」
唇を尖らせてあまりに無防備に言うものだから今すぐむちゃくちゃにして食ってやろうかと思った。たかが二階から飛び降りた程度で俺が怪我などするわけがない。
「つーか、お前手ぇ冷たくね?体育サボってたのか?」
「授業寝てばっかの夕くんに言われたくないなぁ…ってきゃあ!」
「うらっ!あっためてやるから大人しくしてろ!」
「やめてやめて首は…あははははっ」
悲鳴のように笑い声をあげる彼女に周囲の目は映っていない。それとも彼女にしてみれば精々犬のじゃれあい程度にしか思っていないのか。ああ、けれど犬だったなら千切れるくらい尻尾を振って大サービスするんだろうな。危機感の無さに苛立つよりも心地よさに甘えてるのだから確かに犬コロだ。
「…夕くんの手はあったかいね」
慕情のあらん限り吠えるしか脳のない俺を優しさだけで受け入れるなら、俺はまた原動力を得る。


130225

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -