西谷 | ナノ


テスト期間中、人気の無くなった教室の行儀よく整えられた机の列をすり抜ける。外は風が強く、頻りに窓を叩く。嵐の様だと言われた彼は机に突っ伏していた。
「西谷くん」
あくまで顔を伏せたまま小さく痙攣したのが分かる。彼はこんな時でも嘘がつけない。今日の出来がそんなに悪かったのか、それとも帰って勉強するのが嫌なのか。浮き沈みの激しい西谷くんだから、来週の今頃は無かったように元気になっているだろう。けれど、クラスメイトにつっつかれても机にへばりつく理由があるのかもしれない。
「西谷くん、帰ろう?」
「やだ」
「外、降ってきちゃうよ」
「帰りたく、ねえ」
ごろんと固い机の上で窓際に顔を背けてしまった。気づかれないように溜息を吐くとコンコンと何かを叩く音、見れば顔を覆っていた彼の指が落書きだらけの机を叩いていた。
その音が微妙にリズムをとっていて笑いそうになる。西谷くんは爪が短いので突き指をしたら大変だと躊躇いがちに手を伸ばす。
「あっ」
その手を掴まれた。ささくれと豆で固く凸凹があって、大きさなど感じないくらい力強い。彼は窓の外を見ている。
「に、西谷くん」
「さっき話してたの誰だよ」
「さっき?」
「…物理終わった後の休み時間」
私のトロい頭はすぐに働かず、突然の言葉に慌てて記憶を探る。
「委員会の後藤くん?」
「だから、ドコの馬の骨の委員会の後藤クンだっての!ふざけんなよ!」
西谷くんは派手な音を立てて席を立つと、悲鳴を上げそこねた私を抱きしめた。その後ろで一歩遅れて椅子が転倒する。背凭れが後ろの机にぶつかって横に倒れた。首に回された体温に私は棒立ちになるしかない。間に机を挟んでいる為、触れているのは上半身だけだけど、それでも十分だった。
「なんだよ部活できねーしテストだしお前ナンパされてるしくっそくっそ」みたいな呟きが聞こえるけど、丁度耳の後ろからするワックスの匂いにドキドキしてそれどころではない。
「あの、早く帰ろう?」
「おっまえ話逸らすなよ、人の気も知らねーで…」
「いたっ、痛い痛いよ!」
犬猫の毛並みにするみたいに髪をくしゃくしゃに混ぜ返された。そうして間抜けな姿を見てやっと西谷くんは少しだけ笑う。「ごめんね」と言いたくなって、でも謝るのはもっと恥ずかしい事な気がして彼の赤く染まった耳に小さく笑い返した。
「おいこら何笑ってんだ」
額がくっつきそうな距離で気の強い大きなつり目に睨まれる。瞳の中のいつだってキラキラしたものに見蕩れた。
「だって西谷くんが格好いいから」
「…お前実は俺のこと舐めてるよな」
呆れたのか照れ隠しか眉間に皺を寄せて、ペチペチと私の緩んだ頬を数度叩く。最後に仕上げのように短いキスが落ちた。


130225

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テーマ「人外ファンタジー」
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