キャスパー | ナノ


見下ろされ、彼の白銀の髪の先から落ちる水滴が頬を濡らす。子供みたいに録に乾かさずいたのだろう。肩にかかったタオルで水分を拭えば、爪先立ちになって腕を動かす私に口元を綻ばせベッドの端に座った。彼にポンポンと隣を叩かれ、呆れ混じりに膝立ちでベッドに乗り上がる。
「キャスパーさん、白いカラスって知ってますか?」
「アルビノのことかい?」
目を伏せて大人しく身を委ねる彼は普段より幼い印象を受ける。目上の男性であることは変わりないが、それでも彼にも幼少期はあったのだ。さぞ愛々しい容姿だったのだろう。
「貴方の髪は白い濡れ羽みたいですね」
キャスパーさんのラピスラズリの瞳が丸く見開く。作り物めいた蒼光が崩れて喜色に揺れた。
「あ、今笑いましたね」
言った此方が恥ずかしくなって睨む。いつだったか写真で見た美しいカラスを思い出しただけなのに。
「ごめんごめん、随分可愛らしい喩えだと思ってさ」
そう笑って私の肩に顎を乗せて雪崩かかる。湿った銀髪が首筋を擽ぐる度にシャンプーの香りが強まった。このまま眠りそうな素振りに背を叩いて成るべくやんわり指摘する。
「寝るんでしたらドライヤーでちゃんと乾かさないと…」
静かに、と言いたげに彼は私の言葉を人差し指で遮って黙らせた。キャスパーさんはこういった芝居がかった仕草をとても綺麗に熟す。耳許でリップ音がしたかと思えば耳朶を軽く噛まれて飛び上がった。その拍子にバランスを崩して二人共々ベッドに倒れ込む。成人男性に伸し掛られ、変な呻き声を出せばそれがまた面白かったらしい。
「あーもう、遊ばないでください」
「いや、今更嬉しくなってしまってね」
「嬉しく?」
「本当に僕のものなんだなって」
酒が入っているわけでもないのにキャスパーさんは終始楽しげに笑う。
「はい、まあ…貴方だけですけど」
できるだけ平然を装って答えたのに血温を確かめるように身をすり寄せられ戸惑う。髪は冷たいのに湯を浴びたばかりの彼の体温は通常より熱く、より意識させられた。


130118

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