ココ部隊 | ナノ


手の内ようの無い敗北、テーブルに両手をついて頭を垂れる。麻雀やポーカーじゃ勝目ないのはわかりきっている。せめて花札ならまだ分もあるものの、トージョさんしか分かる人がいない。弧を描く彼女の唇が濃厚なアルコール臭を零す。彼女の吐息でマッチに火がつきそうなものだ。頬杖つき、赤く上気した顔で満足げに微笑み「じゃあ罰ゲームね」と告げる。
「ぶっちゃけ誰が好きなの?」
「はい?」
一瞬場の空気がざわついたような気がしたが、現在の生存者は私とココさんしか居ない。他のメンバーは彼女同様、否、それ以上のとんでもない量の酒を摂取した挙句、各自それぞれ酒癖や罰ゲームや飛び火で瀕死状態に陥っている。その為、本来殆ど酒類を口にしない私が駆り出され半強制的に彼女の相手をしていたのだ。当然の結果、負けてしまったが。酒が入っていようとプロレス技をかけようと裸になろうとココさんは聡い女性なのである。
「好きな異性ですか」と先程の彼女の台詞を反覆する。
「あの、私そういう話は苦手で…」
「だぁめ。罰ゲームなんだから言いなさい、他の連中に比べたら酒飲みでの告白なんてヌルイでしょ?」
そう言われれば反論に詰まる。一人シラフである己にとって小隊が壊滅するのではと目を背けたくなるほど悲惨な惨状と化していた。仲間の誰もが尊敬に値する人間だと思っているが、彼らのこういったハメを外したノリに未だ染まり切れないでいる。しかし無論見逃してくれる相手でもなく、此方の動揺を楽しむように笑う、特有の癖のある声で。
「ほら、酔い潰れたフリした野郎共も気になってるみたいだし?」
ココさんの向けた視線を辿れば屍達がピクピクと大袈裟に反応を示す。
正直、息があったという安堵よりゾンビとなるのではという不安の方が大きかった。
「いえ、本当に、私はまだまだ未熟で、自分のことで精一杯というか…」
「むう、じゃあ好みの相手でいいよ、強いて上げるならってヤツ」
「えええっ」
「あ、私やバルメってのは無しね、ヨナとマオはギリギリかなー」
逃げるように視線を泳がせるも救いの手は無い。寧ろ期待やれ同情やれの混じった視線を感じる。いつもなら酔ったココさんを止められるバルメさんはココさんの足元で…いや言うまい。因みにレームさんはココさんのリミッターが外れる一歩手前で席を外していた。
あのタイミングで一緒に自室に戻っていればと悔やんで止まない。
「うー……」
降り注ぐ視線と彼女の威圧的な笑みに背を押され唸りながらなんとか思案する。先刻思ったように彼らは皆素晴らしい人だ。能力も人格も学ぶ部分が沢山ある。彼らの為なら多分死ねる。彼らの同志であることは人生最大の幸福だ。けれどそれは私が仕事に生きる人間だからこその理由とも言える。戦いばかりの道を歩んできた己にとって、女性として人を選ぶのは全く違うものと思う。ふと堪えきれぬように正面の彼女が吹き出す。
「軽ーく答えちゃえばいいのに、真面目に悩んじゃうとことかホント可愛いよねえ」
同意を求めるように投げかければ再び屍が各々リアクションをとる。いっそゾンビでもいいから場を崩してくれればいいのに。
「大丈夫だいじょうぶ、誰も怒ったりしないから」
そういう問題じゃないってわかってる癖に、諭すように意地の悪いココさんにとうとう観念する。好きな異性、つまり結婚する相手だ、なら堅実な人の方がいいだろう。
思考に意識を沈ませたところ、はっと思い当たる節が浮かぶ。
「例えば…トロホブスキーさんのとこのボディガードさん、紳士的な方でした」
「……はっ?」
その声はココさんだけのものではなかった。派手な音を立ててルツさんが椅子から転げ落ち、眼鏡を斜めにかけたままのトージョさんが何故かカメラを落とし、ワイリさんと思わしき背中が震えながら笑い声を堪え、ココさんと同じく声を上げて飛び起きたアールさんの頭とウゴさんの顎が衝突事故を起こし、マオさんは次々と響く騒音の中不自然なほど身動きをせず、バルメさんは変わらず鼻血の海で寝言を唱え続けている。唯一ヨナ君だけが眠そうに瞼を擦りながら私に訊ねた。
「どういうこと?」
「ええと、私やヨナ君に対しても隔たりなく対等に接してくれるでしょう?愛煙家なのに会話するときは必ず煙草の火を消してくれるし」
それが異性の基準になるかは怪しいところだが、同僚から選抜するよりは気が楽だと感じた。悲鳴や破壊音の飛び交う中、ココさんが納得したようにケラケラ笑いながら何度も頷く。
「ふんふん、そうきたか。そういえば貴女ミルドのことも矢鱈と気にしてたっけ?」
「気づいてましたか…彼女は、私と似ているので」
「わかるよ、何が言いたいのか。けどタイプ全然違うのに面白いよねえ」
「……やっぱり良くないことですよね」
商売敵に感情移入ばかりするようでは仕事に支障を来す。己一人が傷を負うだけならまだしも、雇い主であるココさんにまで迷惑をかけては元も子もない。
「いや、お前らしい理由で安心したよ」
アールさんが後頭部をさすりながら俯いた私の肩に励ますように手を置いた。
「てめっ、アール!変わり身早すぎんだろ!」
「だはははは!ウゴ顎すげーことになってらぁ」
「はいはい皆ー、復活したんなら後片付けしろー」


130117

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