キャスパー | ナノ



想像よりも少し固い銀糸に指を通す。触れられ慣れているのか警戒の素振りは無い。私の指を追っていた眼が不意に止まる。まるで紙面を辿るような声で彼を呼ぶ少年が纏う雰囲気を変えた。
「ん、あれ、二人共いつの間に仲良くなったんだ?」
違和感はすぐに場に溶けるも少年の態度の不自然さに上司への返答を遅らせる。ヨナは真っ直ぐに彼を見返したが、「別に」と色のない言葉と共に顔の向きごと私へ逸した。目線が重なるとそこはかとなく言いたいことを察して飾り気なく笑い返す。
「またね」
頷いた少年は猫のようにその場を去った。ちら、と横目で伺えば顎に手を構えて少年の背中と私を交互に見て笑う上司の姿がある。溜息をつきそうになるのを堪えて彼の視線を受け止めた。狙ったように遠慮なく距離を詰められて間近の顔にたじろぐ。
「デートに誘うつもりが先約がいたとはね」
彼の含み笑いが頬を掠めた。同じく香水の匂いに鼻腔を刺激されて、あたかも迫られてるような図になっている。分かりました白状します、意味を込めてホールドアップのポーズで答えた。
「チキンオムライスを作ってあげたら非常に喜ばれまして」
「へえ。僕食べてないけど?」
真顔で言われて泣きたくなった。後ろめたいことなど無い筈なのに何故こんな苦い思いをしているのだろう。貴方になら何時でも作りますよ、なんて言えばいいのだろうか。とてもじゃないが恥ずかしすぎる。
「まだあるな」
だというのに彼はまだ追撃するつもりらしい、次は完全に疑問形では無くなった。よく知った眼差しが何を求めているのかわからず緩く首を振る。彼は均整のとれた顔を子供のように崩し、恭しく頭を下げてみせた。会釈程度の身体の傾けによって差し出すように眼前で銀髪が揺れる。先刻の少年が重なり漸く合点がいった。甚だ羞恥を通り越して恐れ多さが勝ったが、ここで引いてもらえないことは身に染みている。
「仕方ない人ですね」
右手で白銀の髪を撫でた。柔らかくは無いが指通りの良さに獣の背を撫でているような感覚にとらわれる。とかく美しく底知れない獣もいたものだ。甘えたような笑みと香水の匂いが深まって私を唆してくる。


130112

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -