アール | ナノ


この場にいるだけでくらくらする程アルコールの匂いが充満している。背を這う手に下心を感じて離れようとしたが拘束は緩まない。耳元で笑いを押し殺した息がかかり知らず身を竦ませた。
「おかえり」
吐息を含ませた低音に返す間も無く口唇を塞がれる。上質なワインの味が口内に広がり、舌は毒を食らったように痺れる。胸を押し返して訴えれば存外容易く解放された。自身の腕一本分の距離に動悸は早くなる一方で、とても顔など見れない。
「ま、待って」
「無理だ、悪い」
あっという間に抱き上げられてベッドの上まで運ばれる。柔らかくも冷えたシーツを背に、天井は覆い被さった男に遮られて目線が泳ぐ。この瞬間いっそ隕石でも降ってくれば逃げられるのに。熱を滲ませた声に名を呼ばれて尻込みしそうになる。
「寂しいですか?」
恐ろしく思うのは大事だからこそだ。通わせた視線を受け止めれば、僅かばかり表情が硬直したのが分かってしまう。見られたくないものだったかもしれない、彼は黙したまま自嘲混じりに額を触れ合わせた。優しくありたいと思うのはいつも彼が傍にいるときだ。此方の不安を解そうと何度も髪を撫でてくる彼の手に瞼を下ろす。それを合図と取って口唇が深く重なった。


130110

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