キャスパー | ナノ


他人の都合に振り回されるのも、人生を酒の肴にされるのもいい加減慣れた。しかしどうだろう、これはまるで愛人ではないか、鈍い頭ながらも目を逸らし続けた事実をとうとう零してしまう。
「ならいっそ結婚しないか?」
言葉通りに呆けて男を見つめる。店内を囲う甘酸っぱい調味料の匂いが相乗して場を更にシュールにしていた。それでも彼の返答を予想できなかったわけでもなく、ただ失言を恥じる。
「そんなことハンバーガーかぶりつきながら言われたら世の女性は嘆きます」
「しかし君は別だろう?」
理解が遅れて反応が返せなかったが投げかけても説明はしてくれないだろう。
「ならば問題無い。僕はこれでも誰よりも君の理解者だと自負している」
「えっ」
「いや、そこで驚かれても困るんだけどな」
態とらしく眉尻を下げたり唇を尖らせられても苦い表情を返すくらいしかできない。下手に何か口に含めば彼の言葉に吐き出してしまうのではと危惧して、私の食事の手はとっくに止まっていた。(といっても、さっき自分の分のバーガーを正面の男に譲ったので手元にあるのはアイスティーのみである。)当人はそんな私を他所に此方から視線を外さないまま口元についたケチャップを自身の舌でペロリと舐めとる。安直に舌なめずりと捉えてしまい背筋が凍る。玩具を前にしたような輝いた瞳というならまだ可愛いものだ。味わい尽くし嚥下し骨まで喰らう気満々なのだから、もう渡せるものなど無いというのに。
「君だって僕が好きだろう?」
「嫌いだったら関わりせんよ」
「うん」
無邪気そうに頷いてまるで本当に嬉しそうに笑う。零れ落ちるように相好を崩すのが可愛くて暫し見蕩れた。
「しようか、結婚」
「……しません」
言い終える前に席を立たれたので今度こそしっかり驚く。まさか本当に愚痴を聴きに来ただけなのだろうか。
「だと思った。まあ覚悟ができたらおいで」
言うが早いか咄嗟に腰を上げた私の肩を掴んでキスをした。フラれた仕返しだったことにラピスラズリに似た目を見て気づく。


130110

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