ルツ | ナノ


何度も呼ばれた気がして名前を呼び返す、見下ろす瞳がきゅっと釣り上がった。
「んの馬っ鹿野郎!」
「いたっ」
デコピンを食らった額を抑える。指の隙間越しに苛立ちを隠そうとしないルツの顔を確認して僅かに安堵した。意識が浮遊していて四肢の感覚がいまいち鈍い。目線を巡らせれば用意された自室のソファの上らしかった。
「ルツ、膝かたい」
「おまえ我が儘言うな落とすぞ」
「いたたたたっ」
水気を吸った髪をくしゃくしゃに撫ぜられて肌に冷たく当たる。そういえばシャワーを浴びている最中に貧血になったのだった。なぜ膝枕をされているのか分からないが、彼はついていてくれたということだろう。
「ごめんなさい」
「別に、謝んな」
矛盾した気の使い方がおかしくて、心地よさに瞼を閉ざす。その上から更に暗闇を上乗せされたのが彼の手だと見知った匂いでわかった。
「膝濡らしちゃった、冷たいよね」
「そんなこたーいい。自分の心配してろ」
「もう大丈夫」
「嘘つくなっての」
そんなに、と何かを言いかけて半端に止まる。居心地悪そうに目を逸らす様子が隠された視界で浮かぶ。気になって置かれた手を剥がそうとするも退けてくれない。
「心配させんなよ」
大袈裟な、そう言い捨ててしまうのは惜しく、同時に妙に照れ臭くなってきた。
「な、泣いてる?」
「アホか!!」
どつかれるかと身構えたが、何故か上体を倒して抱き込まれる。
「もーなんなんだよおまえ」
無理やり胃に押し込めたものを悔やむような、くぐもった声が肩を掠めた。突然ブッ倒れたのは想像した以上に驚かせてしまったのかもしれない。好意しか感じない触れ方に獅子のような金髪を撫でながら罪悪感がチクチク刺さった。


130109

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