ヨナ | ナノ


どこか感情を欠如した声が私を呼ぶ。最初はレームさんがからかい交じりに付けたそれがいつの間にか彼からもそう呼ばれるようになっていた。目線を辿れば真っ直ぐ見つめてくる大きな紅い宝玉に、大人らしく見えるように笑みを作って返す。
「大丈夫」
彼はとても良い教え子だと言ってトージョさんに避難を浴びたのを思い出す。実質私から見たヨナ君はそうとしか見えないのだから仕方ない。真面目で飲み込みもいい、立派な生徒そのものだった。
「そうじゃない」
「あれ?」
「話がもっと聴きたいだけ」
「それは、」
勤勉と言うのではないだろうか。理系の授業ではそうはいかないらしいけれど。それでも彼らはデスクワーク以外でも教えてあげられる事があるのだからいいだろう。私には恐らく勉強くらいしかできない、だからこその「先生」なのだ。
「私にできることなら力になるよ」
「……」
返答と共に彼のペンが止まる。なぜだか落胆したような表情をされてしまった。不正解、何もわかってない、そう言っている目線だ。
「僕は良い教え子なんかじゃない」
ぎこちなく首を傾げる私に彼の視線が一瞬彷徨う。雪原のように白い睫毛が影をつくり、目を奪われる間もなく私を射抜く。
「ただ声をもっと聴いていたいだけなんだ」
ヨナ君は吸収が早いからすぐに私など要らなくなるだろう。それまではせめて強い大人のフリをしていたい。そう思っていた。
「好きなんだ」
今度こそ大人の仮面など剥がされ、逃げ場を失う。私は彼を甘く見ていた。


130107

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テーマ「人外ファンタジー」
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