ふくいん | ナノ


確かに夏は服を着て寝るのが鬱陶しく思うことも多い。私もクーラーつけて品無く下着で寝るのも珍しくない。かといって人の家で全裸になって寝るのをを受け入れられないのは、私がかたいだけなのだろうか。
(予想してたのに手をうたなかった私が馬鹿なのか…)
目覚まし時計は彼の手で勝手に切られてしまい、おかげで私はいつもより4分寝過した。隙あらばベッドに引きずり込もうとするエクゾディアみたいな腕を引き剥がして起きる。学生には最後の休みでも、社会人は夏だろうと冬だろうと御勤めがある。手早く朝の支度を済ませて、この時点で時間に余裕ないんだけどもう一度寝室に戻った。遠慮なくベッドを占領する大男をみて小さく笑う。彼の分の朝食を低いテーブルに置いてあげると拗ねた背中がぐるりと振り返って腰に抱きついてきた。裸の上半身が密着して、こちらはスーツ越しだというのに熱くて仕方が無い。
「大輝君」
「目痛ぇっつの、電気消せ」
「わかった、離して、遅刻する」
「まだいいだろ」
拗ねた眼と共に腰から這い上がってくる手の平。口でいいながら、本気で止めようとすれば手段などいくらでもあるだろうにそれをしない。というか、今はまだ半分寝てるようにも見える。宿題はちゃんと終わったのかな、かっこつけてたのか知らないけれど教えてくれなかった。
「帰ってきてからちゃんとお祝いさせてよ」
「アタシト仕事ドッチ大事ナノヨ」
「ちょ、その声やめ…ぶっ」
堪え切れずに噴き出すと大輝君も人のお腹に顔を押し付けて喉を鳴らした。横目に時計を探すもベッドに落ちてひっくり返されて針が見えない。思ったよりもやわっこい青みがかった髪をくしゃくしゃ撫でる。
「十年早いよガキ」
自分で恥ずかしくなるくらい甘い声がでた。安い挑発にご愛敬とばかりに襟首を強く引っ張られて、バランスを崩した隙を逃さずキスされた。強く押し付けられたと思えば存外すぐに離れる熱に気を抜いたのもつかの間、耳の裏をべろっと舐められて飛びあがる。ああ汗かいてたのかと納得する前に今度は耳朶を噛まれてさすがに抵抗する。
「なにしてんの!」
「あー…いってらっしゃいのキス?」
酷いお見送りだこと。
「いただきますのキスの間違いじゃないの」
「は?足んねーし…っつかまさか今ので終わりとか思ってねーよな」
「終わりだよ!」
いってすぐ頭突きをかました。彼の肩がビクっと跳ねるのがちょっとかわいいとか思ってる暇もない。覚悟した以上の痛みが私にも伴ったが、不意をついて抜け出すことに成功。そのままドアまで駈ける。背中に向けて笑いを含んだ声が聞こえた。「帰ったらヤんぞ、覚悟しとけよ」過剰な音を立ててドアを閉めて、口を手で覆う。うまく息ができなくて死んでしまいそうだ。

ふくいん/120831青峰誕

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