肝試し4 | ナノ


赤司君は今回の件に最初から絡んでいたけれど、当日になって突然来れなくなったのだった。
「そのことも含めて妨害が入ってるんでしょうね」
現に今日何度連絡を取ろうとしても赤司君にだけは繋がらないらしい。
「僕としては君に期待してたんですが…」
「私?なんで」
「夢で逢っていると聞いたので」
「あれは赤司君の力だから…私から逢いにいったりできないよ」
「そうなんですか?」
意外そうに目を瞬かせる。黒子君の認識の中のわたしってどうなってるの。私はただのJKだよ。
「ともかく如何にか赤司君とコンタクトを取りましょう。彼さえ到着すれば3分でカタがつきます」
「……だね」
彼の規格外っぷりにはもはやツッコむ気も起きない。ヴヴヴと不意に彼の携帯が唸る。名前を確認して手早く黒君が出る。
「黒子です、緑間君ですか?」
一瞬でワゴンの中に緊張の糸が張るも、「はい」とか「それで様子は」とか何事かやり取りをしていくうちに、電話を取った黒子君の表情がだんだん和らいでいく。
「わかりました、くれぐれもお気をつけて」
身を固くするこちらを見やって微笑みながら電話を切る。
「緑間君が黄瀬君見つけたみたいです、青峰君と紫原君も近場にいるそうなので合流して戻ってきます」
「黄瀬君無事なんだね…?」
「軽く呪われてるようですが緑間君がついてるので大丈夫でしょう」
「ア、アバウトー!でも良かったー…!」
これで見つけたのが青峰君だったら間違いなく二次災害が起こっていた気がする。否、そんなことをいっていられる状況でもなかったけれど、ともかく良かった。この手に関しても優秀な緑間君がいち早く対処してくれたのは不幸中の幸いだ。
身体の力を抜いたとき、何故か冷たい風を感じた。一歩遅れて鳥肌がぶわあっと感染する。それは黒子君も同様だったらしく凍りついた一瞬の空気に携帯が火花を散らす。
「く……っ!?」
「黒子君出よう!」
声を張り上げたのを合図にフロントガラスに無数の手がへばりついて叩いてきた。ベタベタベタベタガラスを埋めるそれがすぐに荒々しいものに変わる。窓を叩き割らんばかりの大きなそれに車体全体が揺さぶられる。嫌な音が響いて車内の明かりが消えると同時に二人して体当たりするように飛び出した。受け身なんて取れずに車道に転がった私を黒子君が抱き起こそうとして停止する。
「動かないで」
苦々しく唇を噛みしめてそれだけ吐くと庇うように私の上に覆いかぶさる。私は何も言えなかった、何も動かなかった。ワゴン車のまわりに取り巻いていたそれは森林に紛れていたものと同じだった。暗く重く個々の声は拾いきれないほど重なりあって大きな唸り声をあげている、恐らく黒子君の目にも映っているだろう抽象絵画が飛び出しような者達と直面する。背中にあたる鼓動を頼りに意識を繋ぎとめるのでやっとだ。彼には悪いけれど私一人だったら多分失神していたと思う。
ズルズルともゾロゾロとも表し難い集合体が此方を向く。笑っているとも泣いているとも判別のできないけれど間違いなく私たちを標的と見做していた。息が、とまる。そしてそれは動いた。とてつもない速さと膨大な質量を持って襲いかかってくる。

シャキン

なにか、糸でも切った音。
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア聞こえたのは悲鳴。喉ではなく執念からの叫び。何かが焼ける音と強烈な悪臭に固く閉ざした目を開く。私と黒子君を背に立ちはだかり、隠しようのない存在感ととも赤司君はいた。美しい髪と真っ直ぐな背中。手には大きな挟みを持って。
「「……!!」」
その形状に私と黒子君は旋律する。文房具用のシンプルな形じゃない。赤司君は庭師さんが使うような凶悪に鋭い三日月型の刃を持っていた。
「僕をハネにして随分お楽しみじゃないか」
シャキンシャキンと獲物を鳴らす赤司君の背後で黒い唸りが霧散していく。3分なんてものじゃない、間違いなく本日一番の恐怖だった。


120826/六話了

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