帰り道 | ナノ


きっかけは中学の頃、帰宅途中だった。なんの間違いかクラス委員だった所為で下校時間が遅くなり、夏だというのに日がすっかり暮れてしまっていた。ヘッドホンのコードが何故か鞄から絡まって如何しても解けなかった為、いつもの曲を聴かずに歩く。思えば最初から、この静寂に違和感を感じていた。いくら人気がない時間帯といってもこの数百メートル誰ともすれ違わない。そもそもこの時期に虫の鳴き声すら聴こえないというもがおかしい。
気づかないふりをしてる私を嘲笑うように這い上がってくる。覚えのあるけれどあの頃とは違う感覚。小さい頃は寝てるときよく金縛りにあったり、遊んでいた玩具が勝手に動いたりといった体験も珍しくなかった。年を重ねるにつれ、それが異常であると気づき意識的に避けるようになったけれど。
「……っ!?」
カンカンカンと突然鳴り響いた踏切の音に身体が跳ね上がる。通り過ぎようとした踏切が突然鳴り出した。響いて震えて、足が縫いつけられたように動かなくて、電車はまだ来ない。私はコードのから待ったままのヘッドホンをつける。大好きな曲は始まらなくとも耳を塞ぎたかった。私の呼吸と比例するように、踏切の音がどんどん速く短くなっていく。両手でヘッドホンをおさえつけながら、目を閉じてその場に蹲る。
(だめだ、もう耐えられない)
次の瞬間全てが無音になり、突然強風に襲われた。私以外の沢山の悲鳴がすごい勢いで身体を突き抜けていく。

「今日は仕事を任せてしまってすまなかったね」

空気を一転させる存在感の声に私は目を開けた。同じ委員のクラスメイトが此方へ手を差し伸べている。目が覚めるような赤髪。
「有能でたすかるよ、無事に片付いたようで何よりだ」
この場において『無事』と『良かった』が何を指すのか。少なくとも私の身を案じた言葉ではなく、仕事が無事に終わったことへ対するものということだけは理解できた。
同じクラス委員こと、赤司君は差し伸べられた手を茫然とみつめる私に構わずその手で私の腕を掴み、その細身から想像し難い力で引き上げる。
「って、え?」
あんなに引っ張っても取れなかったヘッドホンのコードが容易くほどけた。踏切は既に止み、騒がしいほどの虫の鳴き声がかえってきている。
その後家まで送ってくれると言った赤司君の申し出を可能な限り自然に断って駅へ向かう。とにかくこの場から逃げたかったのと、彼に対しても得たいの知れないものを感じていて、正直にいえば恐くて。結果的に助けてもらっということになるけれど、彼はただ通りすがっただけというようにしか見れなかった。学校で会ったときと変わらない筈なのに、目の前の彼は人間離れしすぎている。追及するどころかお礼の一言も言えないまま、
「また学校で」
そう言って笑う彼に頷くので精一杯だった。そして哀しくもこの日を境に怪異と呼ばれるものに巻き込まれていくのだということも。

120824/一話了

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