ふつう風邪 | ナノ


何を今更と思いつつ滲んだ汗を恥ずかしがるように眉を下げた。寝返りをうった際、頬にべとりと張り付いた髪を払ってやる。彼女の声は掠れるどころか音にもならないまま、唇の動きだけでおれを呼ぶ。ハンスの人魚みたいに。零しそうなくらい潤んだ目に引き寄せられるままキスをした。口が小さくて上手く舌が入らない。擽るみたいに歯列辿った隙をついて角度を変えて深く挿し込む。薄く目を開くと強く閉ざした瞼と震える睫毛が映った。短い呼吸の間に漏れる声に首の後ろ?裏?側が炭酸水みたくぞわぞわしたものが這い上がる。舌を絡めてじゅる、と音を立てて唾液を啜った。柔らかい咥内を好き勝手荒らしたいのを抑えて唇を離す。
「…うつしちゃう」
顔を上気させた彼女が咎めるように零す。そもそも抵抗された覚えも無い、声を出すのも辛いだろうにわざわざそんなことを。
「そんなヤワじゃねえよ」
寧ろもらえるもんならもらってやる気だったけど口にしたら余計機嫌を損ねるんだろう。学生の一人暮らし、しかも部活持ちというおれの立場を彼女は普段から心底案じていた。本気で心配しているのだと解かるが、その母親に似た加護欲はどうにかならないものか。
「せめて今くらい頼れって。お前のがずっと危なっかしくて見てらんねえよ」
目を見開く。意外そうな反応にイラついて、ついでに気恥ずかしい。いつも要らないところばかり突いてくる癖にどうしてこうも鈍いのか。
「おれはお前にお守りして欲しくて居るわけじゃねえんだから」
熱が上がったとしか思えないくらい顔を真っ赤にさせるから、こっちまで釣られてしまった。いじめてくれと言わんばかりに手で顔を隠すのがやけに可愛かったけど今は耐えとく。無茶するときは周りを巻き込んでいいって偉そうに言ったのはお前だろう。

ふつう風邪/120820

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テーマ「人外ファンタジー」
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