真っ暗森 | ナノ


虫を呼んでる錆びだらけの外灯に照らされた自分の影が視界をチラつく度に不安定になっていく。今にも叫び逃げ出したい衝動を何度も堪えて混乱に呑まれないように耳を塞ぐ代わりに携帯を握り締める。「すぐに行く」とそれだけ最後に交わした一文を一心見つめて、気づかないように考えないように自分に嘘をつけばそれだけどんどん膨らんで隠し通せなくなる。しゃがみこんだままどれくらい時間が経ったかわからないけど、その姿を視界に入れた瞬間、緊張の糸がとうとう切れた。
「た、大我く…!」
覚束ない足取りで、伸ばした腕ごと引き上げるように抱きしめられる。名前を呼んで、まもるように強く回された手が頭を撫でるのを合図に息を吐いた。見知った匂いに自然と涙腺が緩む。純朴でどこまでも優しい体温に全身から力が抜けていく。
「怪我は、」
「大丈夫」
「っかやろ…心配させんな」
「ごめん」
彼の黒いシャツに涙声ごと押し付ける。彼の首筋に沢山の汗がみえて、いつもの指輪を下げたチェーンが汗できらきら光っていた。私のそれをかき消すくらい騒がしい心臓の音に信じられないほど安心した。それは恐らく向こうも同じで、静かになっていく息遣いとか段々柔らかくなっていく声色から汲み取れた。
「来てくれてありがとう」
「呼んだのはお前だろーが。何弱気になってんだよ」
「こわかったよ」
「…おれも」
そっか大我君もか、良かった。普段の彼からしたらとても抑えられた、掠れた声に強くしがみついたら当然のように抱き返してくれた。慣れない仕草で今更遠慮と気遣い交じりに背中を擦る手にようやく身体を離す。夕焼けの色の目は心無しか水気が多くていつも以上に眩しくてちょっと笑った。

真っ暗森/120815

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