腕と首 | ナノ



鏡にその巨体が映ったかと思えば後ろから肩に額をぐりぐり押し付ける。猫がじゃれてるなんて可愛い表現ではとても済まない。どうせ連想するなら怪獣がビルを咥えるような、などと思ったら本当に噛みつかれた。なんて男だ。アメリカンマスタードのような痛みが広がる。
「やめたら?」
鼻先を首筋に擦りつけられながら、ゆるく首を振って独り言を返す。
「ダメ」
「やめろよ」
軽いようでいて低くて重い、素敵な声だった。こつんと紫頭に頭を傾ける。毒そのもののような色の髪が視界にちらついて溜息を吐く。四角い鏡に映る二人は窮屈に閉じ込められているようにみえた。
「まだダメ」
「あんたがそこまですることねーじゃん」
彼がここまでいうくらいだから、鏡の私は余程酷い貌なんだろう。今はあちこちモザイクばかりでわからないけれど。お腹に回された大きな手が無遠慮にべたべた触れる。何かを探るような、かえるところを求めるような。このお腹をかっ捌いたって大好きなお菓子がでてくるわけでもないのに。幼子にするように軽く撫でてその片手を大事にとる。重くて温かい。手の平は特に熱い。それを繋いだドクドクと血の流れる間接にキスをした。
「ばーか」
そういって私の頬を引っ張る彼の表情がみれないのが今は惜しい。


Arm und Nacken die Begierde,(120810)
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