額 | ナノ


「何をしている」そう制されて漸く我に返る。この音をずっと保存しておきたいと思えるくらい良い声だった。彼の部位で3番目にこの声が好きだ。銀の蝶番から名残惜しく指を離す。お高そうな眼鏡の蝶番。知りたくないけど本当はいくらするんだろうコレ、恐っ。ピリピリと切れそうなほど鋭利になっていく空気と裏腹に心情はだんだん穏やかになっていく。律儀にこちらの返答を待ってる生真面目さに笑ってしまいそうになった。
「駄目?」
私が柔らかく訊けばそれだけ眉間の皺が深くなったように思う。というか私が楽しんでるのに気づいていて気に食わないんだろう。レンズ越しといえど整った顔立ちは凄めばそれだけ迫力が増す。しかし睫毛長い。なにこれ。どこかで睫毛が長い男性は実は珍しくないみたいなことを言っていた気がするけど彼は規格外だろう。彼は大抵の基準からも規格外だけど彼の基準からすれば私が規格外らしい。
「鼻持ちならないのだよ。如何してお前はそう単線思考しか持てないんだ」
触れてはいないものの貌のすぐ横にある私の手を煩わしそうに跳ね除ける。かと思いきや手首を掴まれた。ざらついてところどころ凸凹したテーピングの感触。
「何がおかしい」
「違うよ、嬉しくて」
「はぐらかすな、それが悪趣味だと言ってるのだよ」
爪先立ちになっても届かないのは承知の上。自由を許されたもう片手で襟元を引っ張る。
「嘘つき」
ボトルグリーンの前髪に潜らせるように額にキスをした。

Freundschaft auf die offne Stirn,(120804)
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