手 | ナノ


「手を繋いでもらえますか」
振り向いても表情は見えなかった。貌を机に伏せたまま、色素が薄い綺麗な短髪が目の前に脱力的に投げ出されて。前髪があとで癖がついてしまうんじゃないかと要らぬ心配をするほど。一瞬寝言か聞き間違いかと疑うも、右の手の平だけが此方に向けられている。
「………」
だんだんと力を無くして引っ込もうとする彼の手を反射的に握っていた。と、予想よりずっと強い力で握り返されて吃驚する。スッポン、はちょっと違うか。つまり、彼の唯一の救難信号。
「大丈夫、テツヤ君、大丈夫だよ」
幽霊みたいに儚げな彼が消えないように根拠の無い答えをおくった。彼は力が抜けたようにほんの少し貌を上げて、くしゃくしゃになった前髪の隙間から潤んだ眼で見上げてくる。私は堪え切れず彼の机に身を乗り出してその眼を見つめる。
彼は珍しく少し照れたように口を引き結び、気だるげに少し眼を細めて、睫毛の影ができる。まるで雪みたいな睫毛だとおもった。突然握った手ごと強引に引いて、バランスを崩す私に構わず彼はこの手に口付ける。あ、これは誓いだ。
「信じてください」


Auf die Hande kust die Achtung, (120803)
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テーマ「人外ファンタジー」
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