氷室の場合 | ナノ


よりにもよって何故今日気がついたのだろう、あと二日忘れたままでいたら間違いなく流してしまえたものを。ただの平日であったのに思い出してしまった。我知らず習慣づいてしまったのだろうか。或いは自らそう願っているからだとしたらままならない。昔はかわいかったのにと年寄り臭く思い出に浸るのはまだ早すぎる。仕方がない、一度気づいてしまったものは気づく前に戻ることはできない。ここであえて知らなかったふりを通すのも却って幼稚に思えて、弛緩した動作で携帯をとった。

久方ぶりに耳にした声は動揺が滲んでいて、その癖変に格好つけて素知らぬ振りをしようとしてるのが滑稽だった。お前は電波越しでも嘘がつけないんだな。そういう素直なところが変わってなくて、安堵なんだか落胆なんだか消化できないものが疼きかける。同時に意外だったのは奴にしては少し殊勝すぎることか、もっと明らかに棘を向けられるものだと思っていたが身誤ったらしい。心境の変化か単に舐められてるのか、探り入れすらくだらない。
『ん、理由?なんだやっぱり忘れてたのか』
携帯越し、僅かに笑った気配に気づいただろうか。
『おまえ、明日誕生日だろ』

(120801)
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -