黒子の場合 | ナノ


彼の眼には魔力がある。どこにでも居るけれどどこにも居ない、自らを影と示す彼の唯一唯一熱く深く研ぎ澄まされた双眸。不思議な輝きを放つそれを少しだけ上から向けられて、私も例に洩れず魔法にかかる。
「本当にラブラブなんですね」
幼さを残す声音と裏腹に恐ろしいまでに安定感のある大人びた声色が落ちる。私はすぐに返答できなくてポカンと隣に立つ黒子君をみつめた。この信号だけ赤が30分くらい続いてるんじゃないかと疑うほど、やけに時間が長く感じた。
「…そうだといいんだけど」
「はい。そうやって悩んでることが証拠だとおもいます」
そもそも当初は相談するつもりは無かったのだけど。気がつけばフラリ、アロエに相談するような妙な感覚で、けれど必然のように彼と肩を並べている。中学時代からの付き合いの筈が、まるで今日知り合ったようにも錯覚した。だけど綺麗で直通な姿勢とか、夕日に透ける色素の薄い短髪とか、ふとした時に蘇る。こんなにも魅せられる。
「だから、そのまま言えばいいんじゃないですか」
彼はわたしに届かない彼を最も知っていて、羨ましいと思わないわけがないけれど。(否、それはきっと強がりだ)信号が青に交代する。
「僕だったら、それが一番嬉しい」

(120729)




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テーマ「人外ファンタジー」
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