黄瀬の場合 | ナノ



「ねえ、黄瀬君はファンの子からもらって嬉しいプレゼントって何?」
細いストローの口を細い指先で弄りながら固くなるのを騙せ切れない声で零れたら危うく誤解しそうになる。実際彼女が男持ちだと知らなければ喜んで馬鹿な男になっていただろう自信すらある。
「やっぱり消耗品の方がいいかなと思うんだけど、でもあんまり高価なもので外したら処理に困るのは同じだろうし」
此方の思惑など気づきもせず珍しく饒舌に取り繕うとする言葉は恐らく前々から悩んで悩んで紡いだものなのだろう。優等生でありながら人一倍恐がりで常に悩みを抱え込む様子は中学の頃から変わらない。
「えー…ていうか火神っちに直接訊いてみりゃいいじゃないスか」
わざとらしくちゃちゃと入れると面白いほど解かり易く肩をびくりと強張らせる。そんなんだから皆にからかわれちゃうんスよー。すぐ貌を紅潮させるところも、意地悪されていると知っていて困ったような上目遣いも。こんなのアイツに対するただの八つ当たりなのに。
「あーあ!あーあ!にしても意外スよねーホントやられた悔しーッスわー」
べたっと二人分用のちっさいテーブルに倒れるようにへばりつく。店内ガンガンに効かせた冷房の所為ですっかり冷やされたテーブルが素肌に伝わる。体面を気にして彼女が周囲に視線を転じるも、適さか人の少ない店内の隅の隅っこの席のオレ達を気にするものはいなかった。しかしなんでよりによってアイツなのか。青峰っちのことはあんなに苦手だったのに。
「えっ、全然似てないよ?そ、それに青峰君嫌いじゃないけど…意地悪でエッチだから…」
何を思い出したのか目線を忙しなくあっちこっちさせながら汗のかいたグラスを撫ぜる。中学時代さんざセクハラされまくってたことをアイツはまだ知らないんだろうな。教えてやったらすげー面白いんだろうけど、彼女が可哀想な目に合うのは目に見えているのでオレも今は触らない。オレは彼女の味方だ。今も昔も。彼女がそうだったように、彼女に対する思い入れは恩返しに近い。オレも男だし、これでも一応。下心が全くないと言ったらもちろんノーだ。この子の前じゃいい子ちゃんだから言わないけれど。
「なんか、黄瀬君意地悪になった…?」
火照った頬が熟れたリンゴのように可愛らしい。戸惑うように眉を下げて控えめに首を傾げられては、愛と嫉妬をシャッフルした笑顔を贈った。

(強いて言えばちょっと一緒に居る時間を引き延ばしたいとか思っちゃういじらしい男心じゃないスか!)
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