初心 | ナノ




目が眩むほどの金色の髪。こんな天気だから余計刺すように輝いている。背丈は彼と同じくらい、どこか飄々とした独特の雰囲気に遠慮ない視線を送ってしまう。ばちりと幻聴が聴こえるほどしっかり目が合えば投げキッスをもらった。
などということがあったのが数十分前。明らかに挑発でしかない恐らく隣の恋人へのあてつけなのだろうけど、彼にとっては意味のない。大袈裟に大きい舌打ちに顔を向けると予想通りのきつい眉間の皺が視界に入り、此方は逆に眉を落とす。
「邪魔してごめんね」
「は?」
「なんかいい空気だったから」
「キモい事いうんじゃねえよタコ」
「でも、」
入り込めないものなのだと思い知った。もし私が男だったらとこれも何度繰り返したかわからない負け惜しみ。
「少し妬いた」
「おまえ自分が誰の女か解かってんのか」
返事を返すより先に強く肩を掴まれ強引に貌を向かされる。手加減の無いの視線に刺され誤魔化すように笑う。正直彼の鋭すぎる眼差しは少し苦手だった。本人には言えないけれど、やはり知ってるんだろうな、未だに捨てられない初対面時のトラウマ。
「言えよ、へらへらしたって逃がすわけねぇだろ」
粗暴で軽薄な表面を剥がせばとても情の深い真剣な彼の貌に心臓が騒ぐ。でも真っ赤な舌とちらりと除く歯をみて暢気に可愛いなんて思う。
「好き」
大きく口を開けてその名の通り塞ぐように口づけられた。呼吸をする間もなく出口を塞がれたことに無意識に身を退くも、いつの間に回わされた彼の手が後頭部を固定して逃げられない。遠慮ない触れ方に見ずともクシャクシャにされた自身の髪が目に浮かんだ。閉ざした視界から、ちゅ、と似合わないかわいらしい音が響く。
「……馬鹿野郎」
目の前でにやっと口の端を釣り上げるイヴァンをみて、きっとその通りだと思った。全てを受け入れられずとも、好きなところが解かっていれば。例えば部下を激励する声だとか、絡めれば嫌がる癖にはね退けようとしない指先とか。
「冷てぇ」
「ごめんね」
でも振りほどこうとしない。逆に冷えた指先が更に血の巡りが悪くなるんじゃないかというほど、拘束するように握られる。折れたらどうしよう。責任とってくれたら、なんてそんな勇気も無い癖に。

初心/20120715

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